32.真の継承者
やはり正門の方でドンパチ騒ぎが繰り広げられていて裏門はともかく城壁の警備は手薄くなっていた。よく見ると変な模様があるのでおそらく城壁には罠があるのだろうが、僕もハルの盾も空中の行動に制限は無い。誰にも見つからないままとりあえず高い場所へ空中から侵入した。
廊下は静か、しかし目の前の大きな扉の中からは慌てている声がいくつも折り重なって聞こえる。
一度目配せしてから、ハルが足で蹴って扉を派手に開けた。
「ハル、ちゃんとノックしないと失礼ですし、足は流石にお行儀が悪いです」
「今その倫理観要る?」
「心の準備がまだなのに……!」
「豪華なお部屋だねぇ」
「倫理観を捨てたら人として終了です。テイクツーと参りましょう」
一度閉めて、今度は僕が礼儀作法に則って入室した。
「ヒビキも一旦休憩してからに――」
まだ覚悟のできていないアメリアさんのためにも、後戻り出来ない形に持っていった方が良さそうだ。
「初代国王よりその素晴らしき血を受け継ぐ、真の正当な王位継承者、アメリア・フォン・グランセル様のおなーりー!」
「おなーりー」
カナタさんものってくれて、アメリアさんを中央に、左右に分かれてピシッと背筋を伸ばしてアメリアさんに進むよう促した。
未だ唇を噛み締める彼女の横から、ハルがバシッと背中を叩いた。
「お姫様、ここで胸を張らなきゃ!」
「ハル……そうね!
アメリアさんは胸を張り、隠していた赤い髪の毛も顕にして不敵な笑みを浮かべながら、静まり返った重鎮っぽい人達の前を通り過ぎ、玉座にいる王と王妃の前に躍り出た。
「アメリア……」
驚いている国王に、アメリアさんはビシッと指差した。
「初代国王の血を色濃く受け継ぐ者として言うわ! この国を脅かす宰相と、その操り人形にはその玉座を空けてもらうわよ!」
その宣言を受け、アメリアさん側の僕らを除いて全員が硬直した。国王と王妃以外は何の事だと国王の反応を窺っている。
この様子からしてこの場には宰相、シアントス辺境伯は不在らしい。
「成長、したのう……」
「そうね……」
「大切な友人もできたもの、当然よ。それで、大人しく退位してくれるわよね?」
「そうじゃな。王になりたいと思っておらん他の子供達よりは覚悟を決めたアメリアの方が相応しいやもしれぬな。……だが、ダメじゃ。今すぐこの国から逃げるのじゃ」
「そんなことできるわけないじゃない! 悪いやつが居るっていうのに――」
「アメリア、こっちへいらっしゃい」
王妃の言葉を受けてアメリアさんは彼らの近くへ向かう。そして親である二人は優しく彼女を抱きしめた。
「今まで不自由をかけた……どうか友達と楽しく生きるのじゃ」
「……嫌って言ってるの!」
アメリアさんは反抗期の子供のごとくそれを振り払った。
そして、その直後に国王の腹部から腕が生えた。
いや違う。背後から人が現れて腕で簡単に貫いたのだ。突然現れたその人物は、ボロボロになったクレイナさんとレルさんらをその場に捨てた。
「ハル!」
「分かってる!」
ハルの盾で強引に割り込ませ、そして盾2つで挟んで重症の国王達をこちら側に移動させる。
呆然状態から即座に戻ったアメリアさんとカナタさんの【回復魔法】で何とか繋ぎ止める。
僕がデッキブラシを構えると、初老の――《四滅の主-人滅》はチラッとアメリアさんを一瞥してからこちらを見た。
「覚醒もしていない薄い血の継承者なぞどうでもいいと思っていたが……まさか“源泉”を連れてくるとは。この裏切り者も巡り巡って役に立ったというわけか」
「……源泉?」
「本来ならメイド風情が口をきくなと無視するところだが――今は気分がいい。お前が背負っているその界滅王の娘だ。見れば分かる。彼女から受け継いだ、この世界の均衡を保つための圧倒的な
なるほど、お嬢様でなくともお嬢様の母君であるソヴァーレさんをエネルギーとして利用するつもりだったのか。
なるほどなるほどね。
――よし、こいつは殺さないと。
「ヒビキさーん? 一旦落ち着こ? ね?」
「私は至って落ち着いていますよ」
ハルが心配してくれたようだが、僕は別に我を忘れたりなどしていない。理性ある状態でぶちのめさないと気が済まない。
「冷静に、あの不敬者を処すのみです」
「まったく。メイド風情が戯言を――」
「【超強襲】【
「ぐ……馬鹿な!?」
とりあえず一割。HPバーは10本だから一撃で1本。
「――なんだ先を越されたか。シオレ、そこの力無き老害共を逃がせ」
「そういうシエラちゃんの方が老人でしょー? まあいいやはいはい、ここは戦場になるから逃げなー」
「よかった! ヒビキ達も来てたか!」
「うわ、明らかにヤバいやついる……」
シエラさんらも兵力を正面突破して到着したようだ。その上、いつもの大きな十字架を重症者3人の近くへ突き刺した。
