まんじゅうこわい
超絶お嬢様だった義母の言うお茶会とは、よくある西洋式のものではなく、本格的な茶道に則ったものだ。足が痺れるから正直お茶会は苦手だ。だが、いつものようにお願いされると、つい言うことを聞いてしまう。
小さな庭に面した和室に
私が準備を終えると、義母はなぜかピンクの花柄割烹着を着て現れた。着物じゃないのか、と思っていると、自然な歩みで道具に近づき、流れるような所作で座った。
日頃ポヤポヤしていても、そういう仕草が美しいところは流石お嬢様と言うしかない。流派は裏か表か忘れたが、
「ええと、どうやって飲むんでしたっけ?」
「そんなの気にしないでお茶は美味しく楽しく飲めばいいのよぉ」
「そうすか。じゃあ、いただきます」
「お菓子も召し上がれ」
そう言って義母が出したのは白くふわふわとした綿毛のような丸い和菓子だった。正式なお作法通りではないのかもしれないが、その美味しそうな饅頭を、私は
途端に口中に広がるカビに似た臭気と舌が痺れるような違和感。思わず咽ると、義母は心配そうに背中を擦ってくれた。
「大丈夫?チンピラちゃん。ほら、お茶飲みなさい」
「ゲホッゲホッ!つか、なんすか、これ」
「え?お饅頭よ」
「饅頭ってこんなでしたっけ?」
「そうねえ……頂いたの半年前だったけど、こんな色じゃなかったわ」
「おい。食べ物は腐ったりカビたりするんですぜ、ママン」
私は口の中に残っていた菓子を和紙の上に吐き出し、急いで口をゆすぎに行った。冷蔵庫に絶大な信頼を置いている義母は、食べ物を入れておきさえすれば永久にもつと信じている。
いつもは2台ある冷蔵庫をチェックして、ダメになったものはこっそり処分していたが、今回は忘れていたもう1台の方にトラップがあったのだ。
仕事?から帰って来た夫に昼間のお茶会の話をすると、夫は珍しく深刻な顔をして、私に言った。
「ああ、俺も何回も死にかけたわ」
ガチのまんじゅうこわいだな、ママン。
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