4潜り目
第39話 告白
「で、アニキとアネキは付き合ってるにょか?」
地下迷宮の中の隠れ家に帰ってくるなり、ラクが言い出した。
「私も気になるな」
ペル・エンケンちゃん。僕たちの伝令役として同行してるリュウくんパーティーの一人で、彼らの中で一番レベルの高かったクールな弓使いもラクに同意する。そして、こうも続ける。
「私としてはパイセンを先生に
「ちょ……ペルちゃん何言ってるの!?
「にょ? ボクは全然いいにょ? むしろアニキの子を産めるなら大歓迎にょ」
「ラクも変なこと言わない!」
ほら~、ハルが変な目で睨んでるし……。
隠れ家の書斎の椅子に座った僕の左右から問い詰めてくるラクとペル。離れた位置にあるベッドに腰掛けたハル。そしてぽよ~んと大股開きでジャンプしてきたアオちゃんがちょうど僕の膝の上にバフンと着地して聞いてくる。
「おと~しゃまとおか~しゃまは付き合ってるゆ?」
「え~っと、おと~しゃまとおか~しゃまはね……」
アオちゃんも若干わかりにくいことを言い出すなと思いながら、はたして「付き合ってる」と言い切っていいものなのかどうか。だって雰囲気で一回キスしただけなんだし……。「付き合ってる」って答えた直後に「やっぱそういうのじゃなかった」なんて言われる可能性も……。なんて
「……カイト?」
ハルの刺すような、それでいて粘りつくような。どことなく不安げな声に「は、はい」と、僕はおっかなびっくり返事する。
「……るんだよね? 付き合って……るんだよね、私たち?」
あぁ……。
上目遣いの僕のラブリーなハルがめちゃ可愛い……。
そしてこれは……「うん」って言っていいやつだよな?
そうだよ、キスしたんだもんね、いいよね?
これ、「付き合ってる」でいいんだよね?
僕は「うん、そうだよ」と口に出かかったのをぐっと飲み込む。
「いいや、僕たちは付き合ってないよ」
「そう……なんだ……」
この世の終わりみたいな顔をするハル。
あぁ、ごめんハル。そういうわけじゃないんだ。
「
ハルのハッとした顔。
僕はハルの前に立つと手を取って続ける。
「ハル。僕はキミのことが好きだ。初めて会ったときから可愛いって思ってた。ステータスの中に入ってもっと好きになった。すごく優しくてあったくて前向きなとこが好き。ハルのおかげでこの数日、僕も頑張ってこられたんだ。ハル、よかったら僕と──」
ハルの瞳に涙の湖が溜まっていく。
「付き合ってください」
後ろでラクたちが息を呑む音が聞こえた。
と同時に、ハルの瞳から涙が海となって流れ出てきた。
ただでさえ綺麗なハルの顔が、さらに魅力的な満面の笑みへと変わっていく。
「……うん! こちらこそ付き合ってください。私もカイトのこと、大好きだよ! 大好き! 心の底から好き! ずっと一緒にいたい!」
背後からラクたちの「ふぅ~」っと息を吐く音。
僕はそのままハルの手を引いて立ち上がる。
振り返るとラク、ペル、アオちゃんがニマニマとした顔で笑っていた。
「え~、ということで僕たち付き合うことになりました。よろしくお願いします」
「よろしく!」
ハルがそう言って一歩僕に身を寄せる。二の腕が当たる。ぷにっとした柔らかい感触。ゴチンっとブーツも当たった気がする。えっと、付き合うってことは、これからこれくらいの距離まで近づいてもいい、触れてもいいってことだよね……? って思う。ちょっと新鮮な感覚。空気が弾んで見える。握ったハルの手のひらが熱い。溶けて一つになっちゃいそう。
「あ~、これはパイセンの付け入る余地なさそう……」
「にょ。壁が厚すぎるにょ」
「おと~しゃまとおか~しゃま、結婚?」
ハルの手のひらの温度がさらに上昇した気がした。
「結婚はまだ先かな」
「ゆ! アオも手握りゅ!」
「はいはい」
そして僕を中心にハル、アオちゃんと繋いだ手は、アオちゃんが差し出した手をラク、ペルも握って、なぜかみんなで輪っか繋ぎに手を取り合ってなんだかおかしくてクスクスと笑いあった。気が緩んだからかラクがたぬき姿になる。
なんだろう。
僕の胸に中にだけあったぽわぽわな気持ちが外側まで広がっていく感じ。
これ、僕の気持ちがみんなと共有されてるってことなのかな?
なんにしろ、ここ数日の僕のふわふわしてた気持ちがしっくりと根を下ろしたような気がして、僕はとてもすっきりとした感覚を覚えていた。
こうして思わぬ告白からの交際宣言を果たした僕らはひとしきり笑い合ったあと、ロンからの依頼──地下迷宮へと姿を消した魔薬の売人「ビンフ」探しへと取り掛かるのだった。
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