第34話 ラクの実力
「
メラさんの声が響き、ざわついていた野次馬たちが静まり返る。
静寂の中、ゴーディーは先の応接間で見せたようなつむじ風然とした高速の移動を──見せなかった。
否、
完全にかまいたちの姿となったゴーディーは二本の腕の鎌を構え、ゆっくりと一歩ずつ距離を詰めていくる。
(素早さを思いっきり減らしたからね。あの俊敏さはもうないと見てよさそうだな)
「どうした? 秒で片付けるんじゃなかったのか?」
「焦んなって。そっち着いたら秒だからよ」
「たどり着けなかったりして」
「テメェらがビビり散らして逃げ出さなかったらな」
「逃げる? ないね。逆に僕らはお前たちを逃さないよ」
「誰に向かって口聞いてると思ってやがる、この……って、ダクぅ! 今だ、やれぇ!」
ゴーディーが叫ぶと、後方で詠唱を続けていたダクロスが杖を振る。
「
修練場の砂が一瞬で巨大なゴーレムへと変異し、僕たちを影で覆う。
「ぎゃははっ! 見たか! 俺は囮なんだよ馬鹿が! テメェが話に付き合ってくれたおかげでうちのダクの詠唱が完っ了! 最強のゴーレムが二体! しかも二属性同時だ! これで宣言通りお前らは秒で……」
パシュン──。
「……へ?」
目を丸くするゴーディー&ダクロス。
それもそのはず。
だって、ダクロス肝いりのゴーレム二体は──。
「な~んだ、こんなもんかにょ。御大層にもったいぶってたから、ちょぴっとだけ期待してたにょ」
だるそうにフッと指先に息を吹きかけるラク。
その彼女の魔法で──。
撃ち抜かれちゃったんだから。
「なななな、なんなのよそれは~~~~! ありえない! 絶対ありえないんだから! 二属性のゴーレムを同時召喚よ!? 普通の魔法使いなら一体召喚するのも精一杯なゴーレムを二体同時! しかも二属性! それを……はぁ!? なに!? 一瞬で……!?」
「なにをそんなに大騒ぎしてるにょ? 二属性なんて大したことないにょ」
「大した事ないってあんた口だけは達者のようね! どどどどうせ今のはまぐれよ! そうに決まってる!」
「まぐれじゃないにょ。火と土魔法の使い手なのは見ればわかってたにょ。だからあとは『核』を探して、弱点魔法を当てればそれで終わりにょ」
「はぁぁぁぁ!? 核を探し出すぅぅぅ!? そんなこと超一流の魔道士にしか出来るわけないじゃない! それに弱点魔法を当てるですって!? ちょうどあんたが運良く水と風魔法を使えたとでもいうわけ!? さっきも言ったけど、魔法使いが使える系統は通常一系統だけ! あんたの風魔法はさっき見たけど、水は……」
「六系統」
「は?」
「六系統使えるにょ。そんなに珍しいことでもないにょ?」
ざわっ……。
なんの気なしに言ってのけるラクに野次馬たちがざわめく。
「六系統?」
「今、六系統って言ったか?」
「嘘だろ? ありえねぇって……」
「六系統使える魔法使いなんて伝説にしかいねーよ」
「ハッタリだ、ハッタリ」
「でも実際にゴーレム二体を瞬殺したけど」
「……だよな」
「ってことは……」
「おいっ! オッズ! ガキどもの方に今から乗り換えられるか!?」
「お、俺も! 向こうに乗り換えだ!」
「ダメだよ、もうとっくに締め切ってる」
「そんなぁ~……!」
「いや、てかマジ六系統使えるんだったら……」
「え、新たな伝説を目の当たりにしてるってこと?」
「あのガキの言ってることが本当ならな」
「にょ~、ほんっとみんな疑り深いにょね……」
ダクロスがガチャガチャと腰から下げた小瓶をいくつか手に取って飲み干す。口から溢れ出した青臭い匂いからそれがポーションであるとわかる。
「ふ……ふふふ……いいわ……いいわよ、やってやろうじゃないの。私の魔力が尽きるまで何回でも何十回でも! さぁ、まぐれは何回続けて起こるのかしらね!? 備蓄はどう!? こっちはバッチリ! とっておきのヤバそうな秘蔵のポーションまでたぁ~っぷり備えてるからアナタが泣いて謝るまで……」
「あ~もう、うっさいにょ」
ズズズっ……。
ラクがロッドを振るうと、地面から
「……は?」
「もちろん全部別系統にょ。こんなの難しくもなんともないにょ」
「うそ……こんな……そんな……ありえない……あるのこんなこと……? これが本当の……」
天才。
そう呼ばれるわけだ。
(格が違いすぎた、か)
ダクロスは持っていたポーションを地面に落とし、そのまま腰を抜かしてぺたりと座り込む。
六体のゴーレムが戦意喪失したダクロスを大きな手でそっと包む。
その手の隙間から漏れてきたポーションが修練場の砂に染み渡り、地面を緑色に染めた。
【ダクロス・エンリケ
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