24.バーニングメイドVS《魂滅の騎士》

 



「――【魂狩りポーリュア】」



 ハルが攻撃を浴びた。

 唐突で全く予想だにしていなかった展開に声も出ずにいると、続け様に僕目掛けて凶刃が迫った。


「【魂狩りポーリュア】」


「――っ」



 速い。

 とてもではないが構えていない棒立ち状態から避けられそうもない。



「人の獲物をるんじゃないよ! 〖ファストポウク〗!」


 回避しきれないと極力重心を後ろに動かして致命傷だけは避けようとしていたのだが、まさかの助太刀が入った。



「《赤》の人……何故助けたのですか」

「《赤》の人じゃなくてクレイナだよ。人を仮面の怪物扱いするんじゃないよ」


 チラッと《黒》の人の方も見てみるが、彼は名乗るつもりはないようだ。だが、クレイナさんの勝手な行動も止めるつもりはないようだ。



「我々の目的は王女の回収だ。その騎士と呼べるかも分からないのから目を離すと最悪この場にいる全員が死ぬ。こちらも手は貸してやろう」

「そういうっこたねぇ! メイド、来訪者が復活するのは知ってるがまだ死んだことないんだろう? その“初めて”は他の誰でもない私が貰うから――ちょいと共闘しようかい?」



 願ってもみない提案だ。全面的に背中を預けるつもりは微塵もないが、少しでも手助けがあるならいい。最低でも肉壁くらいにはなるだろう。

 この騎士はきっとシエラさんの言っていたアルフレッド卿なる人物だ。間違いなくお嬢様を狙っている。


 どうにも正気を失っているように見えるが……お嬢様に牙を剥く狂犬がいるなら毒を食らってでも返り討ちにしないと。


「――ビックリしたぁ! 死んだかと思った! ヒビキ、そいつ防御無視でHP半分飛ばしてくる! あと一瞬“気絶”もつく!」

「無事なようでなによりです。攻撃の特性についても了解です」



 簡単に言うと50%かつ防ぎようのない【天破砕フラージュ】ということか。完全に上位互換だ。当たらなければ問題は無い。

 幸いなことにこの平原に盾の森をつくりだせるハルと変幻自在な動きを可能にする《黒》さんのサポートがある。


 相手のHPバーが5本あってレベルが「????」となっているのは怖いがやるしかない。

 契約でお嬢様は復活できるとは思うが、それでもみすみす殺させるわけにもいかないし、妙に嫌な予感がするのだ。絶対にお嬢様には指一本触れさせてたまるものか。



「もはやこの身は我がものにあらず。即刻立ち去れ、王の愛し子を連れて…………無念だ。どうか愛し子を――」



 騎士の様子がおかしい。

 黒い騎士甲冑と真っ白な鎌がしっくりきていなかったが、少しずつ甲冑が白に染まっていく。



『――ワールドクエスト《護衛任務》に失敗しました』

『演算中……』

『他プレイヤーのヒドゥンチェーンクエストの影響を確認』

『他プレイヤーのオリジナルクエストの影響を確認』

『第一幕の一部ワールドクエストが消失しました。消失分の基礎報酬が送られます』

『BSPを50獲得しました』

『SKPを70獲得しました』


『――ワールドクエスト《魂滅の騎士》が特殊開始します』

『他プレイヤーのヒドゥンチェーンクエストによりクリア条件が変更しました。それによって報酬も変更されます』



 ========

 ワールドクエスト

 《魂滅の騎士》

 第三幕

 難易度:(☆8→)☆10

 目覚めた《四滅の主-魂滅》アルフレッド(の猛攻を5分間耐えろ→)を討伐せよ。

 基礎報酬

 ・BSP(50→)80

 ・SKP(70→)100

 ========




『《四滅の主-魂滅》アルフレッドが天使化しました』

『《四滅の主-魂滅》アルフレッド(エンジェル)が決戦スキル【魂滅の聖地アルフレッド】を発動しました』

『【魂滅の聖地アルフレッド】の効果でフィールドが上書きされます』



『【純白ブランシュ】により“被ダメージ1.5倍”デバフを抵抗しました』

『【純白ブランシュ】により“蘇生無効”デバフを抵抗しました』

『【純白ブランシュ】により“敏捷半減”デバフを抵抗しました』

『【純白ブランシュ】により“回復不能”デバフを抵抗しました』



 いつも通り全部弾いてくれた【純白ブランシュ】は置いておいて、景色が平原から荒野に変わった。あちこちに剣やら盾やら斧など、色んな武器が……おそらくこの場所で殺された者の武器や防具がそこら中に散在している。

 突き立っているものもあれば名誉も何も無いのだと地面に転がるものまで。

 そして――傷一つ無い魂だけ抜け落ちたような死体の山の上に白く染まった騎士が立っていた。



「――【魂狩りポーリュア】」


「っ! 【天破砕フラージュ】!」



 先程より速い。

 遅れた反応で回避はどう足掻いても不可能なので6割あるHPに頼って迎え撃つ。


『【純白ブランシュ】により“気絶”を抵抗しました』


 5本ある相手のHPバーを、5本を最大値として1割削れた。2発で1本削れる計算だ。やることはいつも10発当てると変わらない。これ以上攻撃を食らったら終わりという点だけが重要だ。

