10.カッチカチのゴールデンゴーレムの粉砕業務もメイドの嗜みでございます
あらかじめ野菜炒めを全員に食べさせながら作戦を伝えた。
僕が前衛で攻撃、ハルが中衛で僕と他の皆のカバーを。
そしてアメリアさんは後方で待機、ペロ助とアーヤさんはすぐにアメリアさんのもとに行ける場所に隠れて待機してもらうことに。
要するにボスは僕がメインで、ハルがサポート。二人で倒すスタイルなのだ。
窪地の端に皆を置いて一人歩き始めた。
砂埃が歓迎してくれるように舞う。
ボスの名前は“ゴールデンゴーレム”、レベルは85……ハルから聞いた情報だとここのボスは25なのだが、クエストのせいだろう。
「さて、初仕事ですし――綺麗さっぱりお掃除といしましょうか」
『ゴールデンゴーレム(Lv.85)が【黄金烈線】を発動しました』
「【挑発】【
ゴーレムが口から放った光線を、ハルは背中を除いて盾を身に纏って棒立ちのまま受け止めた。
1ミリも後退していない辺り、装備の性能はさすがと言える。おそらく横からのベクトルより盾の重量による下へのベクトルの方が圧倒的に大きいのだろう。
『ゴールデンゴーレム(Lv.85)が【圧殺腕】を発動しました』
煌めく剛腕が振るわれたが、相変わらず棒立ちのままハルは平然と頭で受け止めた。流石に地面が砕けているが本人は平気そうだ。盾が頑丈でも潰れてしまいそうだが、そこはゲーム補正というやつなのだろう。
ゴーレムの猛攻をハルが全て耐えてくれている間に僕は足元まで移動し、デッキブラシを振りかぶった。
「【
かなり長いHPバーを一撃で一割も削った。
折角CTもない事だし、【修繕】は後でまとめてやろう。
「【
淡々とゴーレムの膝に光るデッキブラシの角で殴る。みるみる削れていって、単調な作業ながらも爽快感も伴っている。
残り三割まではゴーレムも【挑発】でハルばかり攻撃していたが、急にこちらに視線を向けてきた。足元にいた僕を踏み潰さんと地団駄を起こそうとしている。
『ゴールデンゴーレム(Lv.85)が【大地粉砕】を発動しました』
余程威力が高いのか攻撃速度はそこまで速くない。【天蹴】があるので難なく空中へ回避しながら二発一気に反撃を入れた。
攻撃が当たるとエフェクトと与えたダメージ(減らしたHPのことらしい)の数値が表示されている。先程から見ていたが、このゴーレムの最大HPの一割は15000、つまり最大で150000というわけだ。筋力に全てを捧げたペロ助で1500近く、計算式は不明だがゴーレムの防御力のことも考慮すると――僕ってかなり相性が良かったのではなかろうか。
『ゴールデンゴーレム(Lv.85)が暴走状態に入りました』
『ゴールデンゴーレム(Lv.85)が【乱れ花火】を発動しました』
ゴーレムの各関節から光線が一斉に放たれた。
流石に空中を歩けるとはいえまだ慣れているわけでもないので、どうしたものかと回避経路を探っていると視界の端から盾が飛来していくつかは防いでくれた。
――まったく、頼れる親友だ。
「【
空を蹴り、勢いよく回転しながらデッキブラシをぶつけた。高揚して上がりそうな口角を上げないようにしながら。
デッキブラシが真ん中でポッキリ折れたと同時にアナウンスが聞こえた。
『ゴールデンゴーレム(Lv.85)を討伐しました』
『種族レベルが上がりました』
『種族レベルが上がりました』
『種族レベルが上がりました』
・
・
・
・
・
うわぁ、アナウンスが止まらないや。まとめて後でステータスを確認すればいいかな。
ゆっくりと地面に着地しながら【修繕】を使っていく。
「――馬鹿デスネ! 護衛が疎カデース! 【大氾濫】【奇妙な片腕】!」
黄色い仮面をつけた男が袋を床に置いてアメリアさんに手を伸ばした。森から更に巨大なモンスターを10匹ほど連れて。
やはり来たか。ボスの変質の原因、クエストに関わる界滅教団の人物だ。赤、黒に続いて今度は黄色ね、一体何色いることやら。
あらかじめ割り振っておいてよかった。
最高のサポートと最強の火力要員を残しておいて正解だった。
「【
「任せろ! あとハゲ言うな!」
初手で手を伸ばした仮面の男性の仮面を殴打で吹き飛ばし、その隙をつかれてモンスターに噛みつかれてHPバーが消し飛んだ。
しかしアーヤさんのオリジナル装備のスキル効果の、15秒間の蘇生効果で即座に復活した。
「どおりゃああ!!」
モンスターをガンガン殴り殺していっている。
あの様子なら問題ない無いだろう。僕が向こうに行ってもやれることは少ないし――集まってきているモンスターをなんとかしないといけない。
幸いお手頃なアイテムが転がっているから利用させてもらおう。僕はハルに目配せをしてから倒れているゴーレムの心臓部から点滅している部分を取り出した。匂いから分かる。これはあと少しで爆発しそうなのだ。
「まったく、用意周到な人ですね」
ハルからはこのボスに自爆する要素があるなんて話は聞いていないので、おそらくペロ助のパンチを顔面で受けたあの黄色い仮面の人の仕業だろう。
点滅する心臓のような水晶を手に取り、迫り来るモンスターの群れに投げ込んだ。
――直後、派手な閃光と共に爆発が起きた。
僕はハルの盾に守られ、亀のように縮こまって爆風を凌いだ。レベルアップのアナウンスを聞き流しながら向こうの戦いに目を向ける。
「【
ちょうどペロ助がオリジナルスキルを使って5秒間で無双している様子が見れた。
黄色い仮面の男も余波だけで吹き飛んで行動不能に陥っている。はち切れんばかりの
「っしゃオラァ! どうだコンニャロー!」
「まだ油断は禁物よハゲ」
「まだ、だ……」
黄色い仮面の人が立ち上がった。
僕はいつでもサポートできるように移動する。ペロ助のオリジナルスキルは時間切れで満身創痍、アーヤさんの復活スキルも時間切れだから何か仕掛けられたらマズイ。
と思っていたが、向こうは撤退を選んだようだ。
黒い仮面の男性が現れたのだ。
「いや、終わりだ。あのゴーレムの製造にどれだけつぎ込んだと思っている。これ以上の損失は出させん」
「……次はアレを出してもいいんだろうな?」
「好きにしろ。では行くぞ」
「この借りは必ず返すぞ筋肉ハゲ男め」
そう言って黒い仮面の人の能力で溶けるように消えてしまった。
「誰が筋肉ハゲ男だ! あんのヒョロガリメガネが……!」
「いい加減自分で決めたんだから受け入れなさいよ。毛根なんて無いってさ」
「るっせぇやい!」
幼なじみ同士の戯れは楽しそうなので放っておいて、たった今気付いた違和感をハルと共有しようと思ったが――どうやら彼女も同じことに気付いたらしい。
盾を収納してアメリアさんを連れてこちらに寄ってきた。
「ねぇヒビキ」
「ええ」
長年……と言っても高校一年生の時に出会ってからだから5年、かなりの間一緒に居たから言葉を交わさずとも彼女が僕と同じ考えなのは分かる。
「レベルすんごい上がったよね!」
「…………そうですね」
……思ってたよりお馬鹿さんだったようだ。
どうやらゲームをする際のIQと察しの良さは比例しないらしい。
ハルはそのままステータスを弄り始めたので、確証の無い憶測は胸に抱えておこう。パッドだけど。
その憶測というのは、黒い仮面の消極的すぎる点についてなのだが、
「アメリア様は大事ありませんでしたか?」
「おかげで平気よ。でもよく伏兵が居るなんて分かったわね」
「彼らはアメリア様を狙っているようでしたので」
「確かに、あんな大きいゴーレムが居たら気を取られるものね」
本来ならあのゴーレムを倒すのにはかなり骨が折れるため、戦闘中に仕掛けるつもりだったのだろうが、僕のオリジナルスキルの相性が良くてあのタイミングになったのだろう。
何れにしても無事なら何より。
ハルがステータスを弄り終えたようでアメリアさんと戯れ始めたので僕も一気に上がったそれを調整するとしよう
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プレイヤーネーム:ヒビキ(R)
種族:純人族
種族レベル:(4→)49/100
ジョブ:メイド(1次)
ジョブレベル:(2→)8/30
└器用20%上昇
満腹度:76/100
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:1060/(160→)1060[+10]《(100+480-50)×2》
MP:540/(90→)540[+5]《(30+240)×2》
筋力:(26→)116[+1]《(10+48)×2》
知力:(26→)116[+1]《(10+48)×2》
防御力:(26→)116[+1]《(10+48)×2》
精神力:(26→)116[+1]《(10+48)×2》
器用:(31→)139[+1]《(10+48)×1.2×2》
敏捷:(26→)116[+1]《(10+48)×2》
幸運:(26→)116[+1]《(10+48)×2》
BSP:(65→)290[+5]
SKP:(32→)212[+(2×2)]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):所作(3→)5
通常(アクティブ):修繕(1→)2・調理4
魔法:生活魔法2
ジョブ:清掃(1→)2
〈装備〉
頭{天破のホワイトブリム}
耐久値:93/100
・HP-50
胴{天破のエプロンドレス}
