25.天、破砕!
門をくぐって騎士の作ったドームに侵入する。
入った瞬間ありえない量の斬撃が襲ってきたが、それくらいの心の準備はしていたので走って回避。
追尾してくるのと行く手を阻むような斬撃合わせて10発、1秒間隔で地面に突き刺さった鎌から飛んできている。
その全てが防御無視の心臓を狙ったものかつ目では追えない速度。
――狙いが正確なだけに読みやすい。
常に僕を仕留めるための最適なものしか放たれていないから、自分とあの鎌の位置関係、相手の視点で最適な攻撃位置とタイミングをすべて予測すればいいだけだ。運動神経でも反射神経でも歯が立つビジョンは思い浮かべられないものの、予測と思考を使えばなんとかなりそうだ。
心臓以外には当たらないから別にそこまで動く必要も無いし。とりあえず心臓の位置だけに気を配れば問題無い。
慣れるためにもまずは歩いてゆっくりと沈黙を貫く騎士に接近していく。
ある程度近付いたところで騎士が動いた。
「【換装・2】」
違ったデザインの鎧、そして新しく刀を持ち出してきた。
「――〖抜刀〗」
はや
「……ぃ!」
何とか初撃を躱せた。ここからは攻撃頻度の増加と出処が別であるという点にも留意しないと。それにどういう条件かまでは不明だが、あの防御無視のスキルは
糸を盾に括り、それを引いて僅かな動きで攻撃を避け、門で相手の動きを振る。
ザルを通過する砂の粒子にでもなった気分だ。
張り巡らされる斬撃の網を心臓だけ通らせる作業。神経は使うが不可能ではない。
回避のために頭のリソースを割いているためこちらの攻め手は雑になるが……まあ【
「【
これであと4割、HPバーであと2本分。
攻撃の後隙はやはり狙われるので門で一度反対方向へ転移。
「――【剥】」
ここでまさかの一瞬で納刀と抜刀をして仕掛けてきた。
急いで糸を引くが間に合う気がしない。
「【不可思議な窓】」
そこに門の小さい版が現れ、飛来した斬撃がそこに消えていき――斬ッ、と騎士の背後に窓が出て攻撃を返した。
「物体以外はMPを大量に食うから嫌いなんだがな……」
「ナイス黒オジ!」
どうやら《黒》さんがやってくれたらしい。
今の自爆でHPバー2本目の半分が削れた。僕のとは違ってHPバーからみて半分の固定ダメージなのだろうか。
『《四滅の主-魂滅》アルフレッド(エンジェル)(Lv.????)の暴走状態が無くなりました』
騎士のスキルにバフを解除する効果でもあったのか、禍々しいオーラは消え、それと一緒にドームも自動追尾攻撃も消えた。
「【
「【
幸運なことに生じた隙をついて門で転移して一撃、残心の形でついでに2発叩き込む。反撃もきたが今更読みが外れるわけもなく躱せた。
――これであと一発。
「【決死場】」
『【
『【
最後の最後で騎士道精神というやつだろうか。
こちらに直進のみで最高の一撃同士ぶつけ合おうといった効果に思える。
「【
「申し訳ありませんが、私は騎士ではなくメイドですので避けさせて頂きます」
わざわざ相手の土俵で戦うつもりはさらさらない。
すり抜けない一撃を普通に滑り込んで躱し、地面を軽く転がりながら体勢を整えて立ち上がり、勢いよくデッキブラシを横にして跳んだ。
「【
最後くらいは、と華麗に慎ましく打ち込む。
騎士のHPバーはゼロ。
身体がいつもと同じ演出で砕けていく。
それと同時に鎧の色が黒に戻っていく。
「――感謝する。仕えるべき新たな主に害をなさずに済んだ」
「いえ。このような巡り合わせでなければお嬢様の良い武術指南役になっていたでしょう」
「フッ……そんな未来もあったかもしれぬな。…………メイドよ、天使含むあらゆる勢力がその御方を狙っている。あとは頼んだ」
「はい。必ずや世界最高のお嬢様にしてみせます」
「それなら……安心だ…………」
