第37話 アニキ!
※ たぬき獣人のラクの一人称を「私」から「ボク」に変更しました。
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「なぁアニキ? これ食っていいかにょ?」
アニキ。
ダンスキーたちとの戦いが終わってからたぬき獣人のラクはなぜか僕のことをそう呼ぶようになっていた。
「食べていいし、いちいち許可を得なくていいよ。みんなからの奢りなんだし」
今日の昼はギルド職員のメラさんに奢ってもらおうと思ってたわけだけど、
ってことで「ごめ~ん、無理! また今後ね! きゃぴりん☆」byメラさん。
さて、そうなると腹ペコ一文無しな僕たち。
仕方がないのですぐに換金可能そうな
「あんたらのおかげで一儲けできたぜ! これで半年は働かずにすむよ!」
「スカッとしたぜ! なんか奢らせてくれ!」
「
もみくちゃにされた挙げ句……こうして飯屋に連れて行かれて昼飯を奢ってもらえてるわけ。
う~ん、急に持ち上げられる気持ち悪さを感じつつも背に腹は代えられないわけで……。
ってことで圧倒的な感謝! をしつつもぐもぐ……。
美味ぁ~い!
パンに卵! そして昼間っからのエール! 最っ高!
半日ぶりのちゃんとした食事はやっぱり身にしみるぅ~!
ふぅ。お腹が一息ついたところでラクに尋ねる。
「てかアニキってなに? 一個しか年違わないんだからやめてほしいんだけど」
「一個は大きいにょ! それにボクのためにあんなにかっこよく戦ってくれて、強くて頼れて、こんなにご飯もいっぱい食べさせてくれる、まさに私の探していた理想のアニキにょ!」
理想の……アニキ。
どうやら僕はそれに当てはまってしまったらしい。
「そもそもボクは舎弟気質にょ。誰かの下でノビノビ暮らすのが向いてるにょ。でも地元ではボクのことをやれ天才、やれ奇跡だと持ち上げてくる連中ばかりで……。で、理想のアニキを見つけるためにこうして街に出てきたわけにょ」
「で、迷子になってたってわけだ? 三年間も」
「にょ……そのとおりにょ……。でもこうして頼れるアニキと出会えたからオッケーにょ! 無駄な三年間じゃなかったにょ! あれはアニキと運命的な出会いを果たすための必要な三年間だったにょ!」
むだに前向きなラクはキラキラと目を輝かせて「頼れるアニキ」らしい僕に必死にアピールしてくる。
「ラクと会えたのは全部ハルのおかげだよ。ハルがいなかったら隠し通路にも気づけなかったし、アオちゃんとも会えなかった。そして隠し部屋にも行けてないし、ラクとも出会えてない。そもそもハルがあの高い幸運値で石を投げなかったら、透明なラクを捕まえることは出来なかったでしょ? ってことで感謝するならハルにどうぞ」
急に話を振られたハルが口いっぱいにパンをつめたまま狼狽する。
「ふぇ!? そんな、私はただカイトに言われるまま頑張ってきただけで……」
「アネキ! ハルアネキと呼ばせてもらうにょ!」
「ア、アネキィ~!? ちょっとカイト……」
「無駄、諦めよう」
「そんなぁ〜!」
人間モードのまま、もう完全に舎弟モード「舌ヘッヘ」「尻尾ふりふり」状態になってるラクを細目で見ながら僕は「フッ……悪いなハル、道連れだ」とかすかに遠い目をしつつほくそ笑んだ。
「にしてもアニキはほんとすごいにょ! アニキのバフでいくらでも魔法撃てる気がしたにょ! あと体もなんか元気にょ!」
「ああ、魔力を倍。頑丈さを四倍くらいに上げてるからね」
「四倍にょ!? ボク、元の四倍元気にょ!? さすがアニキにょ! 人間離れした神バッファーにょ~!」
「やめてよ、僕はそんなにすごくないって。スゴいのはおそらく世界一の幸運の持ち主ハル、それからたぶん魔王クラスの力の持ち主アオちゃん、そしてあらゆる魔法を習得可能らしい天才のラク、キミたちだよ」
ぽふっ。
褒められたラクがたぬき姿になる。
ふふふ、そうだろう。
恥ずかしいのだ、褒められると。
僕がさっきから向けられてるその恥ずかしさ、ラクたちもとくと味わうがよい~。
見ればラクだけじゃなく、ハルもアオちゃんも急な褒めらられに動揺して顔を赤く染めている。
にしてもだ。
じぃ~。
たぬき獣人姿のラクを観察。
あのしっぽ。
ラクの黒いローブの下からぴょこっと覗いたもふもふとした、しっぽ。
短くて太くて白くてふわふわ。
どんな……感触なのかなぁ。
触ってみたいなぁ……。
でも女の子のしっぽだからなぁ……。
う~ん……。
そわそわ。
グビとエールを煽った僕は「よし」と決心。
ごめんラク、誘惑に逆らえないよ……。
さわっ。
「にょっ!?」
手触り、
さわわわわ~。
「にょにょにょにょ~!? ア、アニキぃ~!? そ、そんなに優しく撫でられたらボク……ボクぅ……うじゅぅぅ……」
目をぐるぐると回すラク。
「あ、ラクちゃんかわいいよね~! 毛並みもふわふわ! うふふ!」
「ゆ~! アオもラクのたぬ毛並みすきゆ~!」
ハルが耳を、アオちゃんが服の下にぬるりと潜り込んでお腹を、共にさわさわ。
三人によるさわさわ三点攻め。
「ひゃわわわわ~~~! らめぇ! そんなに激しくしたらダメらにょ~~~~~~!」
頬を紅潮させて身悶えたラクは、魂が抜けたかのように急にぐたぁ~と虚脱。
そして、そこにラクの地元の後輩リュウくんが登場。
「あれ? リュウくん、なんで? あの後帰ったんじゃ?」
「いえ、俺ら結局冒険者ギルドで雇ってもらうことにしたんすよ! ほら、ここだったら先生とパイセンの活躍を最前線で見れるじゃないっすか!」
ああ、そういうこと。
そこまで本気で僕たちを「推して」くれてるわけか。
これは……うかうか変なところを見せられないな。
これからは応援してくれてるリュウくんたちに胸を張れるように生きていかなきゃだ。
「そっか! 残ってくれて嬉しいよ! 僕としてもリュウくんたちとこの先も関わっていきたいと思ってたからね!」
「こ、光栄っす! 頑張ります! あ、っつっても当分の間は使いっ走りみたいな感じみたいっすけど」
「てことは、今も何か使いっ走ってるのかな?」
「はい! 先生、パイセン、そのお仲間の皆さん! ロンギルド長がお呼びです!」
GDペアかダンスキーたちのことでなにかわかったのかな?
そう思ってみんなの方に視線を向けると。
「うじゅぅぅ……リュウにだけはこんな情けない姿見られたくなかったにょ……」
テーブルに突っ伏したラクが、己の果てた姿を後輩に見られ羞恥にあえいでいた。
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