13.いざ、メイド喫茶へ!
一緒に寝てしまうというアクシデントのせいで遅刻した僕らだったが、改札を抜けて少しして
その様子を呆れながら軽く手を「やっ」と小さく上げる女性と、ツンツンした髪の目つきの悪い男性が居た。アーヤさんとペロ助だろう。事前に聞いていた服装と一致する。
アーヤさんは青い透け感のあるブラウスに、白いパンツで大人っぽい印象。そしてオシャレなメガネまで掛けている。髪は現実でもポニーテールだ。お気に入りなのだろう。
ペロ助はタンクトップに運動用か何かのハーフパンツだ。
ちなみに僕の服装は袖口の広い七分袖の水色のシャツに、カーキのパンツである。
そして僕の隣の遥香は謎の絵のTシャツにジーンズ短パン。
――つまり、僕とアーヤさんは仲間意識を抱いたのだ。
がっしりと握手を交わし、頷き合う。
「いきなり何を分かり合ってるの!?」
「ずりぃぞ
「うちのアホはセンスが壊滅的で諦めたのよ。そっちのバカは?」
「こっちはズボラ過ぎて私服が部屋着なんだよね」
「「――お疲れ様」」
まともな服を着させようとしてもこういう人達はすぐ忘れて戻るから意味が無いんだよね。
お互い気苦労を労わってから、改めて自己紹介することに。
「コホンッ、改めまして、ヒビキでございます。――こっちでは
「ハルこと、
「私は
「俺はペロリスト
冷川朱花さんに椚晴嗣君ね。よし覚えた。
「そういえぱ“Y”でアンタ達の写真出回ってたけど大丈夫? 結構バスってるけど」
Y? どうして急にそんな単語が?
「響、“Y”はSNS……みんなの落書き帳的なやつだよ!」
「なるほど。そこに僕らの写真が掲載されていたというわけね」
「いやー、遅刻しといてこれとは俺も驚いたよ。響は男前だなぁ!」
「そうね、よくこんなことが……」
「え、なになに何を撮られたの――」
「変なことした記憶は無いんだけど――」
冷川さんが見せてくれたスマートフォンを覗き込むと、そこには僕が眠っている遥香を抱っこしている写真があった。起きないから無理やり折り返しの電車に乗った時のだろう。チラホラ居た人の中にこれを撮った人がいたようだ。
「私の知らない間にお姫様抱っこされてる!?」
「文も添えられてる……“やせいの王子様があらわれた!”だって、変なの」
「変なのは響だよ! え、なんでよりによってその抱き方なの?」
「手軽だし」
「そういう問題かっ!!」
あまり気に入らなかったのか、息を切らしながらツッコミを入れてくる。
寝起きだから元気が有り余っているのだろう。元気なのはいいことだ。
「まあそれは置いておいて早くメイド喫茶とやらへ行こうよ」
「お、そうだな」
「こんのド天然が!!」
「まあまあ、アンタも寝てたみたいだし許してあげなよ。……あれ、寝てる女性をお姫様抱っこしたって解釈だとよりマズイのでは?」
わちゃわちゃしながらも、のんびりメイド喫茶へ向けて出発した。
「椚君はそのスポーツ向けのようなハーフパンツからして何かスポーツやってるの?」
「お、目ざとい。趣味でスノボをちょっとな」
「なるほどスノーボード……」
……スノーボード? あれって寒い場所でやるスポーツだよね? ならそのハーフパンツは関係無いのでは?
