11. 第二の町にて

 


 エリアボスと銘打った、戦闘による関所を超えた僕らはその後も順調に進んでいた。

 僕やハルはもちろんとして、ペロ助やアーヤさん、アメリアさんもあの時の襲撃の際にモンスターを倒していてかなりレベルが上がったそうな。

 ちなみに道中のモンスターはパーティのレベルのバランスを合わせるためアメリアさんを中心に攻撃しているため、武器の修繕がこれ以上できない僕はのんびり索敵に徹していた。



「到着いたしましたね。ここがグランセル王国第二の町、ドゥですか」

「冒険と色の町と本で読んだわ。きっと治安の悪い町に違いありませんことよ!」

「やっぱりそれくらいじゃないとファンタジーとしての手応えが――」


 ハルがワクワクと胸を躍らせている中、僕らは新たな舞台に足を踏み入れるのだった。





「……治安、というよりあれでございますね」

「……気前、かしら」

「……うん、良い人達だね」


 ちなみに宿はとってあり、ペロ助とアーヤさんの二人は家族付き合いの夕食があるらしく既にログアウト済み。僕とハル、アメリアさんで町を散策している際の感想である。


「お、見ねぇ顔だな! ここの青リンゴはうめぇぞ! ほれやるよ」


 だの。



「あら可愛らしいお嬢さん方ね。これ景気づけにどうぞ〜」


 通りすがりの酒場で串焼きをもらったり。

 余所者に対する懐がとにかく広いのだ。逆に疲れてくるくらいに。

 しばらく貰い物を次々ストレージに投入していって、日が沈み始めた頃。人々の喧騒が強まった。


「――アメリア様、ハル、こちらへ」


 視界の端に映った特長から即座に全員で物陰に隠れた。アメリアさんと同じ金髪蒼眼、そして率いている兵からして間違いなくこの国の王子、アメリアさんの兄か弟だろう。

 面識が無いとはいえ王族に直接鉢合わせするのはマズイ。特にこの辺で艶のある金髪なんて嫌でも目につくから勘づかれる可能性がある。



「ヒビキ? ふぉうひはほどうしたの?」

「アメリアちゃん! 食べながら喋るのは行儀悪いよー!」


ふぁああらほへんほへんごめんごめん

「さては聞いてないな!?」


 まったく、こっちが真面目にやっているというのにふざけた王女と騎士もいたものだ。


「アメリア様にハルが伝染うつっ……アメリア様がハルに似てきているような気がしましたので、これはもう世間様に見せられたものではないと思いまして」

「ハルのせいね! それにしてもあのパン美味しかったわ……」

「これ私が悪いの!?」



 そうこう戯れているうちに王子一行は王都へ帰還するため町から立ち去っていったようだ。



「それはともかく! この先の分かれ道の左に冒険組合があるから早く行こ? 大きい施設らしいし楽しみー!」


「み、右は色町よね――」

「そ、そうですね――」


 やはり僕としても純粋にどんな場所なのか興味がある。


「「じゃあでは右へ行こうかしら行きましょう!」」


「この思春期どもめい!!」



 問答無用で右へ進む僕らに文句を垂れながらハルはついてきた。


「はわ、わわ……」

「アメリア様、指の隙間から見えています。私がちゃんと目を塞ぎましょう」


「はぁ、この思春期王女と思春期メイドはほんと何がしたいのやら」


 うっふ〜んと効果音が鳴っていそうな場所なんだ。これくらい普通の反応だろうに大袈裟な。


「あらあら、君達ナニがしたいの?」

「違わい! って誰!?」


 服の透けてる女性が話に混ざってきた。

 大人の女性といった雰囲気の人だ。


「そこの娼婦よ」

「じゃなかったら驚いてたよ」


「あ、そんな気を遣わなくて大丈夫だからね。この通りで働いてる達は大体趣味でやってるから」

「今の私達にとっては余計に問題だけどね!?」



 どうやらハルは僕らが食べられてしまうのではないかと警戒しているようだ。女性はむしろ男に飢えているような眼光だし別に大丈夫だと思うが……。


「変ねぇ。若くて初心な男の気配がしたから来たんだけど気の所為だったかしら」

「それならそこのメイドが男だからかなー」

「メイド? ……あ、今私の話してます?」


「本人も忘れてた!?」



 そもそもこの身体アバター、排泄機構が備わっていないからどちらでも無い気はするがどうなんだろう。


 メニュー画面を開いてヘルプを押して確認してみる。ふむふむ、設定から年齢制限表示をいじることでこともできる、と。いやしないけれども。


「この子が男……」

「分かるわ。わたくしもヒビキが男だと聞いたときは目が飛び出るかと思っ――」


