16.墓場からこんにちは

 

 早朝に眠り、昼過ぎに起きてしまった。

 なんたる不健康な――! 今後はゲームをする際の睡眠時間には気をつけないといけない。


 朝ごはんともお昼ご飯ともとれる食事を軽く済ませ、いつも通り庭でお茶を嗜んでいると床に矢文が刺さっているのに気付いた。

 刺さっている角度からして寝ている間にヘリコプターから放たれたのだろう。ハル……遥香はるかにはありえないと言われたことはあるが、ここに越してからは稀によくあることだ。


 僕があまりにも電話をとらない上、あまり携帯を見ないから実家や婚約者の家からの連絡手段がこれなのである。



「今日はどこから……うげぇ」



 明明後日しあさっては僕の誕生日、しかも20になる日だ。それもあってか誕生日パーティーを開くらしい。しかも婚約相手の家が。

 あっちの家と実家の仲が良いのなら僕としては問題ない。こちらの事情気まずさにも気遣って他所の家や実家の者も呼んでいない辺り、流石四方家の一角だ。下調べをよくされているようだ。

 流石に毎年断ってるし成人くらいは顔を出さないと。



「はぁ、ゲームしよ」



 お断りの電話を入れなければ当日迎えの車が来るので放っておいてログインした。

 宿舎の気配からして僕が一番最初らしい。



「ステータスっと」




 ========


 プレイヤーネーム:ヒビキ(R)

 種族:純人族

 種族レベル:(49→)51/100

 ジョブ:メイド(1次)

 ジョブレベル:(8→)30/30

 └器用20%上昇

 満腹度:51/100


 〈パラメータ〉

 ・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値

 ・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式

 HP:1500/(1260→)1500[+10]《(100+500+200-50)×2》

 MP:960/(740→)960[+5]《(30+250+200)×2》

 筋力:(316→)520[+1]《(10+50+200)×2》

 知力:(316→)520[+1]《(10+50+200)×2》

 防御力:(316→)520[+1]《(10+50+200)×2》

 精神力:(316→)520[+1]《(10+50+200)×2》

 器用:(379→)624[+1]《(10+50+200)×1.2×2》

 敏捷:(316→)520[+1]《(10+50+200)×2》

 幸運:(316→)520[+1]《(10+50+200)×2》

 BSP:(290→)310[+5]

 SKP:(52→)80[+(2×2)]


 〈スキル〉

 オリジナル:純白ブランシュ

 通常(パッシブ):所作(5→)7・全能力上昇(1→)2

 通常(アクティブ):修繕(2→)3・調理4・侮蔑の眼差し1

 魔法:生活魔法(2→)3

 ジョブ:清掃(2→)11


 〈装備〉

 頭{天破のホワイトブリム}

 耐久値:85/100

 ・HP-50


 胴{天破のエプロンドレス}

 耐久値:81/100

 ・BSP,SKP除く全パラメータ2倍


 足{天破のストラップシューズ}

 耐久値:73/100

 ・【天蹴】

 └常時空中を自由に歩ける。


 武器{天破のデッキブラシ}

 耐久値:100/100

 ・【天破砕フラージュ

 └武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。

 CT:0秒


 └セット効果:獲得SKP2倍



 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 オリジナルスキル

純白ブランシュ

 効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。

 デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。


 通常スキル(P)

【所作】レベル:(5→)7 習熟度2/35

 立ち振る舞いに補正がかかる。


【全能力上昇】レベル:(1→)2 習熟度:2/10

 BSP,SKPを除く全パラメータ+200




 通常スキル(A)

【修繕】レベル:(2→)3 習熟度14/1000

 素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。

 CT:(3→)1秒


【調理】レベル:4 習熟度11/20

 補正のかかった作業を行える。

 ・切る

 ・焼く

 ・蒸す

 ・炒める

 更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。

(レシピ)

 ・{無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}


【侮蔑の眼差し】レベル:1 習熟度:0/10

 視認した対象に5秒間“沈黙”を付与する。

 CT:10分



 魔法スキル

【生活魔法】レベル:(2→)3 習熟度10/25

 ・〖種火〗

 種火を生み出す。

 消費MP:1

 ・〖放水〗

 水を放つ。

 消費MP:3

 ・〖そよ風〗New!!