『《四滅の主-魂滅》アルフレッド(Lv.????)を討伐しました』
『――ワールドクエスト《魂滅の騎士》をクリアしました』
『BSPを80獲得しました』
『SKPを100獲得しました』
『種族レベルが上がりました』
『種族レベルが上がりました』
――――――
――――
――
もし本来の彼だったらきっと負けていたことだろう。あの連撃の中に防御無視以外の普通の攻撃を混ぜられていたらどうにもならなかった。
何故天使になったのかは謎だが、そのおかげで理性が無くなって助かった。
彼が討伐されたことで、荒野からもと居た草原に戻ってきた。アナウンスを聞きながら地面に突き立つ大鎌を眺めていると、少ししてペロ助達も合流した。ちゃっかりハルが盾で《黒》さんを取り押さえている光景も見える。僕もそちらに行こうとすると、気になるアナウンスが響いた。
『種族レベルが上限に達しました』
『種族進化が可能です』
『あなたの“軌跡”を確認します……』
「むむ?」
種族レベルが上限に達したから進化するらしい。
できれば人間はやめたくないのだが……
『進化可能種族から1つ選んでください。変更はできません』
========
進化可能種族
()内は必要軌跡条件
□超人族(種族レベル100以上格上のモンスターを討伐)
・種族レベル上限:200
・概要:強敵を打ち倒した英雄的人物のみが到れる境地とされている。
・パラメータ上昇値:H30/M15/筋3/知3/防3/精3/器3/敏3/幸3/BSP15/SKP5
□強人族(純人族の正統進化)
・種族レベル上限:150
・概要:ごく一部の純人族しか辿り付けない高位の純人族
・パラメータ上昇値:H20/M10/筋2/知2/防2/精2/器2/敏2/幸2/BSP10/SKP4
□狂人族(クエストを無視した)
・種族レベル上限:150
・概要:よく強人族と間違えられる、頭のおかしい高位の純人族
・パラメータ上昇値:H15/M15/筋2/知4/防1/精3/器1/敏2/幸1/BSP10/SKP3
□篝人族(パーティ外が要因の炎と共に戦った)
・種族レベル上限:200
・概要:火と共にある高位の純人族。全身が燃えやすい。
・パラメータ上昇値:H20/M20/筋1/知3/防1/精2/器2/敏4/幸1/BSP10/SKP3
□
・種族レベル上限:300
・概要:はるか昔は一定数いたが現存しない種族。正式に仕えるのには主に認められる必要があるため、この種族は世界でも指折りに強く万能とされていた。
・パラメータ上昇値:H50/M50/筋10/知10/防10/精10/器10/敏10/幸10/BSP20/SKP10
========
趣味的にも性能的にも迷う要素皆無だ。
『レベル上限まで変更できません。本当によろしいですか?』
「はい」
『陣営が固定されてしまいます。本当によろしいですか?』
「? はい」
『
なんだかよく分からないものの、お嬢様に仕えることには違いなさそうなのでそのまま突っ走った。
『未使用分の経験値を確認』
『種族レベルが上がりました』
『種族レベルが上がりました』
――――
――
『進化前の未使用分BSP545を先に消費してください』
上がり幅が変わるから使わせる仕様ということか。パラメータは9つあるので割って60あまり5。
今回の戦闘で敏捷の重要さが分かったのでそこにプラス5を割り振る。
完璧。これで残るBSPはクエスト報酬と進化後に貯まった分だから……これもしばらくは貯蓄しておこう。
「ヒビキ! この人どうしよう!」
「いや知りませんよ」
「モンスターじゃないしレベル上がらないからなぁ」
「そういう問題じゃないでしょ。これだから毛根も倫理観も捨てたハゲは……」
「やっぱり拷問タイムっしょ! カナタ興味ある!」
「ご、拷問? 実際に見るのは初めてだわ……!」