耐久値:93/100
・BSP,SKP除く全パラメータ2倍
足{天破のストラップシューズ}
耐久値:86/100
・【天蹴】
└常時空中を自由に歩ける。
武器{天破のデッキブラシ}
耐久値:100/100
・【
└武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。
CT:0秒
└セット効果:獲得SKP2倍
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
オリジナルスキル
【
効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。
デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。
通常スキル(P)
【所作】レベル:(3→)5 習熟度7/25
立ち振る舞いに補正がかかる。
通常スキル(A)
【修繕】レベル:(1→)2 習熟度14/100
素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。
CT:3秒
【調理】レベル:4 習熟度11/20
補正のかかった作業を行える。
・切る
・焼く
・蒸す
・炒める
更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。
(レシピ)
・{無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}
魔法スキル
【生活魔法】レベル:2 習熟度5/20
・〖種火〗
種火を生み出す。
消費MP:1
・〖放水〗
水を放つ。
消費MP:3
ジョブスキル(P)
【清掃】レベル:(1→)2 習熟度3/10
清掃の行動に補正がかかる。
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一気に上がったなぁ……。
とりあえず
取得可能スキル一覧を流し見していく。上の方は最初から選べるようなものばかりだ。指を勢いよく下から上に動かして1番下から見ていくことに。
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取得可能スキル一覧
必要SKP /スキル名/分類(
└効果
・
・
・
60/【侮蔑の眼差し】/A
└5秒間対象に“沈黙”を付与する
100/【全能力上昇】/P
└BSP,SKPを除くパラメータアップ
120/【毒無効】/P
└“毒”、“猛毒”を無効化する
150/【確固たる自我】/P
└状態異常に対する抵抗確率を上げる
200/【共感覚体験】/A
└自身の
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必要SKPで見て所持分までしか表示されないが、流石にこれ以上重いコストのスキルは無いだろう。【共感覚体験】は面白そうだが、まずは個人的な戦略の幅を広げるべきだろう。状態異常を抵抗する系のものが多いのは僕のオリジナルスキルで抵抗していたからのはず。
それにしても、気になるのはやはり【全能力上昇】だ。【筋力上昇】をはじめとした系列のスキルはすべて必要SKPが10、つまり全てで90で済むはずなのだ。それをわざわざ100でまとめている辺り、それ相応のメリットがあるのではないだろうか。
――よし決めた。今回はこの2つをとろう。
『【侮蔑の眼差し】を取得しました』
『【全能力上昇】を取得しました』
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通常スキル(P)
【全能力上昇】レベル:1 習熟度:0/5
BSP,SKPを除く全パラメータ+100
通常スキル(A)
【侮蔑の眼差し】レベル:1 習熟度:0/10
視認した対象に5秒間“沈黙”を付与する。
CT:10分
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この画面を見て気付いたが、【全能力上昇】は、レベル1からレベル2にする時に必要な習熟度はバラバラの時も【全能力上昇】も同じだった。アーヤさんのステータスにあった【幸運上昇】も5が上限だったはず。
つまりSKPで習熟度を上げればレベル2にするだけでも40もお得になる。
僕はホクホク顔でステータスを閉じて視線をハルとアメリアさんの雑談に混ざりに行った。
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