8.あっちもこっちも変人だらけ
できたてホヤホヤの身分証を使って町の外へ出て少し。ハルは助っ人として呼んだであろう二人組に手を振りはじめた。
一人は浅黒く焼けさせたような肌の筋骨隆々としたマッチョな男性だ。額から一本角が生えている上スキンヘッドなのも特徴的。装備はサングラスとデニム生地のジャケット、短パン、そしてイカついブーツである。
もう一人はウサギさんの耳を付け、顔を覆うベールに反して首から下は露出度が高い――いわゆるビキニと呼ばれる区分の格好をしている。
彩度の高い赤い髪をポニーテールにして揺らしていた。
「お待たせ、アーヤちゃん!」
「昼から初ログインだったからそこまで被害は多くないから気にしないでちょうだい」
「紹介するね、私のゲーム友達のアーヤちゃん。そしてそっちのハードボイルドな人は……誰?」
「……知らない人ってことで」
「おいアーヤ!? 幼なじみを忘れたとは言わせねぇよ!」
見た目の割に中身は渋くないようだ。
「はあ、勝手についてきた幼なじみの――名前は読み上げたくないから各々で確認してくれると助かるわ」
名前……“ペロリスト
「……ヒビキ、来訪者には見えているの?」
「……そういえばアメリア様は見えないんでしたね。彼の名前は“ペロ助”だそうですよ」
コソッと耳打ちされたので適当に吹き込んでおく。
「そう、
「ペロ助呼びかよ!?」
「マヌケでちょうどいいんじゃない? それにしてもこの子がハルの言ってた王女様ね。可愛いわね」
「そうそう、この子がアメリアちゃん。この国の第二王女。それでこっちの無表情なメイドが私の親友のヒビキだよ」
「よろしくしてあげるわ!」
「はじめましてアーヤ様、ペロ助様。ご紹介にあずかりました無表情でハルの親友の、世界一のメイドのヒビキでございます。この度はご助力感謝いたします」
親友だと思われていたとは。意外と嬉しいものだ。目を伏せ丁寧なお辞儀をして顔を引きしめる。
「うは、これハーレムじゃん。俺にもついにモテ期到来――」
「死んどけハゲ助」
何故か喜んでいるペロ助さんの側頭部に華麗な蹴りを入れるアーヤさん。
見た目の筋肉は見掛け倒しなのか尻もちをついている。
「俺が紙装甲なのを知ってて蹴るなよ!?」
「あら、何かゴミでも蹴ったかしら? というかフレンドリーファイアありなのねこのゲーム」
「逆にフレンドとパーティでしかないみたいだよ。PKができないようになってるみたい。まあクエスト関連は例外らしいけど」
ハルが何か補足しているが理解できない。PK、ペナルティキックではないだろうけど……。
「……ヒビキ、今何の話してるの?」
「……アメリア様、こういう時は分かっている顔で頷いておくのが正解ですよ」
「そうなのね」
「そうです」
「そこ! 適当なこと言わない! 要するに来訪者は来訪者に手出しする機会は少ないってこと!」
「へぇ。来訪者達は仲がいいのね」
「理解いたしました」
「それとペロ助さん!」
「お、おう」
「ヒビキは男だよ!」
「ん……?」
「え……?」
「??」
あれ、ハルはペロ助さんの間違いを訂正しただけのはずなのにアーヤさんも首を傾げて、アメリアさんまで目をグルグルさせて混乱している様子だった。一つだけ確たる事実があるとしたら、それは今全員の視線が僕に集まっているということ。
「どうも。ヒビキ19歳男です」
「お、おう。ペロリストΣ、同い年だ……まさか同類か!」
「同類?」
「俺はこういうゴツゴツした
「――! ええ。諦めかけていた憧れ、それが私にとってのメイドでございます。仲間ですね!」
彼の熱量が伝わってくる。
分野や目指すべき場所は違えど進む道は似通っている。彼とは良い友人になれそうだ。
お互いにニッと口元だけ動かしてキャラを崩さないようにしつつ、ガシッと握手した。
「よろしくな! 同い年だし、ダチなんだから呼び捨てでいいぜ!」
「かしこまりました。口調はメイドとして変えられませんが、ペロ助と呼ばせていただきます」
「お前もか!」
「名付け親は私ですし」
「お前が原因か!!」
バレたか……。
でも語感も良いし呼びやすくていいと思う。
「アーヤちゃん、これが男同士の友情ってやつかな? でも私の方がヒビキと仲良いもん」
「男の友情というより変人同士の共鳴でしょこれは。張り合うだけ無駄よ」
「ヒビキが……おとこ…………」
そして未だ立ち直れていないアメリアさんをハルがなでなでして慰めている横で、アーヤさんとペロ助とフレンド登録をしてステータスを見せあった。
========
プレイヤーネーム:アーヤ(R)
種族:兎人族
種族レベル:1/80
ジョブ:踊り子(1次)
ジョブレベル:1/50
└敏捷20%上昇
満腹度:100/100
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:90/90[+10]
MP:110/110[+1]《10+100》
筋力:15[+5]
知力:5[+1]
防御力:0[+0]《5-1000》
精神力:5[+0]
器用:15[+5]
敏捷:926[+10]《(15+30+300)×1.2+500》
幸運:897[+10]《20+100+777》
BSP:0[+3]
SKP:0[+1]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):敏捷上昇3・幸運上昇1
通常(アクティブ):回避1
魔法:回復魔法1
ジョブ:舞踊1・体捌き1
〈装備〉
頭{闊達のフェイスベール}
耐久値:3000/3000
・幸運+777
胴{闊達のビキニドレス}
耐久値:3000/3000
・防御力-1000
・MP+100
足{闊達のトウシューズ}
耐久値:5000/5000
・敏捷+500
武器{闊達の鈴}
耐久値:5000/5000