 そよ風を吹かす。

 消費MP:4


 ジョブスキル(P)

【清掃】レベル:(2→)11 習熟度23/55

 清掃の行動に補正がかかる。



 ========



 色々上がっているのはいいとして、メイド服の耐久値と満腹度をなんとかしないといけなさそうだ。幸い昨夜使った木材は計100個、残り400もあるし、【修繕】の判定的にこのメイド服も木材でなぜか直るからもう少し減ってから直すとしよう。


 皆もお腹を空かせているだろうし腕を奮って頑張ろう。


 運のいいことにここまでの行軍でモンスターの肉があるため食べ物にも困らない。掃除の時にキッチンにモンスター肉の食用利用法の本があったからそこら辺の問題も大丈夫だ。



「血抜きするものもありますし礼拝堂の外でやりませんと……」


 キッチンから必要な道具だけストレージに格納して外へ向かう。

 途中、向かいの墓地から物音がした。生物の匂いとモンスター特有の気配もない。


 念の為確認しないとマズそうだ。



「どなたか、いらっしゃいますでしょうか」


「……」



 こちらに気付いて動きを止めた、骨の腕が地面から垂直に生えていた。明らかにそこから出ようとしている途中のものだ。



「その表示、プレイヤーの方ですよね?」


 地面から、プレイヤーを示す“カナタ(R)”の文字が出ているのだ。




「ご、ごめんなさい……打ち捨てられた墓場だと思って……でもすぐ出ていくから、もう、殺さないで…………」



 くぐもった女性の声が聞こえた。ワケありのようだ。

 いや、地面から生えている腕に人の皮が付いていない時点で骸骨のモンスターと同じ種族だとは思っていたけれども。


「私は貴方様をどうこうするつもりはございません。そもそも私もプレイヤーですのでそういった行動は不可能ですのでご安心を」


「…………ごめんなさい。それでも今はこんな姿なので怖いでしょうし――」


 ふむ、このまま放っておくと何だか後味が悪いな。スペースはあるし血抜きしながら話を聞くとしよう。



「よろしければ聞かせて頂けませんでしょうか。貴方様がどうしてこんな所を寝床にしたのか、どうしてそこまで殺されることに怯えているのかを」


「……言えば、立ち去ってくれますか?」


「立ち去れというのならそういたしましょう。そもそもここの土地は私のものでもありませんので」



 それを聞いて、彼女は伸ばした腕を地面に戻して、顔を見せないまま話し始めた。


「カナタ、リアルだと普通に可愛くて」

「は、はぁ」


 唐突な自慢話が始まった。意外としたたかな人みたいだ。


「折角だから自分の趣味嗜好骨フェチを全面に押し出そうと思って種族の下の方にあった骸骨人を選んだんだけどぉ」


「……」


 外国人みたいなイントネーションであっているのだろうか骸骨人。というか少しずつ彼女の素が見え隠れし始めてきたね。



「そうしたらモンスターだーって町の人達には殺されるし、プレイヤーと会っても目を背けられるし――ほんと最悪で、カナタには居場所が無いみたい。リアルではチヤホヤされてても所詮人間なんて、皮しか見てないんだって痛感してさぁ……」



 所詮人間て。

 前までチヤホヤされてたけど見た目だけを見られていたと失望しているのだろうか。全員が全員そうではないと思うんだけどな。


「では、一緒に来ますか?」

「……ん??」


 よし、あらかた血も抜けたし食べられない骨等も埋めた。あとは調理に取り掛かるだけだ。



「行く宛てが無いのなら私達と遊べばいいんですよ。折角のゲームなんですから、そんなにいじけていないで楽しみましょう?」

「で、でもカナタ、骨だし……」


「大丈夫です。私達のところには鬼と兎さんとダンボールとメイドとお姫様が居るんです。今更骨が増えたところで大差ありませんよ」

「そういう問題じゃないの! カナタが怖くないの? 気持ち悪いでしょ!? こんなのと一緒に居たら、きっと気味悪がられる……」


「……お優しいのですね」



 すんごい今更だ。好奇だろうが奇異だろうが嫌悪だろうが、視線は視線。気にした人の負けだ。

 今、彼女を放っておくときっと彼女はもうこの世界に戻ってくることはなくなると思う。折角自分の好きな姿形になれる最高の世界を最悪の印象で終えて欲しくない。それは今の僕を全て否定することになるから。


