23.最高の相棒
「タゲはそっちに任せるよ」
「【挑発】は使わないということですね。ありがとうございます」
「《黒》、先にメイドを倒さないと最悪死ぬから分かってるだろうね?」
「何度もその強さは見てきた。よく知っているさ」
期せずして成立したタッグマッチともいうべき戦い、お互いに火力要因を狙うのは分かりきっている。
初手は本当の意味で挑発するとしよう。
「〖放水〗」
チョローっと水が意味も無く放出される。
炎を扱う《赤》さんからしたら、煽りにしか見えないだろう。
「ふざけてるのかい? 【ブーストバースト】」
読み通り突っ込んできたのを、ハルの盾が横から挟み込むように受け止めた。
即座に【天蹴】で距離を詰める。
「【
捕まえた《赤》さんにいつもの攻撃を仕掛ける。
ちょっとした思いつきで糸をこっそり彼女の手首に括り付けて。
「子供じゃないのだから策もなく突撃するな」
やはり黒い穴が彼女の足先に出現し、それが動いて彼女だけを《黒》さんのところへ移動させた。
逃げられたと思ったが、思わぬ収穫もあった。
穴が閉じていないのだ。
ハルも気付いたのか小さな盾を僕につけておいてくれた。こちらから穴に飛び込む。
「お邪魔させていただきます」
そのまま発動中の【
「《赤》! 糸だ!」
「チッ……そういうことかい!」
流石にバレたか。糸を伝って火が燃え移ってきたのでナイフで切り離す。
どうやらあの穴――というより門はその間に物体があると閉じられないらしい。今回は糸が僕と《赤》さんの間にあったから閉じなかった。
そもそも閉じられたら敵の体を引きちぎることも可能だ。それをしないという時点でその可能性もあったが、今のを見る限り実はできるなんていうこともなさそうだ。
僕の攻撃に続いてついてきた聖盾(小)も彼女の腹部に突っ込んでいった。しかしそれは手で受け止められる。重さを活かすには上から下へ動かすのが有効だがそうしないということはそれは誘導。
他の盾の群れが《黒》さんをも巻き込んで足下から勢いよく飛来する。
「鬱陶しい! 【豪炎球】!」
ハルの方に火の玉が飛んでいったが、残してある盾で難なく防いでいるだろう。そちらを見るまでもない。僕は《赤》さんの意識が逸れた瞬間に死角に回り、振りかぶる。
「【
これで3発。プラス自爆技で少し減ってるからあと6割といったところだろう。僕とほぼ同じくらいの残りHPだ。
もう一発くらい入れておこう。
「【
「させるものか!」
《黒》さんのせいであらぬ場所に移動させられたが、追撃に向かったタイミングで近寄ってきてくれた盾に糸を括っておいたので問題無い。
即座に糸を引いて逆戻りする。
「ふっ!」
「【黒門の集い】」
今度こそ、と動く前に周囲に穴が大量出現した。
直進だけでは何度も出入りする羽目になりそうだ。というかどことどこが繋がっているかも分からない。
「ハル! 迂回します!」
「はーい!」
ハルの盾で繋がっているところを読んで最短ルートでいく手もあるにはあるが、それはそれで繋がり先によっては時間がかかるので、ここでは穴を回避していくことにした。
【天蹴】だけ、足だけでは難しいが今はハルが居る。
「開けた場所より、入り組んだ場所の方が私は得意なので、申し訳ありませんが倒しますよ」
盾があちこち動き回りながらも何もしない。
だが、そこにあるだけで僕の助けになってくれる。しかもハルの操作で欲しいところに盾を置いてくれる。
「ふっ、そいっ――」
空を駆けながら盾を掴んだりデッキブラシをてこの原理ように使ってスイスイ穴を避けていく。
――盾に触れる度に糸を付けながら。
「【
「そっちから来るなら、迎え撃つだけだよ! 〖フルバッティング〗!」
技も何もあったものではない力任せの一振りだ。
真正面から僕が突っ込むと思われているなんてね。
「【黄金化】」
左手で持っていた糸の先から硬化させてその場で勢いを殺す。狙い通り綺麗に空振らせた。
【
「【
隙だらけの脇腹に痛烈な一撃が決まった。
残り半分と少し。
「一度体勢を整え直すぞ《赤》!」
「チッ……!」
相手は撤退ではなく一時退避のために少し離れた場所への移動を選んだ。攻撃の際に、先程僕自身の動きを止めた糸をつけておいたというのに。
「【修繕】……【
「《赤》!」
「分かってる!」
糸を燃やされ穴が閉じた。それと同時に僕はハルの元へ繋がる穴に入れられた。
同士討ちを狙ったのだろうが僕の【
しっかり受け止められる。
「仕切り直しというわけですかね」
「あと半分だしいけるいける!」
「ハル、貴方が親友でよかったです」
「なに急に!? 死ぬの!? 死亡フラグなの!?」
「いえ、現実での護身術として建物のある町を想定した訓練を受けていたのですが、この平原だと森と違って市街地に似た物が無かったので。改めてハルは便利……べ、べ……ベストマッチだなと」
「便利って聞こえたんだけど!」
「それは気の所為です」
「まあでも親友でよかったなんて言っちゃって照れたんでしょ? 私、ヒビキの親友ですから! 分かりますとも、ええ!」
「……そっちは気の迷いです。忘れてください。デッキブラシの角で殴りますよ」
「普通に痛そう!?」
アドレナリンが出てつい本音が漏れてしまった。
お嬢様のことで怒っていたのも彼女との会話のおかげで落ち着けてきた。冷静に残り半分削りきるとしよう。
「さて、フェアに休憩時間はとりましたし、再開しましょうか」
「こっちから退いたとはいえ目の前でイチャイチャしやがって。まとめて燃やしてやろうじゃないか」
イチャイチャなんてこれっぽっちもしていないのだが――悪寒が走った。
目の前の仮面タッグからではない、別の場所から異常な寒気が訪れたのだ。
僕に遅れて《赤》さんも《黒》さんも何かを感じとって顔がひきつっている。
「ハル――」
「〖カバー〗!」
誰よりも早く、ハルが動いた。
狙われていた僕と、一瞬で背後から迫った騎士の間にハルが割って入ったのだ。
しかし、
「――【
絶対無敵の盾を構えた彼女は、目が眩むような輝きを孕む大鎌によって斬られていた。
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