・【
└パーティーメンバーのみを無制限に復活させる半径10mの空間を展開する。
効果時間:15秒
CT:50分
└セット効果:ジョブの獲得経験値1.5倍
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
オリジナルスキル
【
効果:発動中、効果範囲の任意の者(自身を除く)のBSP,SKPを除くパラメータを10倍、その者が与えるダメージを20%上昇させる。
デメリット:効果範囲が半径3m以内
CT:30分
通常スキル(P)
【敏捷上昇】レベル:3 習熟度0/20
敏捷+300
【幸運上昇】レベル:1 習熟度0/5
幸運+100
通常スキル(A)
【回避】レベル:1 習熟度0/5
その場から任意の方向へ離脱する。
足場が必要。
CT:15秒
魔法スキル
【回復魔法】レベル:1 習熟度0/10
・〖ヒール〗
対象のHPを200回復する。
消費MP:50
ジョブスキル(P)
【舞踊】レベル:1 習熟度0/5
舞踊系の行動に補正がかかる。
【体捌き】レベル:1 習熟度0/5
体の操作に補正がかかる。
========
これがアーヤさんのステータス。
復活と能力上昇をメインとしたサポートを走り回りながら行う立ち回りらしい。ただ、これはバフと呼ばれるプレイヤーにいい効果を付与するものであるため、僕には効かないから相性はあまりよくなさそうだ。
========
プレイヤーネーム:ペロリスト∑
種族:鬼人族
種族レベル:1/120
ジョブ:戦士(1次)
ジョブレベル:1/30
└筋力、HP10%上昇
満腹度:100/100
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:165/165[+20]《150×1.1》
MP:1/1[+0]
筋力:1107[+10]《(40+30+300)×1.1+700》
知力:0[+0]
防御力:5[+1]
精神力:5[+1]
器用:105[+0]《5+100》
敏捷:215[+2]《15+100+100》
幸運:5[+1]
BSP:0[+3]
SKP:0[+1]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):筋力上昇3・敏捷上昇1
通常(アクティブ):大剣術1
ジョブ:剣術1・器用上昇1
〈装備〉
頭{臨界のサングラス}
耐久値:5000/5000
・筋力+100
全身{臨界のデニムジャケット&パンツ}
耐久値:5000/5000
・敏捷+100
足{臨界のブーツ}
耐久値:5000/5000
・知力-1000
武器{臨界のグランドブレード}
耐久値:10000/10000
・筋力+100
└セット効果:筋力+500
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
オリジナルスキル
【
効果:5秒間筋力を10倍、敏捷を筋力と同数値にする。
デメリット:発動中筋力と敏捷以外のパラメータを1にする。効果終了後のHPと妖力は1のまま回復していない状態になる。
CT:50分
通常スキル(P)
【筋力上昇】レベル:3 習熟度0/20
筋力+300
【敏捷上昇】レベル:1 習熟度0/5
敏捷+100
通常スキル(A)
【大剣術】レベル:1 習熟度0/5
・〖ビッグスラッシュ〗
汎用的な大振りの斬撃を放つ。
CT:20秒
ジョブスキル(P)
【器用上昇】レベル:1 習熟度0/5
器用+100
ジョブスキル(A)
【剣術】レベル:1 習熟度0/5
・〖スラッシュ〗
汎用的な斬撃を放つ。
CT:20秒
========
ペロ助は背負っている大剣でのゴリ押しをしていくらしい。筋肉に取り憑かれた男だから脳まで筋肉でできているようだ。
しかし二人ともパラメータを一点集中させて1000付近に到達させている。バランスは置いておいて僕はまだすべて20とかだから桁違いに弱い。
パラメータを直接的に強化するスキルの有無が大きい。かといって僕の場合は満遍なく育てたいし……
二人の
彼らのような一点特化型なら別にいいと思うが、私が目指しているのは完璧なメイドなのだ。
「割合ダメージってかっけえな!」
「これ私のバフと相性最悪なんじゃ……」
これは僕のステータスを見た二人の反応。
「盾が浮くのか、かっけぇ!」
「これはまた難しそうなステータスね……」
これはハルのステータスを見た二人の反応。
……ペロ助の口癖は「かっけぇ」なのだろうか。
アメリアさんに関してはステータスを見せる手段がないので魔法スキルが使えることだけ共有された。あの火柱を消したスキル以外にも攻撃系の魔法も使えるらしい。追われていた時はMPが無かったが今は野菜炒めのおかげで回復しているんだとか。
「じゃあフォーメーションは脳死殴りアタッカーのペロ助さんと前衛回避バッファーのアーヤちゃん、普段は中衛で前後衛を行き来してサポート、ボス級との戦いではガンガン攻めてもらうヒビキ、後衛で魔法の火力を担うアメリアちゃん、そして臨機応変な立ち位置でタンクを行う私――こんな感じかな?」
「応よ!」
「妥当な判断ね」
「ハルって戦いの時だけ頭良くなりますよね」
「確かに。普段さっきまでアホ面だったのに変な騎士ね!」
「あれ? 先に仲間になった面々の方が扱い酷いのなんなの?」
「メイドジョークですよ」
「プリンセスジョークよ」
「なーんだ!」
「……まあ本心でしたけど」
「……
「こいつらほんま――!」
僕が男だとようやく飲み込めたアメリアさんと一緒にハルを揶揄う。
これが国盗りの冒険に出る前の会話とは……なかなか愉快な道のりになりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます