17.クッキングメイドwithスケルトン系地雷ギャル

 


「料理なんて学校でやった時ぶりかも? ヤバ、ワクワクするじゃん」


 別に頼んではいないのだが本人がやる気ならお願いしよう。

 カナタさんに手伝ってもらうとしても――切る

 ・焼く・蒸す・炒める作業は僕の方がスキル的に補正があるため早いはず。あくまでも補助として働いてもらうのがいいか。


 とりあえず作る量は備蓄と売る分も考えてそれぞれ20……いや、今回は30人分でいいかな。

 幸いこのキッチンには多人数用のキッチン用品が揃っていたからね。好きに使えとも言われているし使い終わったらストレージ行きにしよう。代わりに元から使っていた小さいキッチン用品は置いていく。


「それではカナタさん」

「はい!」


「この鍋にこれくらい水を入れてこちらのパスタを茹でてください」

「おっけー……水に入れて焼けばいい感じねー!」


 ものすごく心配だ。流石にこれを放っておくと折角綺麗にした礼拝堂が全焼なんてことになりかねないのでパスタの茹で方を説明してから自分の作業に取り掛かることに。


 ひとまず処理してあるモンスターの肉を食べやすいサイズに切り、じゃがいも、にんじんを乱切りで、たまねぎをくし切りにしておく。


 カルボナーラ用のベーコンを作るのには時間が足りないため、こちらは別で代用しないといけない。……ローストビーフを小さく切ればいい感じになるだろうか? 牛系のモンスターの肉は大量にあるので肉じゃがと一緒に使っておきたい。



「……」


 お肉にフォークで適度に穴を開けた後、保存袋が無いため、市場で買い揃えておいた塩とコショウ、オリーブオイルを投入して普通に手で揉み込む。これは少し放置しておいて今のうちに肉じゃがを進めよう。


「〖種火〗」


 大きな鍋のようなフライパンを油で軽く熱し、お肉を炒める。火力調節は〖そよ風〗で行っている。

 いい感じになってきたのでそのまま野菜を追加し、炒め合わせる。その後砂糖と水を入れ、最初の町で教えてもらった秘伝の調味料も少しだけ入れて大きな蓋をかぶせた。


「わー!!? 大炎上してるって、鬼ヤバッ! 有名人が裏垢でボロを出してる時並にマジ大炎上してるって!」

「……〖放水〗」


「ヒビキ先生! マジ命の恩人!」

「丸焦げじゃないですか。こうならないように注意してと言いましたよね?」



「いやー、キャンプファイヤーみたいでアガっちゃって……マジごめん!」

「……次は失敗しないよう気を付けてくださいよ?」



 口調は若者らしいおチャラけさ全開ではあるが、本人は至極真面目な顔つきなので文句も言えない。こんな短時間で本性が見られるとは。まあいい子なのには違いないからいいんだけれども。