「めっちゃアリね!」

「はわわ……大人の女性ってすごいのね……」

「アメリアちゃんはあんな大人にならないようにね……」



「アンナ、仕事に戻っ――」

「あのメイドちゃん、男なんだって!」


 おっと。


「……へぇ?」

「なになにどうしたの?」

「あの子男なんだって」

「めっちゃ可愛い。食べてしまいたい」

「ご奉仕とかしてくれるのかな……」

「くんくん、童〇の匂い!」



 わらわらと集まってきた。

 変な汗が滲み出てくる。アメリアさんは目を塞いでいるように見せかけて指の隙間から覗いているだけだし、ハルも「あ、やべ」と目を逸らしているだけ。仲間とは何か、今一度広辞苑で引く必要がありそうだ。


『ミニクエスト《被食者の宴》を発見しました』


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 ミニクエスト

 《被食者の宴》

 難易度:☆1

 地獄? ノンノン、天国な。

 設定から年齢制限を解除してくれよな!


 基礎報酬

 ・BSP1

 ========



「ふん!」


 現れたクエストの詳細を示す半透明な板を思わず殴りつけたが案の定通り抜けるだけだった。


「ハル!」

「……一発大人になってきな!」


「ハル!? くっ、アメリア様援護を」

「はわわわわ……きゅぅ」



「アメリア様!?」

「アメリアちゃんが死んだ! ヒビキの人でなし! お姉さん方、やっておしまい!」


 ハルの一言でヨダレを垂らした女性達が獲物を見る目でにじり寄ってきた。

 ハルにはお仕置が必要らしい。後で懲らしめてやる。



「失礼しました!」


 とりあえず今は逃げよう。

 こんな所で不本意な腹上死はごめんだ。何としても貞操を守りきる。

 しばらく走っていると今度はいかつい男性集団と遭遇した。


「嬢ちゃん! ここは俺らが食い止める! 早く安全な場所へ行くんだ!」


「ありがとございます! どうか、ご無事で……!」




 親切な男性らに殿しんがりを任せて僕は全速力で宿に帰還した。危なかった。もう二度とあそこは通らないようにしよう。



「ただいまー、ヒビキも大変だったねー」

「大丈夫だった? 気絶しちゃってどうなったか知らないけどやっぱり大人の階段を……」


「登ってません。アメリア様はこちらのりんご飴を食べていてくださいませ」

「むほっ!?」


 とりあえず罪の無いアメリアさんにはここで待って貰うためりんご飴を押し付けた。

 そして町で購入した私服を着ているハルを見やる。


「あー……やっぱり怒ってる?」

「怒っていません」


「いや怒って」

「いません」


「……」

「ところで足に何かついていますよ。とって差し上げましょう」


「ありが――」



 足首を掴んで持ち上げる。

 鎧を着ていない彼女を持ち上げることなどレベルが上がって筋力の上がった僕なら余裕だ。

 仕留めた獲物を運ぶようにしながら、僕は宿の窓を開けて【天蹴】を使って空を歩いていく。



「あ、あのー、ヒビキ、さん?」

「そういえば」


「は、はい! なんでありましょう!!」

「高校のとき休み時間に“そんなことより野球しようぜ”と突然言っていましたね」



 懐かしがりながらかなりの高度まで歩いた。

 ハルを片手に、僕はデッキブラシを取り出す。


「や、野球ね! ちょうど私の盾でベースとかに使えるし今からしにいこっか!!」

「しかし素人としてはバッティングセンターのような遊び方で満足なのです」


「……そ、そっすねー」

「という訳で私がバッター、ハルはボールでございます。よろしくお願いいたします、ハルボール」


 握っていたハルを上に放り投げた。



「ちょ、待って! 考え直――」

「【天破砕フラージュ】」


 そのままデッキブラシをバット代わりにしてハルの胴体を打ちつけた。そこまで筋力特化ではないので重力による下方向の方が長い、垂直に近い放物線を描いて落下していった。



 彼女は盾を自由自在に扱えるオリジナルスキルがあるからあれで落下死することはないだろう。

天破砕フラージュ】の手応えとこの綺麗な夕日に免じて今回はこれくらいで勘弁しよう。


 それにペロ助から連絡があって明日メイド喫茶とやらに行くことが確定しているからあまり夜更かしはしたくない。


 僕は夕日を眺めながらゆっくり宿に戻っていった。


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