世間はそれを〇〇って呼ぶんだぜ
「お疲れ、チンピラちゃん、茶でもしばきに行こか」
会社を経営しているパパリンの仕事を少々手伝って、終わった旨を伝えると、パパリンは人好きのする笑顔を浮かべ、私を喫茶店に誘った。
いかついワイルド系だが、優しくてマメな人なのだ。多分、女性に対しても色々マメすぎるのだろう。
ご馳走してくれると言うので、私はチョコレートケーキのセットを頼んだ。お互い注文した飲み物が来ると、パパリンは給仕してくれた女性にも丁寧に礼を言ってカップを持ち上げた。
「こないだ風邪引いちまってなあ」
「大丈夫っすか」
「寝たら治ったから大丈夫や。昔は一晩で治ったけど、最近は少し時間かかるな。年は取りたくないもんやで」
「そっすね」
「ははは、チンピラちゃんはくーるやな」
「どうも」
実はケーキに夢中で話半分で聞いていただけなのだが。パパリンは珈琲を一口すすって、窓の外を眺めた。外は明るい日差しが降り注ぎ、店の前の可愛らしい花壇には、季節の花々が咲き乱れている。
「そういえば、昔ちょっと無茶して入院した時は、おねえさん達がお見舞い持ってタクシーで駆けつけてくれてな」
「はあ」
またおねえさんか。便利な言葉だ。今度はどのおねえさんだ?私は話の展開に用心しながら、慎重にケーキの角にフォークを入れる。
「俺があちこちの
「ふぁ!?」
「ん?」
「いや、なんでもないっす、続けて」
「お水のおねえさん達にようけ可愛がってもろて……あ、ママンに会う前やで?」
「ふんふん」
今までの経緯を聞くに、前でも後でもそう大した違いはあるまい。そんなことよりケーキが美味しい。上にかかったコーティングのビターチョコ、中のココア生地、間のガナッシュとベリーのソースがよく合う。
「みんな一斉に見舞いに来たもんで、煩いって看護師に怒られて、おねえさんの1人が個室用意してくれたんや」
「すげえ。みんなのアイドルっすね」
つまり、現在で言うとパパリンは元・歌い手で投げ銭してくれるファンがいっぱいいたということか。
「放蕩して一時期オヤジに勘当されてたから、おねえさんにはその後の面倒も見てもらったわ」
「ヒモっすか」
「がははは、ちゃうわ。ちゃんと歌って稼いでたし、住む家がなかっただけや」
そういうのを世間では……。いや、みなまで言うまい。昔はどうあれ、今はちゃんと会社を経営して家族を養っているのだ。
「おねえさん達の
「……ご無事で何よりっす」
もうだめだ、ケーキの味が分からない。私は諦めて珈琲を一口飲んだ。話し終えたパパリンはのんびり珈琲を楽しみ、低い声で鼻唄を歌いながら窓の外の花を眺めていた。
たしかに歌上手いけどな!?パパリン。
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