「さっさと終わらせてフォローに行かねば……」


 お手伝いのフォローとはこれ如何に。

 本来なら保存袋を鍋に入れるのだが、それも無いため、素手で密閉して熱することに。

 火傷も【純白ブランシュ】が何とかしてくれるはず。


 それからローストビーフを仕上げ、カルボナーラのソースも並行して作り、肉じゃがも完成した。

 流石に汁物も欲しかったので肉じゃが用のコンソメスープと、カルボナーラ用の卵スープも作った。味噌は市場に売っていなかったからどこかで買いたいものだ。


 ――――――

 ――――

 ――


『【調理】のレベルが上がりました』

『【調理】のレベルが上がりました』


「はぁはぁ……パスタマジ炎上体質だった」

「よく、頑張りましたね…………」


 ちなみに彼女、計4回派手に焦がしていた。

 うち1回は近くにあった液体が水だと思ったのか油を投入して本当に危なかった。余計に疲れたが、子供の成長を見守る親の気持ちでいようと決めたから問題ない。



「さて、ダイニングルームへ行きましょうか。ちょうど全員揃ったようです」



 タイミングよくパーティメンバーでメールを送れるパーティチャットなる機能で全員の起床を確認しいる。ご飯を作ったとダイニングに集めたのだ。


 僕の背に隠れるように歩くカナタさんは、心配そうに再確認してきた。


「本当にカナタみたいな骨が混ざっていいのかな……?」

「心配ご無用です。皆様温かい人達ですので。それに何か困ったら私に頼っていただければ」


「ありがとう。ヒビキきゅん!」

「きゅん?」


「マジありがと!」

「は、はぁ」


 謎のきゅん呼びに思わずオウム返ししてしまった。

 何だか僕に依存しかけている様な気もするが、僕のパーティメンバーも優しく迎えてくれるからそのうち普通になるはずだ。



 ――彼女は未だ警戒を続けている。

 しかし、もうダイニングルームに到着した。



「皆様、おそようございます。肉じゃがorカルボナーラ?」

「おはよー……私カルボー」

「ならわたくしも!」

「私は肉じゃがでお願い」

「俺もじゃがじゃがでよろ!」


 僕は肉じゃが、事前に聞いていたカナタさんはカルボナーラ。全員分の準備を終えた所で、ようやく僕の背中に隠れていた彼女が顔を出した。



「「「「……」」」」


 僕とカナタさんを除いた全員の目が点になった。そこまで驚くことだろうか……あ、彼女に関する説明全くしていなかったし、連れてきていることも連絡していなかったんだ。



「こちら、行き倒れ……ではありませんね。生き埋め? なさっていたプレイヤーのカナタさんです」

「ど、どうも」


「どこで拾っ――墓場だ、絶対あそこの墓場でしよ!?」

「骸骨人ね、絵本で読んだことあるわ!」

「これぞファンタジーだな! かっけぇ!!」

「見た目の割に声が可愛いわね……」



 この場に彼女を恐れるような臆病者は存在しない。



「……ねぇ、カナタちゃん。ヒビキと距離近くない? 一応そのメイド、男だよ?」

「そんなの見れば分かるじゃん?」



「「「いやいやいや」」」


 分からなかった組が揃って首を横に振っている。

 しかし、その反応は僕にとってそれだけメイドになりきれている証左に他ならない。純粋に嬉しい。



「ヒビキはなんでしたり顔なのさ。というか見れば、ってどういうこと?」

「ふつーに骨格のクセで分かるじゃん?」


「普通は分からん!」



「まぁカナタさんは骨の専門家らしいですので」

「そそ。カナタ、骨フェチだから」



「フェチを専門家呼びすな! 専門家に失礼でしょ!」

「それはフェチの人に失礼じゃんね?」

「確かにそうですね」



「それはごめん! ……って、フェチの人に謝る必要ある!?」




 そうこうしている間にも、好奇心旺盛なアメリアさんはカナタさんの肋骨の隙間に手を入れて遊んでいる。

 ペロ助とアーヤさんは騒がしいのはいつものことかと席についてみんなで食べるのを待っていた。


「ハル、食べながら親睦を深めましょう。皆さん満腹度ギリギリでしょうし」

「カナタもカルボ食べる〜」

「大丈夫? 通り抜けたりしない?」


「多分」

「多分!?」



 6人で順番にアーヤさん、ペロ助、僕。向かい側にアメリアさん、ハル、カナタさんが座った。


 仲良く「いただきます」をして、それぞれ料理を口に運ぶ。



「美味っ! 頬がとろけるレベルだな! スープも美味い!」

「なにこれ、ヒビキ君の肉じゃがは初めてなのに懐かしの味がする……」

「かるぼなーら? こんなお料理初めてだわ!」

「んぅ!! 久しぶりにヒビキのカルボ食べた! 最高! 嫁に欲しい!」

「んまちぃ……!」


「ちなみにパスタはカナタさんが茹でてくれました」

「道理でちょっと硬さが違うわけだったんだ。でもカナタちゃんやるねぇ!」

「えへへ……4回くらい真っ黒けっけになったけど頑張ったし」


「4回も!?」


 ちなみに大絶賛されている肉じゃがとカルボナーラコンソメスープと卵スープの表示がこちら。



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 アイテム

 {無表情メイド特製♡実家風肉じゃが}

 製作評価:☆7

 製作者:ヒビキ(R)