「響は何かやってたりするのか?」
「スポーツの経験は無いよ。軽く護身術は習ってたけどそれくらい。どっちかというと文化系の習い事ばかりだったかな」
「護身術かぁ。今更なんだけど“めいどう”ってあの有名なとこのお坊ちゃんなのか?」
「いや、そっちは東だね。僕のは明るいに聖堂の堂だよ。一応分家ではあるけど、今は自由の身だから普通に接して欲しいな」
「オーケーオーケー。普通は得意だぜ!」
「僕も普通は得意だよ」
僕の苗字から勘違いされることは慣れている。
――この国には、かつての日本の財閥に近い“家”が4つ存在する。
“
そのうちの“
だからそこまで事情に詳しくない人にはよく勘違いされる。
「ねぇねぇアーヤ氏」
「アーヤ言うな朱花よ」
「アーヤ氏、私達はあの2人がメイド喫茶行ってる間だけそこら辺の喫茶店に行かない?」
「アーヤ言うな。なんでわざわざそんなことするのよ。メイド喫茶に女性が居たって今どき変じゃないわよ」
「そうじゃないんすよアーヤ氏」
「だからアーヤはやめてって――」
僕と椚君の後ろを歩いている2人も仲良さげに喋っている。この2人は元から知り合いだったらしいし距離感も近い。
「ここだ。いやー、楽しみだな」
「メイド喫茶“しぇいく”……一体どんなメイドが働いているのか楽しみだね」
「ほら、逃げないの」
「メイドさんは私も好きだけど! そうじゃないってば!」
なぜか抵抗し始めた遥香も朱花さんが引っ張って一緒に入店した。
「おかえりなさいませ、ご主人様、お嬢様♪」
「へ、へへ、どうも」
「……」
「ほら、いい加減しゃんとしなさいってば」
「うぅ……」
初めてのメイド喫茶に笑顔が隠せない様子の椚君と親子のような女子陣。
そしてそのまま席に案内され、一同メニュー表を手にして座った。
――僕を除いて。
「先に楽しんでて。ちょっと席、外すよ」
そうして僕は店を出て通り道にあった安売りのお店に寄ってメイド服やウィッグ等々必要なものを購入した。人気の無い公園の公衆トイレで準備を整え、ついでに気になる箇所を常備している裁縫セット出手直し。これくらいでいいだろう。15分くらい経ってしまったが、どうにも我慢ならなかったのだ。
メイド喫茶に戻り、作法にならって扉を開けた。
「おかえりなさいませお嬢さ……ま?」
「礼はこのように、角度を――」
「ツレが大変しっっつれいしましたーー!! ほら、駄メイド! 行くよ!」
「遥香? 何故止めるのですか。完璧なメイドとしての流儀を叩き込まねば私のメイド魂が収まらないのです!」
「やかましいわい! こうなると思ったから嫌だったんだよー!!」
襟を掴まれ、遥香に無理やり引きずられ、たまたま着替えた公園に運ばれてしまった。
「その服は?」
「先程購入し、自身で軽く改良いたしました」
「被告人駄メイド、動機はなんだね?」
公園のベンチで裁判が始まったようだ。
遅れて傍聴人の椚君と冷川さんもやってきた。
「動機というと少し誇張されているような気はいたしますが――ただ、メイドとしての練度があまりにも見ていられないレベルでしたので教育をと考えた次第でございます」
「あのねぇ。メイド喫茶っていうのは、普段見られないメイドさんに接客してもらうっていうコンセプトなの! ガチメイドなんて居ないの!」
「……つまりメイド養育施設ではなくただのおままごとだったのですか!?」
「その言い方は色んな方面に角が立つからやめようか。ともかく、響の家にいるようなメイドのクオリティのメイド喫茶なんて無いの」
そんな馬鹿な……。メイドが働いていると聞いて、僕ももしかしたら家の都合に関係の無い外でならできるのではないかと期待していたのだが、残念だ。
「…………そう、ですか。菓子折りを持参して謝罪に――」
「行かんでよろしい」
「ちゃんと謝ってきたから行かなくていいわよ。というかまた暴走しそうだし」
「俺の説明不足だったか……ほんとごめんな?」
「いえ、椚様は何も悪くありません。全て私が勝手に勘違いしただけのこと」
「ていうかいつまでそれ着てるの? いい加減私も怒るよ?」
既に怒っている遥香に急かされて元の服装に着替え直すことに。
せっかく楽しいお出かけだったのに台無しにしてしまった。
「ね、私は確かに馬鹿だけど、あっちは尋常じゃないほどのド天然だからどっこいどっこいでしょ?」
「あれは常識不足からくる天然さだから、慣れればあっという間にどっこいどっこいじゃなくなりそうだけどね」
「それよか響めっちゃかわいくない? 俺も女装したらああなれるかな?」
「「無理
微妙な空気になっていると思っていたが、案外普通だった。
「お、響来たか。恥かかせちゃったお詫びに今度こそ楽しめるとこに連れてくぜ! 響も紫村さんもアレルギーは何かあるか?」
「僕は何も」
「私もー」
「よっしゃ、なら猫カフェ決定じゃい!」
「おー!」
「天才か!」
「子供が3人って大変ね……」
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