第2話
「よくわからんが、お前は誰よりチャーミングで、勤勉な自慢の娘だ。自信を持って行ってくるんだ」
オリヴィエの父は伯爵家の人間だが、商家出身の母を娶り、自身も若いうちから商売に勤しんでいた。
数年前に、商品を国外へ輸出する為の貿易商を設立した。
王国では国教会が幅を利かせていることもあり、外国から輸入される品は中々手に入らない。
だがシャルルは国王や貴族との交流も深い。
シャルルはその縁から商売を始めた。
王国内でも貴重な鉄鉱石や希少な香辛料など、アルディア帝国では手に入りにくい品を仕入れ、その品々を国内外に流通させてきた。
おかげで他国からも多くの商人が訪れ、売り上げも上々だ。
シャルルは、その商売の手腕から、アルディアでは「王国の金貨」と呼ばれている。
「ほら、もう時間だ。皆が待っているぞ」
シャルルに促されて、オリヴィエは一歩を踏み出した。
(そうよね。私が痛い女であろうとなかろうと、聖女になれば堂々とルーカスの伴侶になれるのよ)
様々の出店が軒を連ねてお祭り然と化した広場から、聖堂に足を踏み入れる。
荘厳な聖堂は、大勢の人で溢れていた。
聖女選定の儀は、この国の者なら誰もが知る、一大イベントだ。
祭壇の前には、若い娘が列をなして並んでいた。皆、戸籍を元に作成された黄色の紙片を手にしている。
紙片には、名前と居住区、年齢が記されている。その者が満13歳を迎えている証だ。
オリヴィエは、シャルルに渡された黄色の紙片を握りしめた。
シャルルに手を振って列に加わると、周囲の注目が集まった。
「あの方が、シルバーモント家の……」
「では、次期聖女はあのお嬢さんか」
「美しい、あの娘さんが……?」
人々の囁き合う声が耳に届く。
アルディア王国は多民族国家だが、銀色の髪は珍しい。
重ねてシルバーモント家と聖女の繋がりの深さから、オリヴィエに注目する者も多い。
その彼女が、とうとう聖女に選ばれるのだ。人々の期待は、最高潮に達していた。
(それにしても、凄い人……)
これだけの人が集まっているのに、聖堂の中が薄暗いせいだろうか?
厳かな雰囲気が漂う中、オリヴィエの心は不穏な気配に侵されつつあった。
「それでは、次の方」
オリヴィエの番が来た。祭壇に上がると、否応なしに、聖堂内にいる全員の注目が集まる。
「オリヴィエ・シルバーモントさんですね」
祭壇に立っていた神官が告げると、周囲からどよめきが上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます