22.純白のメイド、深紅の翼魔人
無事通過できた僕らは次の町――というかこの国の首都ともいうべき王都へ向かっていた。
前回までの森とは異なり、辺り一帯が草原となっており、見通しが良くてモンスターの数も少ない。そういう場所に王都をつくった後に国として広げていったのだろう。
「ヒビキぃー、警戒し過ぎじゃない?」
「そーそー、せっかくの遠足……じゃなかった、旅なのにマジもったいないし」
僕が常に周囲に気を配っていると茶々を入れてきたのはハルとカナタさん。
ちなみにペロ助とアーヤさんは大学の課題を歩きながらやっているからこちらには入ってきていない。どうやらスマートフォンとの接続も可能なようで大学のレポートもできるらしい。
閑話休題。
「……カナタさんはともかくハルの脳みそは鶏未満なのですか? アメリアさんを狙う界滅教団にはどこからともなく現れる黒い仮面の人がいるではありませんか」
「確かに! ……ってか今わざわざ鶏より小さい扱いしなかった? 以下でよくない!? そこまでディスるかな!?」
「ワープする敵もいるんだ? 鬼手強そうだねぇ」
このメンツで大丈夫なのだろうか。
今不意打ちされたらあえなく全滅も有り得そうだ。いつも気を引き締めてくれるアーヤさんもペロ助の課題につきっきりだし。
そう思っていたのも束の間。
背後の地面からボコボコと音がした。
「来ましたね」
「奇襲フラグばんばんだったからね! 全員、戦闘態勢だよ!!」
「っしゃあ! 疲れた脳みそをハッスルしてやるぜ!」
「アンタの脳みそなんて鶏以下だからそんなリフレッシュは不要だと思うけどね」
「アーヤちゃん! それだと私がペロ助君未満になるからやめて!」
「何の話……?」
本当に何の話をしているのか、呑気な三人は後衛なのにやる気満々なカナタさんを見習って欲しいものだ。
「〖ダークカッター〗!」
「【厄災の
逆に不意打ちのようになったカナタさんの魔法は炎によってかき消された。
今回はあの赤い仮面の人も居るらしい。
「【厄災の
その上新手によって地面が水浸しになり、その水が綺麗に凍った。
見るだけで寒そうなゴリラの肩にオドオドした青い仮面の女性が乗っている。
「多いけどちゃんとカバーするから――っ!」
「させるとでも?」
今回は黒い仮面の人も戦いに参加するらしい。
突然ハルの背後に回って攻撃を仕掛けていた。しかしハルとてその程度でやられるタマではない。
「っく、流石に何とか凌ぐしかないか。カナタちゃんは与ダメデバフをあの氷のゴリラに! アメリアちゃん! 起きてー!」
「むにゃあ? ……はっ! 戦いね! 任せなさい!」
「マジ介護よろ!」
アメリアさんも起きたし黒い仮面の人への攻撃手段は魔法でなんとかするのだろう。
青の人もパラメータゴリラのペロ助とそのサポートができるアーヤさんが対抗できるはずだ。
――問題は僕の方だ。
「ハル、こちらのサポートは不要です。1対1でやります」
「……おっけい!」
こちらにリソースを回すくらいならアメリアさんを死守させないと色々とおじゃんになる。特に黒い仮面の人ならアメリアさんだけを連れ去るなんてことも可能だから。
だから、僕へのリベンジに燃えているこの人は、僕が何とかしないといけない。
「こっちにもメンツってモンがあるからねぇ」
「私も、今はお仕えするお嬢様を文字通り背負っておりますので」
こちらに歩いてくる彼女は燃え盛る火の棒を取り出した。僕もデッキブラシを
「――覚悟しな。徹底的に燃やしてやるよ、メイドォォ!!」
「――その火、デッキブラシで擦り消して差し上げましょう」
言うが否や、彼女はこちらに突撃してきた。
【
しかしこちらの【
即座に空いた手で【修繕】しつつできるだけ距離をとる。向こうとしては遠距離攻撃も可能だろうが、性格からして近接で仕掛けてくるはずだ。
そこをカウンターするのが一番やりやすいだろう。空中なら【天蹴】のある僕の方が有利だ。
「それで逃げたつもりかい?
そう言って仮面以外を隠していたコートを取払った彼女の背には真っ赤な翼があった。
――マズイ、あちらも飛べるのか。
あっという間に距離を詰められ、火の棒で突きにかかってきた。
「【極炎彗】! 〖インパルスポウク〗!」
そんなことを考えながら必死に回避行動をとっていた。
横へ蹴って少しでも
「【黄金化】……っく」
地面の草に無理やり糸で結びつけて攻撃が当たる直前に衝撃を逃がす。
当然、少しでも攻撃を遅らせるためにデッキブラシの持ち手側で間に挟み込ませている。
「……流石に今のは死ぬかと思いましたよ」
【修繕】でデッキブラシとメイド服を直しながら、吹き飛んだ先の地面から立ち上がってそう強がってみる。
メイド服の【修繕】も何故かは分からないが木材でできるのは助かった。それでも一撃で全損はやめて欲しい。破格の性能の代わりに耐久値が低いのがデメリットなのは知っていたがここまでとは。
脆すぎてあれだけ威力を逃がしたのにHPが4割近く減ってしまった。
地面に立っている僕を、赤い仮面の女性は空から見下ろしていた。いや、赤い髪と赤い翼を揺らして、
「吹き飛ぶ最中、身を捩って地面にそのガキが擦れないようにしていた――そのガキのせいで本気で戦えないってなら、そいつから燃やしてやろうか?」
「……黙っていただけませんか?」
「やっぱりそうなんだな、今本気にさせて――」
「黙れと言ったはずですが。【侮蔑の眼差し】」
「――」
「教育上よろしくない戦い方を避けていただけですし、そもそも今もお眠りになっていらっしゃるというのに起こしてしまってはメイドの名折れでしょう?」
“沈黙”を押し付けた後、即座に両手両足に仕込んであるナイフを半分残して投擲。声が出なくて驚いたせいか身を守る炎が遅れ、数本が刺さった。命中と同時に走って詰める。
「【
ナイフの上からデッキを叩き込む。
猛毒のナイフが食い込み、割合ダメージも炸裂した。
「――っああ、やっと出た! まとえて燃えちまいな! 【大火の楔】!!」
いつぞやの自爆技をここで切られたか。
足元から火がちりちりと伝播していっている。
急いで糸を使って離脱する。
……しかし効果範囲が広すぎる、間に合うのか微妙だ。
「っくぅ!!」
胸部が、というかパッドが燃えている。
ギリギリ間に合わない――と思っていた所に見覚えしかない盾が飛来して僕を突き飛ばしてくれた。直後、目の前に町を飲み込める大きさの火柱が立った。
勢い余って着地に失敗しそうになったところで、ダンボールの感触に受け止められた。
「ハル? なぜ――」
「青いのはペロ助君達が倒したよ。だからアメリアちゃんを預けてきたんだけど……あの黒いのが消えたからこっちかなと思ってね」
ハルが指す方向を見ると、空中に黒い足場をつくっている黒い仮面の人が自爆した赤い仮面の彼女の腕を掴んで引っ張り上げていた場面が。
どうやらあの火柱に呑まれる寸前で離脱させたのだろう。仲間思いというか、死人を出さないようにし過ぎというか。
「青い仮面の人は死んだんですか?」
「んーん、その人もああやって離脱させてた」
やっぱりか。
「おい《黒》! 邪魔しないでもらえないかい!?」
「無駄死にを見過ごすわけにはいかない。まだ、あのメイドも生きているだろう? 先にこの2人を倒して王女を回収する。いいな?」
「チッ……サシがよかったんだから足引っ張んじゃないよ?」
「当たり前だろう」
どうやら向こうは2人がかりで来るらしい。
それならこちらも対抗しようか。
「だそうですよ。連携力で私達に勝てると思わない方がいいと、あの趣味の悪い仮面に叩き込んでやりましょうか」
「同感!」
1対1ではコテンパンにされたが、ハルが居るなら僕が負けることはない。それだけの安心感がある。
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