9.ゆる〜い冒険へ

 

「ほう、メイド喫茶なるお店が存在するのですか」

「まさか知らなかったとはなー。今度一緒に行こうぜ? 俺も行ったことない……というか行く勇気がなかなか無いし」



「ではご一緒させていただければ。いつ頃にします?」

「じゃあ明日とか? てかどこ住みなんだ?」


「私は群馬県在住でございます」

「マジ? 俺埼玉だからお隣ってわけか。群馬ならすぐ行けるし本当に明日行くか」


「そうですね。集合場所さえ決めていただければバイクで向かいましょう」

「おっけ。いい感じのとこ調べて後で連絡するわ」


 モンスターとなかなか遭遇しないので普通に雑談しながら歩いている。ここでフレンド登録するとVR機器の方にも連絡がくるので通知ありのランプが光ったら確認すればいい。スマートフォンがあれば専用のアプリケーションから連絡がとれるらしいが、僕はガラパゴスケータイしか使えないのだ。ケータイでやりとりしたければ直接会って電話番号を交換する他ない。


 それにしてもメイド喫茶か……僕がメイドに憧れを抱いていたのはハルも知っていただろうに、なぜそんな場所があるのを教えてくれなかったのだろう?

 まあいいか。実家や色んな人が集まるパーティーでしか見ないメイドがいるというだけで十分だ。きっと彼女も知らなかったのだろう。



「アメリアちゃんツインテールも可愛いね!」

わたくしで遊ぶんじゃなーい!」

「ハル、うちのバカがヒビキ君をメイド喫茶に誘ってたけどいいの? あの様子だと知らなかったみたいだし、何か理由があって教えてなかったんじゃ――」


「……アーヤちゃん。ヒビキは確かにメイドが好きだよ。でもあれは単なる好意じゃなくて、もっと歪な拗らせた執着なんだ」

「あー、そういうタイプか。触れないでおくよ」


 女性陣も仲良さげだ。僕はペロ助が出題している筋肉名当てクイズ中なので聞こえないが楽しそうならよし。


「確か外腹斜筋だったはずです」

「正解! じゃあここは?」


「大腿――モンスターです」

「ん?」



「正面から獣の匂いがします」

「っ! ハルさん盾だ!」

「了解、【挑発】!」


 直後、ハルの出した盾に狼が突撃してきた。狼のレベルは10だ。


『ロンリーウルフ(Lv.10)が【粉砕顎】を発動しました』


 声の出せないモンスターのスキルはアナウンスさんが教えてくれるらしい。突撃後のかみつきがハルの盾を襲うが、傷一つついていない。


「やっちゃいなさいハゲ! 【月光神舞クレイルリュンネ】!」

「ハゲじゃなくてスキンヘッドだ! 〖ビッグスラッシュ〗!」



 豆腐でも切るようにペロ助は狼を縦に真っ二つにした。


『ロンリーウルフ(Lv.10)を討伐しました』

『種族レベルが上がりました』

『種族レベルが上がりました』

『【所作】のレベルが上がりました』


 何をしなくてもパーティにいるだけでレベルが上がった。索敵したという判定で貢献した扱いした可能性もあるが――ちょうどいい。


「アメリア様、進行方向を12として4時方向に攻撃魔法をお願いいたします」

「任せなさい! 〖ウィンドランス〗!」



 風でできた槍が僕の示した茂みに飛んでいく。

 何かを貫いた音と共にアナウンスが聞こえた。


『クレイジーハイエナ(Lv.8)を討伐しました』

『種族レベルが上がりました』


 ハイエナまでいるのか。

 僕は猫さん派なので犬系の動物にさんはつけないよ。



「ハル、ハイエナの経験値は入りました?」

「ハイエナ? 今の攻撃でハイエナ倒したの?」


 討伐アナウンスすら別というわけか。

 となるとやはり討伐の際の貢献に応じてレベルが上がるのだろう。その旨を全員に共有しておく。

 上がったレベルを比較してみることになったので確認してみると、アーヤさんとペロ助は狼で1だけ、ハルと僕は狼で2つ上がった。アーヤさんは装備のセット効果もあってかジョブレベルも上がったらしい。



「種族によって、というより純人族は基礎パラメータが低い代わりに成長しやすいって特徴だったりするのかな?」

「そうね。それに、索敵は大事だけどそれだけでこの上がり幅ってことは貢献度ではなくて関わればいい、みたいな判定の可能性もあるかもね」



 真剣なゲーマー女子は置いておいて僕はモンスターを直接倒した2人にプチインタビューをしていた。


「やはり豆腐みたいでした?」

「料理したことねぇけどたぶんそんな感じだな」


「ではアメリア様はどんな手応えでした?」

「うーん……ズドンッ、て感じ? あ、やっぱりベンッ、シュビーン、ホワワンって感じかも」


 ダメだ。まともに言語化できる人が居やしない。

 特にアメリアさんの擬音語は何一つ理解できない。大物がきたら僕が倒してその感覚を味わう他なさそうだ。


 そうだ、ステータスを確認しておこう。





 ========


 プレイヤーネーム:ヒビキ(R)

 種族:純人族

 種族レベル:(1→)4/100

 ジョブ:メイド(1次)

 ジョブレベル:2/30

 └器用20%上昇

 満腹度:99/100


 〈パラメータ〉

 ・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値

 ・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式

 HP:160/(100→)160[+10]《(100+30-50)×2》

 MP:90/(60→)90[+5]《(30+15)×2》

 筋力:(20→)26[+1]《(10+3)×2》

 知力:(20→)26[+1]《(10+3)×2》

 防御力:(20→)26[+1]《(10+3)×2》

 精神力:(20→)26[+1]《(10+3)×2》

 器用:(24→)31[+1]《(10+3)×1.2×2》

 敏捷:(20→)26[+1]《(10+3)×2》

 幸運:(20→)26[+1]《(10+3)×2》

 BSP:(50→)65[+5]

