6.クッキングメイド、ヒビキ

 

 シエラさんから死の森のことを教えてもらい、シオレさんは変わらずぼけーっとした様子で「またねー」と別れ、僕は頭の中で情報を整理しながらハルとアメリアさんのもとへ戻った。


「お待たせいたしました。2人分の身を隠す布も購入してありますのでご活用ください」

「お、助かる!」

「みすぼらしいけど仕方ないわね」



 さて、色々起こったがそろそろお昼どき。

 アメリアさんはハルと契約しているので彼女がログアウトしている時は一緒に眠りにつくかそのまま活動するか選べるらしく、適当な宿をとってそこで食事をして待ってもらうことにした。

 プレイヤーである僕とハルもログアウトしてサクッと食べて再度ログイン。


「……って現実で食べても満腹度があるからこっちでも食べなきゃじゃん」

「何か作りましょうか。野菜ならありますので炒めるくらいでよければ簡単に作れます」


わたくしも食べるわ!」

「やった、楽しみだぁ」


「では宿の厨房を借りられるか聞いてきますね」



 2人を部屋に残して下の階へ。

 そもそも色々買い込んだせいで僕の残金は2500Gゴールドくらいしかない。一人部屋を3人で借りてる上そのお金もハルに払ってもらっているからこういう時くらいは頑張らないと。


「すみません、少し厨房をお借りすることは可能でしょうか?」

「おや、来訪者のメイドさんじゃないか。来訪者の料理なんて滅多に見れないし、一口くれるなら構わないよ」



 優しい女将さんの許可をとり、見守られながら料理をすることに。雑貨屋で器具は買い揃えたが今は別に使わなくてもよさそうだ。

 水もよく分からない蛇口のようなもので出るのでいちいち魔法を使わなくても良い。


「さて、野菜炒めにするとしまして……」



 3人分、多めに用意しておいた方がいいし一気に作り置いておこう。たまねぎ10個、にんじん7本、ピーマン30個、キャベツは多めに2玉丸々……他にも入れたいがフライパンにもこちらのタイムリミット満腹度切れにも限界がある。


 数回軽く洗い、取り出した具材をさっさと切っていく。スキルの補正もあってか手間取ることは無い。

 この調子ならそのうち空中で切ってそのまま焼き始めたりできるかもしれない。


「一応味付けも……これは塩、これは砂糖、これは胡椒、これは何でしょう?」


『【純白ブランシュ】により“猛毒”を抵抗しました』



「ちょっと! それは毒だよ!」



 なぜそんなものが置いてあるのか聞いてみると、お昼ご飯で出したこの辺で釣れる魚の毒を粉末にするとポーションの原料になるから薬屋さんに卸しているらしい。粉末にする前にすり潰した草を染み込ませていたのを僕は舐めてしまったようだ。

 現実ならもっとしっかり厳重な管理がされているだろうが、ここはそういうのは雑らしい。僕はともかく他の人には気を配っておこう。


 それはともかく、野菜を全て切り終わった。

 切ったものはボウルに入れて塩と胡椒、この宿特製の出汁とニンニク、料理酒をつけておいたからいい感じになっているだろう。



 大きな中華鍋を中火くらいの出力で謎のキッチンアイテムを使って温め、少ししてからごま油を引いて野菜を投入。

 量が量なので少し火力強めで全体が同じくらいしんなりするように中華鍋を振る。

 タイマーは多分メニュー画面にあるんだろうけどよく分からないから感覚でタイミングを窺う。



「ふう、こんなものでしょうか。味見いかがですか?」

「じゃあ失礼して……ん! これは美味しいよ! 野菜だけでこんなに美味しくなるものとはたまげたよ!」


 味見をした女将さんには好評だ。自分でも口に入れてみる。


「まあ、普通に美味しいといった感じでしょうか」


『ジョブレベルが上がりました』

『【調理】のレベルが上がりました』

『【調理】のレベルが上がりました』




 中華鍋に入らなかった分は女将さんから貰った箱に入れて塩漬けにしよう。

 多めに作った野菜炒めは女将さんの家族の3皿分くれれば古くて捨てようと思ってる木製のお皿をくれるようなのでありがたく頂くことにした。


 頂いたお皿を洗って盛り付け――を繰り返すこと二十数回、完成品をストレージに仕舞って厨房をあとにした。当然洗い物も片付けてから。ついでに出汁のレシピも聞いて。




 ========

 アイテム

 {無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}

 製作評価:☆7

 製作者:ヒビキ(R)

 とある無表情なメイドが猛毒を摂取しながら淡々と作った野菜炒め。丁寧に調理されており野菜の臭みは無く、まとまった味わいになっている。

 効果:満腹度+70,HP回復+500,MP回復+200,1時間獲得経験値1.5倍

 ========


「どうぞ召し上がれ」

「おー、なかなか美味しそうじゃない!」

「いやいやいやいや、ちょっと待って」


「ハルはピーマンを食べられると記憶していましたが間違っていましたでしょうか?」

「ハル、ピーマン食べれないの? おこちゃまね」


「食べれるわ! 性能の話をしてるのこっちは!」


 性能?


「製作評価が上から4つ目なのは最悪目を瞑るとして! 満腹度もHPもMPも現状の私らなら全回復じゃん!」


 確かに、言われてみたら良い効果を持ってる。


「それに獲得経験値1.5倍だよ! ホント最高だよ、これ食べたらすぐに出発しよう! 金銭的に乗合馬車は無理だと思ってたし、狩りをしながら本格的に王都へ向けて出発するよ!」


「了解しました」

「まあ早いに越したことはないものね」



 ハルに急かされながら野菜炒めを食べ、女将さんに改めてお礼を言ってから僕達は次の町へ出発――する前に野菜炒めをプレイヤー間の取引所とやらに置いていくことにした。

 ハル言わくこれは色んな意味で需要があるらしく、1皿で絶対数万は行くとのこと。まあ狩りをしながら行くから食料に困ることはないだろうしいいんだけどね。



「この自動販売機がその取引所なんですか」

「そうそう。他の町他の国でも受け渡しが可能な取引システムで、設定をいじれば個人間でもやり取りできるみたい。手数料も取られないし使い得だね」

「ちんちくりんな箱ね」


 転移ポータルの近くにあったオークションコーナーの自販機に触ってみると、例の如く半透明な板が視界に現れた。

 とりあえずこの評価の野菜炒めの相場が分からないのでオークション方式っと。

 あとは適当に決めて――


 ========

 方式:オークション

 開催日:即日

 参加条件:誰でも

 最低価格:2000G

 即決価格:なし

 締切日:24時間

 アイテム情報:完全公開

 生産者表示:すべて

 ========


 これでよし。ストレージもこの取引所も食べ物の時間は止まっているようなので1日おいても出来たてのままらしい。カレーは外で寝かせないといけない仕様だ。


 決定を押すと、生産者表示の写真をとらないといけないらしく透明なカメラが出現した。

「すべて」と「名前だけ」と「なし」の選択だったのはそういうことか。まあ今回の野菜炒めの場合、ちゃんとメイドが出品していないと、理不尽ないちゃもんや転売疑惑が出てしまうから仕方ない。


「ピースでいいですかね?」

「それ、ぴーすって言うのね。面白いから両手でやったら?」


 アメリアさんの意見を取り入れて両手でピースしてあげた。メイドとして表情は崩さないため無愛想ではあるがそこはこのピース二刀流でカバーできているだろう。


「…………これ止めた方がよかったかな?」


 確定ボタンを押している私や真似してピースをしているアメリアさんをよそに、ハルは若干目を逸らしながら呟いていた。


「流石にピース二刀流は愛嬌が過ぎましたかね?」

「いやあれはダブル……なんでもない。それより行こ? 念の為助っ人も呼んでるし」


 何かを誤魔化すように僕らを急かしている。その助っ人が待つこの町の門の外へ出ることに。


「あ、そういえば私身分証ありませんよ」

「それならわたくしも当然無いわ」


「……急いで生産組合へダッシュ! 待たせてるから! あそこなら簡単に発行してくれるから!」


 かくして町中で飛ぶなという決め事は決めた本人が盾を浮かせて僕らを乗せたことで破られた。ステータス的にこれが一番早いから仕方ないとはいえ、ものすごく衆目を集めていた。

 途中で塵も積もれば山となると言うように【所作】のレベルも上がった。


 ========

 プレイヤーネーム:ヒビキ(R)

 種族:純人族

 種族レベル:1/100

 ジョブ:メイド(1次)

 ジョブレベル:(1→)2/30

 └器用20%上昇

 満腹度:100/100


 〈パラメータ〉

 ・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値

 ・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式

 HP:100/100[+10]《(100-50)×2》

 MP:60/60[+5]《30×2》

 筋力:20[+1]《10×2》

 知力:20[+1]《10×2》

 防御力:20[+1]《10×2》

 精神力:20[+1]《10×2》

 器用:24[+1]《10×1.2×2》

 敏捷:20[+1]《10×2》

 幸運:20[+1]《10×2》

 BSP:50[+5]

 SKP:20[+(2×2)]


 〈スキル〉

 オリジナル:純白ブランシュ

 通常(パッシブ):所作2

 通常(アクティブ):修繕1・調理(2→)4

 魔法:生活魔法2

 ジョブ:清掃1


 〈装備〉

 頭{天破のホワイトブリム}

 耐久値:100/100

 ・HP-50


 胴{天破のエプロンドレス}

 耐久値:100/100

 ・BSP,SKP除く全パラメータ2倍


 足{天破のストラップシューズ}

 耐久値:100/100

 ・【天蹴】

 └常時空中を自由に歩ける。


 武器{天破のデッキブラシ}

 耐久値:100/100

 ・【天破砕フラージュ

 └武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。

 CT:0秒


 └セット効果:獲得SKP2倍



 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 オリジナルスキル

純白ブランシュ

 効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。

 デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。


 通常スキル(P)

【所作】レベル:2 習熟度8/10

 立ち振る舞いに補正がかかる。


 通常スキル(A)

【修繕】レベル:1 習熟度8/10

 素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。

 CT:3秒


【調理】レベル:(2→)4 習熟度11/20

 補正のかかった作業を行える。

 ・切る

 ・焼く

 ・蒸す

 ・炒める

 更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。

(レシピ)

 ・{無表情メイド特製♡愛情皆無な野菜炒め}


 魔法スキル

【生活魔法】レベル:2 習熟度5/20

 ・〖種火〗

 種火を生み出す。

 消費MP:1

 ・〖放水〗

 水を放つ。

 消費MP:3


 ジョブスキル(P)

【清掃】レベル:1 習熟度4/5

 清掃の行動に補正がかかる。


 ========

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る