18.強敵、オリジンドラゴンロードゾンビ

 

「え! 現実のカナタちゃんかわよい! 黒髪似合ってる! 地雷メイクってやつだよね?」

「すごい女子女子してる……」

「えへへ、よく地雷系ギャルって呼ばれてるんだぁ」


「フォローしよっと」

「そうね。女子としてこれくらいの華やかさは参考にしたいもの」

「カナタもフォロー返すねー!」



 これは後ろで盛り上がってる女子組の様子。

 そしてこちらは別の意味で盛り上がっている、男子プラスよく分からないからこっちに来た王女様組の様子。


「ペロペロ、左から3です!」

「ペロペロ! 今【神聖魔法】かけ直すわ!」

「どおおぉ! 重労働が過ぎるって! 〖ワイドスイープ〗! ……ってペロペロ呼びやめい!」



 次の町に向かって進軍中なのだが、いよいよやることが無くなったハルとアーヤさんが雑談し始め、そこにカナタさんも加わったという訳だ。アメリアさんも最初混ざりに行ったが“映え”だとかメイクだとかの話についていけずこちらで頑張ることにしたのである。

 というかアメリアさんが居ないと実体の無いモンスターにはペロ助の攻撃が効かないのでそうしてくれないと困る。ちなみに僕はボス戦に向けて温存しつつ索敵担当をしている。


 そのまま幽霊やら腐敗した死体のモンスターを蹴散らしつつ進んでいくと、何かありげに存在している洞窟があった。

 一度ペロ助と目配せをし、ゆっくりとそこへ侵入する。




『ボスエリア《流魂ノ魔岩窟》に侵入しました』

『サーバー初侵入です』

『他プレイヤーのオリジナルクエストの影響でボスが変質しました』

『ヒドゥンチェーンクエスト《王家を狙う魔の手①》中はボスエリアから通常退出できません』



 他プレイヤーのオリジナルクエスト?

 よく分からないが、今回は僕らとは別の要因でボスが変質したらしい。

 異様な気配を感じる。ハッキリ言って前回のゴーレムとは天と地の差がありそうだ。


「皆様、気を引き締めて参りますよ」


「おう!」

「今度は戦力になるわ!」

「ええ。お喋りもここまでにしないと」

「デバフはマジ任せて!」

「おっけー!! 私は全員無傷チャレンジといこう!」



 洞窟内は真っ暗だったのでひとまずアメリアさんに光源の魔法をいくつか用意してもらった状態で僕を先頭に進む。



「――ハル!」

「はいよ!」



 進行方向から熱線が飛んできたのを微かな音で感じ取ったのでハルに防いでもらった。


『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が【赫喝の慟哭】を発動しました』



 アナウンスが遅れて流れた。

 アナウンスを置いてけぼりにする速度なのか、そういう仕様なのかは不明だがこの暗がりで不意打ちは面倒極まりない。



「詰めます。ハルは念の為盾を」

「うい」


 皆まで言わずとも僕の横に2つ盾をつけてくれた。僕の片手は〖火種〗で灯した松明があるので彼女が制御を失敗することも無いはず。



「【天破砕フラージュ】」



 空中とハルの盾を足場に大きいトカゲさんことオリジンドラゴンロードゾンビとやらに接近してデッキブラシをぶつけた。

 確実に手応えはあったはずなのだが、表示されているHPバーに変化は無い。よく見てみると、トカゲさんの周りに透明な小さいのが無数に浮いているのが分かった。HPバーも小さいし道中何度も見てきた幽霊のモンスターだろう。