 SKP:(20→)32[+(2×2)]


 〈スキル〉

 オリジナル:純白ブランシュ

 通常(パッシブ):所作(2→)3

 通常(アクティブ):修繕1・調理4

 魔法:生活魔法2

 ジョブ:清掃1


 〈装備〉

 頭{天破のホワイトブリム}

 耐久値:100/100

 ・HP-50


 胴{天破のエプロンドレス}

 耐久値:100/100

 ・BSP,SKP除く全パラメータ2倍


 足{天破のストラップシューズ}

 耐久値:86/100

 ・【天蹴】

 └常時空中を自由に歩ける。


 武器{天破のデッキブラシ}

 耐久値:100/100

 ・【天破砕フラージュ

 └武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。

 CT:0秒


 └セット効果:獲得SKP2倍



 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 オリジナルスキル

純白ブランシュ

 効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。

 デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。


 通常スキル(P)

【所作】レベル:(2→)3 習熟度6/15

 立ち振る舞いに補正がかかる。


 通常スキル(A)

【修繕】レベル:1 習熟度8/10

 素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。

 CT:3秒


【調理】レベル:4 習熟度11/20

 補正のかかった作業を行える。

 ・切る

 ・焼く

 ・蒸す

 ・炒める

 更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。

(レシピ)

 ・{無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}


 魔法スキル

【生活魔法】レベル:2 習熟度5/20

 ・〖種火〗

 種火を生み出す。

 消費MP:1

 ・〖放水〗

 水を放つ。

 消費MP:3


 ジョブスキル(P)

【清掃】レベル:1 習熟度4/5

 清掃の行動に補正がかかる。


 ========


 パラメータに割り振れるBSPもスキルを習得できるSKPも今は触らないでいいかな。特にSKPで見ることができるスキルは必要分保持していて何らかの条件を満たしたものだけっぽいのだ。

 パラメータ強化のスキルをとるために90になるまでは我慢。



「確認終わった?」

「はい。バッチリです」


「じゃあヒビキには先頭立ってもらっていい? なんであそこまで正確に察知できたのかはわかんないけど、索敵出来るならお願いしたいんだ」

「普段森の中を歩いてますし感覚は鋭い方ですので構いませんよ」


 ハルから、実績を見込まれて先頭に配置されることに。


「あ、でもどこかにボスがいるから、強そうなモンスターを察知したら遠回りしてレベル上げしてから挑むよ」

「なるほど?」


 詳しく話を聞いてみると、どうやらゲームとして町と町の間には強いモンスター、ボスと呼ばれる存在が立ちはだかっていて、そいつを倒さないと通れないらしい。

 他のサーバーのプレイヤーとも交流できる場所があるらしく、そこで推奨種族はレベル20以上だという情報を入手したようなのだ。


 とりあえず警戒しながら進む。



「ここまでモンスターとの遭遇頻度も少ないことですし、しばらくは――」


『ボスエリア《三途の採掘場》に侵入しました』

『ヒドゥンチェーンクエスト《王家を狙う魔の手①》の影響でボスが変質しました』

『ヒドゥンチェーンクエスト《王家を狙う魔の手①》中は通常退出できません』



「……ボスエリアとやらに入ったそうです」

「建てかけのフラグを回収した!?」


 アナウンスでは出られないといった説明がされているが、なんとか出られないかとの試みるも透明な何かに阻まれる。



「しかも入ったら出られないそうです」

「あちゃー」

「ま、ヒビキのスキルもあるし倒せるんじゃね?」



 手を額に当てるハルと、コキコキと指を鳴らすペロ助。そしておそらく僕の次に前に居たアーヤさんは範囲的に入っていることだろう。



「ごめん、私も入っちゃってるみたい」

「アーヤちゃん言い方マズイよ! ただでさえ格好もマズイのに!」


「マズイのはあんたの頭の方よ!」

「えへへ……」



 すごい。こんなに入る気の起きない会話は滅多にお目にかかれないよ。




「ま、進むしかないんじゃねぇの?」

「本当ね。なぜか戻れないわ」

「思春期の男子中学生な精神年齢のお二人は置いて、行きましょうか」



「ちょ、私までその扱いはやめてくれない?」

「まあまあ、アーヤちゃんは格好の通り素でエロガキだか……あだっ」


 アーヤさんがハルの頭部をチョップして止めた。


「いい加減行くよ」

「ごめんごめん。ついウザ絡みしたくなって」



 気の抜けたゲーマー女子二人を後方に、僕らは前へ進む。少し歩いたところでクレーターのような広い窪地に出た。



「生き物の気配がしないと思ったら、ロボットがボスだったようですね」

「あれはロボットじゃなくて、ゴーレムっていうファンタジー人形だ」


 ゴーレムっていうのか。

 それも種族の一つなのだろう。金色の輝きを放つダルマのような巨体が窪地に立っていたのだ。



「変ね……」

「アメリア様? 何か不自然な点でもございました?」



「金のゴーレムなんて読み漁っていたモンスター図鑑にも、冒険記録にも載っていなかったわ。ゴーレムといえば土か岩、鉄しか記録に無かったはずなのよ」

「なるほど……」



 各々装備の準備をしている中、僕はアメリアさんの話から考える。


 といってもそこまで難しいことではない。

 クエストでボスが変質したとアナウンスがあったことから、間違いなくアメリアさんを狙っている界滅教団が原因だろう。そして目的を考えたらこの付近に変質を起こした原因は潜んでいるはずだ。


 陣形を変えた方が良さそうだ。



「皆様。少し懸念点がありますので布陣を変えませんか?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る