第38話 魔薬の出どころ
「魔薬の出どころが判明した」
冒険者ギルドの応接間に入るなり、ギルド長ロンがそう告げた。
「ダンスキーたちが吐いたんですか?」
床に正座させられてるゴーディーとダクロスを横目に、すすめられるまま席につく。
「では、自分はこれで失礼するっす!」
僕たちを連れてきたリュウくんは大役を果たしたとばかりの満面の得意顔で応接間をあとにする。
ロンはそんなリュウくんに軽く目で挨拶したあと、言葉を続けた。
「いや、わかったのはそっちのダクロスからだ」
ダクロス。
GDペアの魔法使い。
シュンとした顔でしおらしく俯く全身黒革ボンテージの彼女は、まるで公然の場で叱られてる変態さんみたいで滑稽だ。
「へぇ、もしかして
「そうだ。それが魔薬だったってわけだな。ったく、こうも偶然魔薬の手がかりをつかめるとは、運がいいと言っていいのか。それとも……」
いつの間にか応接間に入って来たメラさんがロンの後を続ける。
「よほどこの街の冒険者の間で魔薬汚染が進んでいるか、ですね」
メラさんの後ろからリュウくんの妹、ピンク髪のリムちゃんがおぼんにお茶を乗せて入ってきた。緊張してるのか少し危なっかしい。
「リムちゃんも残ってくれたんだね。嬉しいよ」
「えへへ、憧れのカイトさんとラクさんたちの活躍を見たいですからね。ここだと危険もなさそうですし、私たちでも務まるかなって」
「うん、ありがとう。これからよろしくね」
「は、はい! こちらこそ全力でサポートさせていただきますです!」
こほん、と咳をしたメラさんが「挨拶はそれくらいで。今、重要機密情報の話をしてるの。わかる?」と小声で注意を促すと「は、はい! し、失礼します!」とリムちゃんはガツンゴチンと足や頭を壁にぶつけながら慌てて出ていった。
「にょ。魔薬って何にょ?」
「ああ、ラクは前いなかったもんね。魔薬ってのはね……。魔薬ってのは……えっと……あれ、なんだっけ?」
「なんかヤバいやつ? 悪魔になってたよね? カイトがすぐに倒しちゃって消えたけど」
「ゆ! 悪魔とでっかい迷路の中で戦ったゆ!」
「? まったく伝わってこないにょ……」
見かねたロンが助け舟。
「あ~、魔薬ってのはな、理性を失う代わりに強大な力を手にするという禁断の秘薬だ」
「にょ! なら理性がいらない人にはメリットしかないにょ!」
「それがそうでもなくてな。魔薬を摂取してから時間が経つと悪魔になってしまうんだ」
「じゃあ悪魔になりたい人にはうってつけにょ」
「そんな奴いないと思うんだ……」
「そうかにょ? いそうだけど。ねぇ、二属性の魔法使いさん?」
急に話を振られた黒革ボンデージ、ダクロスは「ヒィッ──!」と悲鳴を上げる。
「なに!? 悪魔!? そんなの知らないって! ただ私は『副作用はあるけどすごく効くポーション』としか説明されてないわよ!」
「説明……。その説明をした人物が魔薬の売人ってことですよね?」
「そうだ。で、ダクロス。その売人についてもう一度聞かせてくれ」
「も~、何度同じこと言わせるのよ! だから名前は知らないって! 紫色の髪のエロそうな女よ! 体にピッタピタの服着た色情狂みたいな女! それ以上知らないってば!」
紫髪。
色情狂みたいな女。
僕はその条件に当てはまる人物に一人だけ心当たりがあった。
「……ビンフ?」
僕と入れ違いにダンスキーたちのパーティーへと入ったバッファー。
たしか僕を迷宮に置き去りにしたことには関与してないからってすぐに釈放されたはず。
もし彼女が魔薬の売人だとすれば、ダンスキーたちの称号が「魔薬中毒」になってたのにも筋が通る。
「で、だ。そのビンフについてお前たちに頼みたいことがあってここまで来てもらったわけだ」
「はぁ、なんでしょう」
「冒険者たちの目撃談によると、どうやらビンフは大量の魔薬を持って地下迷宮へと消えたらしい。しかも一人で、だ」
「はぁ」
ロン──エンドレス史上最強の男が深々と頭を下げる。
「頼む! お前たちの力でビンフを捕まえて欲しい!」
「え? なんで僕たちが? もっと適任者がいるんじゃ……」
「いないのよ」
「へ?」
メラさんはため息まじりといった感じで冷静に言葉を続ける。
「今、このエンドレス最強の冒険者はあなた達なのよ、カイトくん」
………………。
「はぃぃぃ!?」
それから
受けてしまった。
僕たちパーティーの初
『魔薬の売人ビンフを探せ』
決め手は報酬の前払いだったよ、うん……。
チャリ~ン。(財布の中に硬貨を入れる音)
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