いやしないが。
「とりあえず尋問からでいいのでは?」
「じゃあ……目的を吐け! 命がおしくないのか! …………どう?」
ハルにやらせるとコントにしか見えない。
まあいいや。目的なんて今更聞くことでもないし――僕がやろう。
「ハルは一旦お口チャックで」
「
「というわけで代わりました、拷問官のヒビキです」
「……尋問という話ではなかったのか?」
「どうせMPが回復次第逃げるのでしょう? それなら手っ取り早くいこうと思ったので」
「そうか。目的はその王女の回収だ」
勝手に喋ったけどそんなこととっくの昔に知っている。ここで行うのは一つの確認と二つの質問だけだ。
「そんなこと知っています。そちらのトップはこの国の宰相、シアントス辺境伯で間違いありませんね?」
「……」
この沈黙は肯定と見なそう。
目を伏せている辺り探られるのも嫌らしいからね。
「では、次の質問です。先程のアルフレッド卿なる騎士は界滅教団による細工ではないと見てもよろしいのでしょうか?」
「まさかだな。界滅王の次に強大な力を持つとされている四滅の主をどうこうできるほど教団は万能ではない」
「やっぱり四天王的なあれなんだね! きたー!」
「騒がしいです。お口チャックと言いましたよね?」
「……んー」
要するに界滅王を総理大臣とすると先程の騎士は大臣のような立ち位置で、そんな地位の人物をどうこうできるわけがないということだろう。
教団のボスがその四滅の主とやらの可能性もあるからあるいはと思ったのだが――この様子を見るにもし起こしたのが辺境伯だとしても少なくとも下っ端には伝えていないようだ。
まあいいか。クエストの情報的に天使とかいう勢力の介入の可能性が高かったから別勢力の存在が分かれば十分。
「では最後の質問です。教団のボスはアメリアさんを狙って何をするつもりですか?」
「……さて知らないな」
嘘だね。そうでなければこれまで彼が身内の人命を優先して消極的にターゲットを無視ししていた理由が無くなる。
「〖盛り土〗〖そよ風〗」
砂を押さえつけられている彼の目の前に盛り、それを風で目に軽く吹き飛ばす。
「……っ! 目が!」
「うわぁー、やってることえげつな。バ〇ス!」
「マジヤバ!」
「これが拷問なの……!」
「今野生の大佐がいたくね?」
「あんたら全員黙ってなさいよ」
やかましい外野にアーヤさんが咎めてくれた。
まともな人は彼女と僕だけのようだ。まったく。
「それで、アメリアさんで何を企んでいるのですか? ……それとも質問を変えた方が良いでしょうか?」
「なに?」
「――アメリアさんを
「……!」
やはりビンゴか。
「……なぜそこまで行き着いたのかは疑問だが、重症の《赤》を放っておく訳にもいかない。茶番はこれで終わりだ」
「そうですか。色々聞けて助かりました。これで全容が掴めましたので」
彼はそのまま門を発動してどこかへ消えていった。またそのうち会えるだろう。
聞きたいことは聞けたし、いよいよステータスを確認しようかな。
「……ねぇヒビキ」
「ハル? 何かまだ気になる事でもございましたのですか?」
いつもよりも遥かにむすーっとしている彼女の真意が読めない。
「全容が掴めたってなに? どこからどこまでヒビキは知ってるの?」
「そうですね……アメリアさんにも今回の全てを話すべきでしたね。真実を知る覚悟はよろしいですか?」
当事者なのだから王都へ到着する前に教えておこう。もともとはどうなろうと知ったことでもないと思っていたが、お嬢様の情操教育でアメリアさんは一役買ってくれることだろうし盛大に“折れて”しまったら困る。
いい機会だ。全員に全てを明かすとしよう。
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