14.成金メイドヒビキ

 

 昼過ぎまで猫カフェに行ったりゲームセンターで遊び倒した。そして解散することになったので、帰りに夕飯を済ませてから“Original Trajectory Online”にログイン。

 宿屋のベッドで目を覚ますと、眼前にはダンボールがあった。


「……なぜ跨っているのですか?」

「そろそろログインするかなと思って夜這いをしてる」


「まだ夕方ですが」

「今夜は寝かさないぜっ!」


 とりあえず引き剥がそうとダンボールの鎧を押すも、ストレージから盾を出してハルの背中に装着された。重すぎて僕もハルも盾に敷かれることに。

 流石にそのままだと前側のダンボールが潰れると思ったのか、中身の全身タイツ装備が顕になったと同時に密着してしまった。


「ハル、流石に通報しますよ」

「ほほう? やれるものなら――」


 メニューから即座にGMコールボタンを押した。


「一切の躊躇なし!?」




『はーい、呼んだー?』

「7番様、このムッツリ騎士が夜這いに来たので通報いたしました。何とかしてくださいませ」

「ムッツリ騎士はやめて!?」



『これは俺っちも想定外の通報だね。……プレイヤー間の本気の争いは仲裁してしかるべきなんだけど……この場合はまあうん。いいや。また何かあったら呼んでねー』


 何もしてくれないまま消えてしまった。

 顔に面白そうと書いてあったから愉快犯だろう。


「はぁ、午前中揶揄からかった意趣返しのつもりで間違いありませんね?」

「バレたか……」


「ではあの時に言った言葉は覚えているということですね?」

「?」


「私の胸の感触が実物に近いと証明されましたね」

「――っ!! ヒビキのえっち!!」



 勝手に自爆して、顔を耳まで赤らめながら部屋を飛び出ていった。その際に扉の前で聞き耳を立てていたアメリアさんがおでこをぶつけて涙目になっているが、彼女がろくでもないことを言おうとしているのだけは読めた。



「うぅ……女の子同士ってどうやるのかと思ったけどヒビキは男の子だから……でも胸はふくよかだしついてるのかしら?」


「アメリア様、私は昨日の料理の報酬を受け取りへ参ります。それまであのムッツリ騎士を宥めてくださると幸いでございます」

「え、ええ。ところでヒビキにはその、あれはついて――」



「……」


 僕は無言で窓から飛び降り、【天蹴】を使って空中からオークションコーナーの自販機へと向かった。



「えーと、報酬の受け取り。これで……ふむ」



 置いておいた20皿で、値段の高い順に渡ったらしく。その合計金額――驚愕の約300万Gゴールド。これでしばらくは安泰だ。

 ひとまず僕にとってのライフライン、木材供給源のキコリーさんに取引の連絡をしよう。

 最初に購入した木材は使い切ってしまったので、今回は多めに買いたいところ。


 ログイン中のフレンド一覧からキコリーさんを選択し、通話をかけた。


『おう、嬢ちゃん。木材か?』

「はい。あるだけ頂けると助かります」


『そう言われると思って結構伐採しといたぜ。全部で558だ』

「では端数は次回にまわして頂いて今回は500お願いいたします」


 どうせ10個単位でしか使わないのだから分かりやすくしておいた方が双方にとって楽だろう。というかたった1日でよくそれだけ集められたものだ。木こりを本職にしているだけあってそれ関連のオリジナル装備やスキルの構成になっているのかもしれない。



『了解。150かけ500で75,000だけど予算は大丈夫か?』

「ちょうどさっき300万入りましたので余裕でございます」


『それならいいか。じゃあ取引所に出しとくからそれでよろしくな』

「かしこまりました。ただちに払い込ませていただきます」



 通話を切って改めて取引所を触っていると、僕宛ての出品があったと通知された。

 7.5万G支払うと、木材がストレージに追加された。


 ひとまず用事は済んだので宿に戻ることに。

 宿の前に行くと、準備万端なパーティメンバーが勢揃いしていた。



「あ、ヒビキ遅い!」

わたくしのおかげとはいえ立ち直り早いわねほんと……」

「ちょうど私達もログインしたし出発しようってなったばかりでしょ」

「おっす、行こうぜー」



「もうすぐ夜になりますが大丈夫なのでしょうか?」


 立ち直りの早いハルは無視し、夜の行軍は危険ではないかと心配する。夜目がきくようなスキルは誰ももっていなかったはずだが。



「一応ライトがあるし、アメリアさんも光源の魔法があるらしいし……ヒビキ君なら匂いで索敵できるでしょう?」

「なるほど、では問題ありませんね」


 本当はそもそも視界が狭い状態で野生のモンスターと戦うなんて危険以外のなにものでもないのだが、僕が極力戦闘を避けるようにすれば問題は無いはずだ。



「じゃあレッツゴーだよー!」

「おっしゃあ!」

「夜の冒険……ワクワクするわね!」



「……アーヤさん、ちなみにそもそも夜中の外出は可能なのでしょうか?」

「え? ……どうだろ?」


 そして町の外に出るための門へ行くと、既に閉まっており、門番さんがため息をつきながらこちらにやってきていた。


「君達、もう閉めているからまた明日にしてくれないか」


「先に調べておくべきだったかぁ……」

「そんにゃあ!?」

「まともなことしか言ってないから反論しづらいぜ……!」

「ここはわたくしの顔を立てて――」



「門番さん。少々こちらに来て頂けますでしょうか?」

「ん? なんだなんだ?」


 ガックリしているメンバーから少し離れた場所で、彼女らに背を向けて門番さんにあるものを渡す。

 ストレージから現金化した10万Gゴールドである。


「お互い秘密ということで、ここはどうかお願いできませんでしょうか」

「…………お、おぉ」



 驚きながらも目を輝かせて受け取ってくれた。



「君達、少し身体を調べさせてもらおうか。こちらに来なさい」


「ちょ、別に悪いことなんてしてないよ!?」

「おいおい横暴だぜ!」

「コホンッ、少し静かにしていてくださいませ」



 察しの悪いハルとペロ助を一喝して全員連れて取調所へ入った。そしてそのまま無言で促され、外へ出る方の扉を通って外に出られた。



「ヒビキ君いくら積んだのよ?」

「積んだって――ヒビキが賄賂したのか!?」

「まあ!」

「そんなお金あったの? 私に借金してるのに」



「先程私のは10万です。料理の収入で300万入りましたので。あ、ハルには3万くらい借りていましたよね。5万でお返しいたします」


「やった、ラッキー♪」

「お金持ちじゃない!」

「よ、成金メイド!」



 そんなにおだてられても何もあげないよ。

 というか一国のお姫様にお金持ちだなんて言われるのは不思議な感覚だ。



「……ほどほどにしないと痛い目見るわよ」

「承知しております。しかし、外に出るには他に方法も無かったので致し方ないかと」


 アーヤさんにも注意されたことだし、これ以上余計な散財はしないように気を付けよう。

 そんなこんなで、夜の冒険は幕を開ける。


 ――しかし僕達はこの時、徹夜する羽目になるとは誰も思っていなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る