「〖フルリカバリー〗……ほら、貴様らも邪魔だ」
「傷が……感謝する」
「あなた! よかった……アメリアも一緒に逃げましょう!」
「
アメリアさんもかなり風格が出てきた。
「仮面無しでも戦うに決まってるよ! この命が燃え尽きるまでねぇ!」
「権能は奪われたが、戦力が多いに越したことはないだろう。向こうにはまだ界滅教団の戦力がある」
どうやらあの仮面はやつから与えられていたものだったらしい。まあどうでもいいや。
「――ヴェネス、貴様何を企んでいる?」
「シエラ、か。懐かしい。だが今更出てきたところで遅いな。あれから吾輩は力を蓄えていた。そして準備していたのだ――その源泉を取り込み、天使も悪魔も、侵略者も! その全てを押しのけ世界を手中に収めてやるのだ!」
そんな台詞の最中、何も考えず突っ込んだペロ助の前には、遅れてやってきた他の5人の仮面の人達が立ちはだかった。
位置関係的に僕とお嬢様、ハル、カナタさん、アメリアさんと他で戦力が分断された形だ。
シエラさんとアーヤさんなら敏捷的にこちらに来れるだろうが、どちらも向こうのフォローをした方がいいのは明白。シエラさんに関してはあのクソじじいとは戦えないようだし。
つまるところ、こいつは僕らが倒す他ないわけだ。
禍々しい謎のホワホワとした何かが、空中に浮かんだヤツの元へ吸い込まれている。
「贄となるがいい! 【
おんぶ紐の中に居たお嬢様がフワフワとそちらへ僕ごと引き寄せられていく。ヤツの言葉通りならお嬢様を吸収して強くなるつもりなのだろう。
そんなこと、お嬢様をお守りするメイドとして許すわけがない。
「【共感覚体験】」
【
今にも吸い込まれそうだったお嬢様が重力に従ったことで僕も地に足をつけられた。
「メイド! お前の仕業だな! メイド風情が……!」
「メイド風情メイド風情って騒がしいですね。そんなにメイドに風情を感じてるならメイド喫茶でも行っては?」
「どの口で言ってんの?」
「メイド喫茶って知ってるのかなぁ?」
ハルめ、余計なことを言うんじゃない。
そしてカナタさんも変な疑問を抱くんじゃない。
「そこの王女、この剣を使え」
「わわっ……これは?」
「あいつの――初代国王の愛用した剣だ。今のお前なら抜けるはずだ。我が作ったのだが、まあくれてやる。好きに使え」
「……ありがとう! 見知らぬシスター!」
アメリアさんはアメリアさんで自分自身の手で戦う覚悟を決めたようだ。
「まあいい……全員殺してからじっくり取り込んでやろう!」
『ヒドゥンチェーンクエスト《王家を狙う魔の手①》を特殊クリアしました』
『BSPを20獲得しました』
『SKPを50獲得しました』
『攻略情報を分析――』
『ワールドクエストへの到達を確認。ヒドゥンチェーンクエスト3件が消失しました』
『一部ワールドクエストが消失しました。消失分の基礎報酬が送られます』
『BSPを130獲得しました』
『SKPを250獲得しました』
『――ワールドクエスト《人滅の魔導師》が特殊開始します』
『助太刀の《四滅の主-魂滅》アルフレッドが存在しません。クエスト内容が難化、報酬が変更されました』
========
ワールドクエスト
《人滅の魔道士》
第四幕
難易度:(☆7→)☆10
《四滅の主-人滅》アルヴェネスを討伐せよ。
基礎報酬
・BSP(30→)80
・SKP(50→)100
========
『《四滅の主-人滅》アルヴェネスが決戦スキル【
『【
『【
『【
『【
『【
『【
『【
『【
アナウンスの波の後、前の厳しい戦い同様景色が塗りつぶされるように変わった。
今回は川のような場所だ。雰囲気も含めて三途の川っぽい。水で足元を取られないように念の為空中を足場にしておこう。
新たに入ったBSPも合わせて全180を全てに割り振ってっと。相手は余裕をかまして、悠長に悪人顔で笑いながらこちらの様子を窺っていたので確認。
========
プレイヤーネーム:ヒビキ(R)
種族:
種族レベル:35/300
ジョブ:純メイド(2次)
ジョブレベル:11/50
└全パラメータ(BSP,SKP除く)10%上昇
満腹度:100/100
主従契約:リリィ様
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+進化ごとのレベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:18468/(18468→)20668[+50]《{(100+990+1750+6100+500)×1.1-50}×2》
MP:16665/(16665→)18865[+50]《(30+495+1750+5800+500)×1.1×2》