 それに、こんなに人へ気遣いのできる優しい人が悲しい思いをするのは見過ごせない。



「ですが、ここは自分だけのOriginal軌跡Trajectoryを描ける世界でございます。どうか、自分の理想を諦めないでくださいませ」

「――――」


「お手を」

「ぁ」


 地面の中に閉じこもっていた彼女の手を握り、勢いよく引っ張りあげた。

 骸骨人というだけあって全身が骨だけの軽さだ。オリジナル装備の服しか感じないくらいには軽く感じた。料理の時間も必要なのでそのまま抱え上げて少し強引に連れていく。


 何か言いたいことでもあるのか運んでいる間じっと見られているが、それより今から作る料理のことに意識を割きたいので放っておく。

 どうしても言いたいなら勝手に言ってくるはず。


「――さて、キッチンに着きましたしそろそろ下ろしますね。今からみんなの分の昼食を作りますが……カナタさんは食事の方は?」


「あー、必要はないけど食べれるっちゃ食べれるって感じ? うーん、ステータス見せるね」


「では私も」


 お互いにステータスを見せ合う。




 ========


 プレイヤーネーム:カナタ(R)

 種族:骸骨人族

 種族レベル:16/150

 ジョブ:神官(1次)

 ジョブレベル:14/50

 └MP10%、精神力10%上昇

 満腹度:0/0


 〈パラメータ〉

 ・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値

 ・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式

 HP:845/845[+15]《120+225+500》

 MP:2295/2295[+10]《(200+150+800+300)×1.1+500》

 筋力:90[+5]《15+75》

 知力:961[+5]《20+75+200+666》

 防御力:90[+5]《15+75》

 精神力:875[+5]《(15+75+100)×1.1+666》

 器用:40[+2]《10+30》

 敏捷:90[+5]《15+75》

 幸運:25[+1]《10+15》

 BSP:0[+5]

 SKP:15[+1]



 〈スキル〉

 オリジナル:絶望侵食アル・アゴニィ

 通常(パッシブ):MP上昇2・知力上昇2・MP自動回復微2

 魔法:闇魔法2

 ジョブ:神官の心得1・祈祷1・回復魔法1


 〈装備〉

 頭{地獄の神官帽子}

 耐久値:4521/5000

 ・HP+500

 ・MP+500


 胴{地獄の神官服}

 耐久値:2504/3000

 ・光属性被ダメージ時、耐久値大幅に減少


 足{地獄の神官靴}

 耐久値:504/1000

 ・精神力+666


 武器{地獄のクリスタルロッド}

 耐久値:9332/10000

 ・【闇魔法】の効果2倍

 ・種族レベル獲得経験値半減


 └セット効果:知力+666



 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 オリジナルスキル

絶望侵食アル・アゴニィ

 効果:6分間、対象のHP減少率を2倍にし、状態異常・デバフの抵抗確率が著しく減少させる。この効果は必ず命中し抵抗できない。

 デメリット:発動中、自身は攻撃できない。

 CT:50分


 通常スキル(P)

【MP上昇】レベル:2 習熟度3/10

 MP+200

【知力上昇】レベル:2 習熟度2/10

 知力+200

【MP自動回復微】レベル:2 習熟度3/10

 10秒につきMPを6回復する。


 魔法スキル

【闇魔法】レベル:2 習熟度12/20

 ・〖ダークバレット〗

 闇属性の小さな弾丸を放つ。

 消費MP:50

 ・〖ダークボール〗

 闇属性の球体を放つ。

 消費MP:60


 ジョブスキル(P)

【神官の心得】レベル:1 習熟度0/10

 MP+100

 精神力+100


【祈祷】レベル:1 習熟度2/5

 祈りを捧げることでMPを回復する。

 2秒につき1回復。


 ジョブ魔法スキル

【回復魔法】レベル:1 習熟度3/10

 ・〖ヒール〗

 対象のHPを200回復する。

 消費MP:50


 ========



 満腹度の上限が0で飲み食いする必要がないが、食べることは可能らしい。

 他に気になる点と言えば、彼女のオリジナルスキルだろうか。僕にバフは効かないためアーヤさんとは噛み合わなかったが、彼女のデバフなら僕の強みをより伸ばせるかもしれない。




「ヒビキ“君”、レベル高いしガチメイドじゃん。ヤバ」

「そうでしょうか? そんなことより、とりあえず肉じゃが定食のようなラインナップで作ろうと思っているのですが、他に何か食べたいものはありますか?」


「んー、いくら丼?」

「……材料が無いので今は不可能です。いくらと米を入手した時に作りますよ」


「そっか、米も無いんにゃぁ――じゃあカルボ!」

「パスタは……ああ、そういえば市場で買っていましたね。この国の主食がパンとパスタで小麦メインだったので蓄えておいて正解でした」


 流石に肉じゃがとカルボナーラでは食い合わせに無理が生じるため、2品作って片方は保存しておく方向でやろう。



「ではクッキングタイムと参りましょう」

「手伝うよー、ヒビキ先生!」


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