 あの攻撃だけが攻撃手段なんて楽観視はできない。


「【魂狩りポーリュア】」

「ふっ!」



 返す刀ならぬ返す鎌でニ撃目を仕掛けてきたが、それなら間に合う。

 一撃目は間に合わなった、ハルの盾に結んでおいた糸を引いてギリギリで回避した。




「【白炎の舞】【火葬】!」

「【掌握】」


 攻撃の隙をついてクレイナさんが白い炎を纏って火を放った。

 しかし騎士は片手でそれをキャッチしてクレイナさんの方へ投げた。

 自身の放った火が返っていったが――それはハルが防いだ。


「ゲーマーとしてやられっぱなしは癪だからね! すり抜けないやつは全部防いでやるんだから覚ぎょ……! いっつぅ……噛んだぁ」


「《黒》さん、先程のように門を大量に出してください!」

「承知した」


「ガン無視か! もういいしー、ちゃんとヒビキのやって欲しいことを言われなくてもやるしー!」


 触れられず拗ねたハルも、僕のやりたいことを理解して出現した転移する門の全てに盾を放り込んだ。

 その様子を空中から観察して繋がっている先を全て把握した。


「【神速】【魂狩りポーリュア】」


 このタイミングで仕掛けてきそうなのは予想していた。糸と自由落下を巧みに利用してスレスレで回避。

 そしてハルが静止させてくれている盾に、転移の門を通って次々糸を張っていく。



 そして盾と門の中心にて構える。

 次の瞬間、圧倒的な速度で騎士がこちらに接近した。

 ハルには目で合図していたから――盾を1つ動かしてをした。


「【黄金化】」


 騎士が中に入ったタイミングで僕と彼の間に厳重に張っておいた蜘蛛の巣のような糸と、もうひとつ作っておいた蜘蛛の巣状のそれでサンドイッチした。

 いくつか引きちぎれたが、それでも動きを制限できた。もって数秒、されど数秒。



「やっちまいな! 【炎化】【共炎】【炎外装】【炎の翼】!」


 クレイナさんがスキルで炎になり、僕のメイド服に宿り、炎の翼を生やしてくれた。おそらくバフではなく無理やり外付けしているだけだから【純白ブランシュ】も反応していないのだろう。

 更なる加速で一気に攻める。


「【天破砕フラージュ】!」



 炎を纏っているのに耐久値は減っていないデッキブラシで殴りつける。

 その場に留まると攻撃されかねないのですれ違い――ついでにもう一撃入れておく。



「【天破砕フラージュ】!」


「……【魂狩りポーリュア】」



 拘束を無理やり解いた騎士が振り向きざまにこちらに攻撃してきた。


「火ぃ、増やすよ!」

「加速は任せました」


 火になっているクレイナさんが出力を上げて一気に門をくぐって離脱。

 そのまま【天蹴】と炎のアシストであちこちの門をくぐって強襲していく。


「【天破砕フラージュ】! 【天破砕フラージュ】!」


 これでようやく半分。


『《四滅の主-魂滅》アルフレッド(エンジェル)(Lv.????)が暴走状態に入りました』


「【魂狩りポーリュア】【守護域】【裂空夢想】」


 騎士は地面に鎌を打ち立てた。

 地面から半透明なドームが出現する。

 その中にいた僕らを追尾した斬撃無数に放たれる。


「チッ……【爆炎】!」


 クレイナさんが爆発で僕をドームの外へ吹き飛ばして逃がした。狙いは相変わらず僕だったようで、幸いなことに彼女は一撃だけ食らって気絶している。元に戻った体は《黒》さんが復帰は難しいとここではないどこかへ離脱させた。


「【外界断絶】」



 爆発によるダメージは念の為持ち歩いていたハルの盾が防いでくれたから緊急離脱だけで済んだ。


 あのドームほどの密度ではないが斬撃が飛んできたので転移の門で一度ハルと《黒》さんの所へ。




「《黒》さんは撤退しないんですね」

「……たった今やつのスキルでこの領域の外と内が分かたれてしまった。やつを倒さない限りここから出ることも外からの救援も不可能だろう」

「ヒビキ、やれる?」


 こうしている間にも1歩も動いていない騎士から鋭い斬撃が次々放たれている。

 僕(の背でおやすみになられているお嬢様)しか狙わないだけ分かりやすくはあるが、かなり速いため集中力を使う。



「……戦闘開始からどれだけ経過しました?」

「仮面軍団との戦闘開始からは15分近く、あの騎士との戦闘はまだ5分弱かな」



 もともと長期戦するような戦い方ではないが、相手の攻撃をもう食らえないという崖っぷち、しかも今回はハルの盾もすり抜けるときた。さっきから飛んで来ている斬撃も防御不能なのだ。

 正直かなり集中力の限界が近い。



「ハル、あのドーム内に盾を。《黒》さんは騎士の周囲に門をいくつか、こちらに戻ってくる門は念の為一つだけで」



「了解、最悪盾でぶん殴って避けさせるから安心して!」

「承知した」



 ――残り半分、全てを出し切る最終ラウンドといこうか。


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