 とある無表情なメイドが地雷系ギャル助手による火事を心配しながら素早く作った肉じゃが。調理時間の割に美味しくできており、なぜか食べる者にとって懐かしの味がする。

 効果:満腹度+60,HP半分回復,MP半分回復,30分間敏捷+200


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 アイテム

 {メイド&骸骨特製♡カルボナーラロスビフver}

 製作評価:☆7

 製作者:ヒビキ(R)

 とある無表情なメイドがベーコンの代わりにローストビーフを使い、パスタは地雷系ギャル助手が幾度となく焦がしつつ完成した一品。メイド作のソースがくど過ぎず香ばしくパスタに絡みついている。

 効果:満腹度+80,HP回復+200,1時間スキル習熟度上昇率UP


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 アイテム

 {無表情メイド特製♡片手間コンソメスープ}

 製作評価:☆6

 製作者:ヒビキ(R)

 とある無表情なメイドが地雷系ギャル助手による火事を心配しながら片手間で作ったコンソメスープ。濃いめの味付けながらあっさりとした舌触りに仕上がっている。

 効果:満腹度+20,MP全回復


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 アイテム

 {無表情メイド特製♡片手間たまごスープ}

 製作評価:☆6

 製作者:ヒビキ(R)

 とある無表情なメイドが地雷系ギャル助手による火事を心配しながら片手間で作ったたまごスープ。絶妙な塩梅のたまごの溶き具合かつ加熱具合で高級感ある味わいになっている。

 効果:満腹度+25,HP回復+200,MP回復+150,30分間精神力+100

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 どうやら“無表情メイド特製♡”がブランド化しているような感じらしい。もう少しマシな名前がよかったのに。



 ――PURURING♪PURURING♪



 ご飯をささっと食べ終えたところで、着信音が鳴った。どうやら僕にしか聞こえていないらしく、皆談笑を続けている。

 少し席を外すと伝えて、廊下でゲーム内の電話をとった。



「お電話ありがとうございます。ヒビキでございます」

『かけたのはこっちだから分かってるよー。あ、ウチだよ。シオレ』



 電話をかけてきたのはフレンドのシオレさんだ。

 昨夜のシエラさんのことだろうか?



「本日はどのようなご要件でしょうか」

『えー、用が無かったら掛けちゃダメ?』


「少なくとも貴方様がそのような方ではないことは私でも分かります」

『いい観察眼だねぇ。じゃあ本題、紙皿要る?』



「紙皿……?」



 ハルと前キャンプした時に使ったあの?

 いや、確かに現状食器の類が多いに越したことはないのだが、そんな技術があるのだろうか。



『そそ、共和国にいるウチの知り合いのプレイヤーが紙製品を作ってたからちょっとお願いしたら作ってくれてねー。こないだ言ってた隠しナイフセットもできたしあげよっかなって』

「いくらですか?」


『んー、ここでは別に商人やるつもりもないし正直タダでもいいよ?』



 む、これは間違いなく試されているね。

 商人をやるつもりはないと言っていたが、おそらく癖のようなものなのだろう。


「いえ、タダより怖い買い物はありません。対価もなく甘い蜜だけを享受するわけにはいきません」

『ふぅん?』


 おっとりしているように見えて、この人はかなりのやり手だ。下手に隙を見せたら全てをかっさらわれそうな気迫を感じる。



『そこまで言うなら仕方ないね。紙皿300枚、隠しナイフセット2つ、まとめて自販機に出しとくからそっちの言い値でいいよー』

「……ありがとうございます」



 なんとも怖いことをおっしゃる。



『あ、そうそう。明明後日しあさって誕生日だよねぇ? これも何かの縁ってことでパーティーに押しかけ……参加するからよろしくねー』

「はい?」


『じゃ、またねー』



 それだけ言い残して一方的に電話を切られた。やはり現実で面識があったのだろう。パーティーをやるとはいえ内々で手紙にはあったし、四方家の機密を暴けている以上、彼女も四方家かそれに近しい立場ということか。


「…………当日のお楽しみということで忘れましょう」



 今更休むなんて選択肢は流石に先方に申し訳ない。平和な誕生日パーティーになることを祈りつつ僕はダイニングルームに戻った。




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