 僕の【天破砕フラージュ】が物理攻撃なのかは曖昧だったが幽霊に通じるとは思わなかった。おかげで大量の肉壁ならぬ魂壁をどかさないと僕の攻撃が入らない。



「〖オールセイクリッドオーラ〗! ペロペロ、やっておしまい!」

「雑魚は任せろ! 〖ワイドスイープ〗!」

「幽霊なら昨日散々召したから余裕ね。【神聖魔法】の付与された超スピード体当たりで昇天させてあげる!」

「幽霊を避けるルートで動かしつつドラゴンの攻撃を凌ぐ……ちよっと本気で集中しよっかな! ふぅ――――」

「〖ダークボール〗〖ダークボール〗……」



 アメリアさんが全員に【神聖魔法】を配り、アーヤさんのサポートで攻撃に集中するペロ助。

 かなり大変らしく珍しく無言で集中するハルに、【闇魔法】の弾幕を張るカナタさん。


「【天破砕フラージュ】」


 僕はそれを眺めながら、総攻撃の甲斐もあってできた隙にようやく1発目を脳天に叩き込めた。

 2本あるHPバーから、ちゃんと2本を最大値として1割削れているのを確認し、攻撃の気配を感じたので盾を蹴って後退。


 〈ウァォ――!〉


 直後トカゲさんの口から雷が放たれた。

 無敵のハルの盾があるとはいえ、今のは盾の裏側まで攻撃の判定がありそうだったので回避して正解だった。


『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が〖カウンターボルト〗を発動しました』



 やはりアナウンスがワンテンポ遅い。全ての攻撃がそうではないので、何らかの条件、あるいは常時発動のスキルだろう。


 しかし、これであと9発――


「……ハル、削れてましたよね?」

「うん。たぶん私も持ってるHP自動回復系のスキルだと思う」



「なるほど」



 5秒近くで1割回復なんて冗談でも笑えない回復速度だ。防御力も高いのかペロ助の渾身の一撃も僕の4分の1くらいしか与えられていない。

 これは【天破砕フラージュ】なしでは攻略不可能と言っても過言では無いほど面倒な相手だ。


 〈ガァグゥィ……〉




『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が【腐敗焔界】を発動しました』

『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が〖サンダーレイン〗を発動しました』

『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が――



「『古の契約よ。鎮めの権能よ。我が命を対価に捧げる』【沈黙の歌】!」



 トカゲさんがどんどん色んな技を使用したタイミングでアメリアさんがその全てを打ち消した。

 そのせいもあり彼女が明らかに狙われているが、彼女の傍には最高で最硬の盾使いがいる。

 今のうちに決着をつけるのが、普段索敵しかしていない僕のお仕事だ。


「カナタさん、オリジナルスキルをトカゲさんに!」

「おっけい! 【絶望侵食アル・アゴニィ】!」




 〈グガギィ!!〉


『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が【赫き竜腕】を発動しました』


 トカゲさんの腕がアメリアさん目掛けて振るわれたが、即座に前面に盾を纏わせたハルが割り込んで体で受け止めた。ビクともしていないあたり流石と言える。


 その隙に僕は【天蹴】とハルの盾を蹴ってトカゲさんの頭上から真っ逆さまの状態で突撃する。

 時折幽霊のモンスターが間に入ろうとしてくるが、まだ発動しないことで通り抜ける。体を通られる感覚は慣れないが、【純白ブランシュ】の影響か不快感もデバフもつかない。

 そしてそのままデッキブラシをトカゲさんの首に当ててから発動。



「【天破砕フラージュ】」


 このやり方だと先にほんの少し耐久値が減ってしまうので10発フルで使えないが、今はカナタさんの受けるダメージを倍にするデバフのオリジナルスキルがある。



「【天破砕フラージュ】【天破砕フラージュ】【天破砕フラージュ】」




 どうやらデッキブラシを当て直さずとも、そのまま【天破砕フラージュ】によって発生したオーラが当たってればいいらしい。


 ――あと一撃、そう思ったと同時に寒気が走った。



『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が暴走状態に入りました』

『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)が【祖竜王の怒り】を発動しました』



 トカゲさんの全身が勢いよく燃え始めた。


「【侮蔑の眼差し】!」


 “沈黙”効果を与えるスキルを発動。いまいちそれが何なのかは分かっていないが、賭けには勝ったようで炎は途中で消えた。

 後でヘルプからちゃんと確認しよう。



「――これで終わりです。【天破砕フラージュ】」



 トドメの一撃が決まり、トカゲさんはドロっと溶けてからガラスでも割れたかのような演出で崩れて消えていった。



『オリジンドラゴンロードゾンビ(Lv.200《制限中》)を討伐しました』

『種族レベルが上がりました』

『種族レベルが上がりました』

『種族レベルが上がりました』

 ・

 ・

 ・


 やはり格上だったからか大量のアナウンスが鳴り止まない。

【修繕】でデッキブラシを直しつつヘルプから“沈黙”の効果を確認。


任意発動アクティブスキルの使用不可……強いですね」


 今更ながらとって正解だった。

 黙らせるの便利そうだという理由で選んだが正解だった。


 みんなは既にステータスを弄り始めていたので僕も――



「っ、天井が崩れます! 皆様下がって――」



 こんな脆そうな場所であれだけトカゲさんが暴れたからか、天井が崩壊し始めた。

 ハルの近くにいるアメリアさんとカナタさんは大丈夫だろうが、前衛の僕、ペロ助、アーヤさんは盾が間に合わない……。



「掴むよ! 【回避】!!」



 と思ったが、アーヤさんが僕とペロ助の腕を掴んで一気に出口方向まで加速した。

 崩れていく中、あっという間に洞窟を抜け、お天道様の下に放り出された。

 勢い余って僕達はそれぞれ地面に投げ出される。

 ボス戦前でもアーヤさんの敏捷は3000以上あったからこの結果にも納得だ。




「いてて……」


 転がった時に石を体にぶつけたりして僅かにHPが減ってしまったが、生き埋めになるよりかはマシだ。

 僕は木の葉のベッドから起きようとして、隣で倒れている見知らぬ女性に気付いた。


 透き通るような美しい空色の髪に、薄らと開かれている目の奥の瞳は深い海のような色に力強い赤で「巾」のような形が刻まれている。

 呼吸は浅く、今にも消えてしまいそうな絶世の美女が横たわっていた。





『ワールドクエスト《護衛任務》を発見しました』





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