筋力:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
知力:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
防御力:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
精神力:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
器用:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
敏捷:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
幸運:(4221→)4661[+10]《(10+99+350+1160+500)×1.1×2》
BSP:(30→180→)0[+20]
SKP:(231→)531[+(10×2)]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):所作9 ・全能力上昇5・裁縫2・聖掃1
通常(アクティブ):修繕3・調理6・侮蔑の眼差し2・共感覚体験1・超強襲2
魔法:生活魔法4
ジョブ:清掃11
〈装備〉
頭{天破のホワイトブリム}
耐久値:100/100
・HP-50
胴{天破のエプロンドレス}
耐久値:100/100
・BSP,SKP除く全パラメータ2倍
足{天破のストラップシューズ}
耐久値:100/100
・【天蹴】
└常時空中を自由に歩ける。
武器{天破のデッキブラシ}
耐久値:100/100
・【
└武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。
CT:0秒
└セット効果:獲得SKP2倍
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
オリジナルスキル
【
効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。
デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。
通常スキル(P)
【所作】レベル:9 習熟度32/45
立ち振る舞いに補正がかかる。
【全能力上昇】レベル:5 習熟度:8/80
BSP,SKPを除く全パラメータ+500
【裁縫】レベル:2 習熟度6/10
裁縫関連の行動に補正がかかる。
【聖掃】レベル:1 習熟度0/10
掃除の行為に“毒”、“猛毒”や“呪い”、その他悪影響のある付着物の除去効果が乗る。
通常スキル(A)
【修繕】レベル:3 習熟度437/1000
素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。
CT:1秒
【調理】レベル:6 習熟度23/30
補正のかかった作業を行える。
・切る
・焼く
・蒸す
・炒める
更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。
(レシピ)
・{無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}
・{無表情メイド特製♡実家風肉じゃが}
・{無表情メイド特製♡片手間コンソメスープ}
・{無表情メイド特製♡片手間たまごスープ}
【侮蔑の眼差し】レベル:2 習熟度:18/20
視認した対象に5秒間“沈黙”を付与する。
CT:5分
【共感覚体験】レベル:1 習熟度1/10
自身の
CT:10分
【超強襲】レベル:2 習熟度14/100
視線を向けた任意の場所に転移した後、1~3秒後任意のタイミングで元の位置に転移する。
CT:10秒
魔法スキル
【生活魔法】レベル:4 習熟度27/30
・〖種火〗
種火を生み出す。
消費MP:1
・〖放水〗
水を放つ。
消費MP:3
・〖そよ風〗
そよ風を吹かす。
消費MP:4
・〖盛り土〗
土を地面に盛る。
消費MP:5
ジョブスキル(P)
【清掃】レベル:11 習熟度53/55
清掃の行動に補正がかかる。
========
さて、冷静に現状を把握した上でどうしても言っておきたいことがある。
「――お嬢様のメイドとして、害虫はこのデッキブラシで叩いて伸ばして、綺麗さっぱりお掃除してさしあげましょう! このお嬢様を狙う変態ゴミクズ老害め!」
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