4.とりあえず友人に丸投……相談で
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ヒドゥンチェーンクエスト
《王家を狙う魔の手①》
難易度:☆4
――動乱の種は息を潜めている。
基礎報酬
・BSP20
・SKP50
出来高報酬
・未定
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かなり物騒で厄介そうな文言だ。
今すぐこの場から逃げ出してもいいが、初めてのクエストとやらだしやってみたい気持ちもある。
それに……
「聞いてらして!?」
僕だって人間だ。
目の前にすくい上げることのできる命があって。みすみすこぼれ落とす馬鹿がどこにいる。
――それがAIの仮初のものだとしても、僕は手を伸ばしたい。
「分かりました」
「え、何が?」
「友人に相談しますので少々お待ち願います。必ず家へ送り届けますので。あ、この兎さんの丸焼きあげますよ」
「そ、そう? どこの家のメイドかは知らないけど褒めて遣わすわ!」
ゲームの外でもフレンド登録ができるのであらかじめ登録してあるフレンドリスト欄から彼女のプレイヤーネーム、“ハル”を選択した。そして通話をかける。
『もしもし?
「実はかくかくしかじかでして」
『……それじゃ何にも分からないって。というか言ってた通りメイドRPしてるんだ』
「実はヒドゥンチェーンクエストとやらを見つけまして、絶賛私のお膝でグランセル王国の第二王女様が兎さんの丸焼きを貪っています」
『ごめん1ミリも理解できないや。今どこ?』
「グランセル王国の最初の町の……冒険組合の向かい側の路地から2つ目で右、そこから更に4つ目で左に曲がったつきあたりにいます」
『記憶力の化身か! 今から行くから! そこを動かないでね!』
それだけ言って彼女は通話を切った。
いつも元気でそそっかしい子だ。
「メイド、これなかなか美味しいわね。お城のと比べたらそこまでだけど」
「……アメリア様、私の名前はヒビキでございます」
「はぁ、
「ヒビキでございます」
「いやだから――」
「ヒビキでございます」
「……」
「ヒビキでございます」
仕える相手にならなんと呼ばれようと構わないが、そうでないならせめて普通に呼んでくれないと自分のことを呼ばれていると気付かない。
「ヒビキ」
「はい。如何なさいました?」
「あまりこちらの事情に巻き込むのも悪いし、転移ポータルまでで結構よ」
転移ポータル?
字面から察するに7番さんが言っていた行ったことのある町か他国の同じ順番の場所に行ける仕組みのことだろうか。確かにそれを使えば簡単に送り届けられそうだが――ことはそう単純ではない。それでは根本的な解決には至らない。
「お断りいたします」
「懸命な判……え、なんて?」
「賊狩りはしておかねばなりません。私にもその理由がありますので」
どこの誰が悪巧みしているのかは不明だが、未来の主にも飛び火しないとも限らない。やるなら徹底的にやらないと。
「そうね。どの道狙われるのなら
「お静かに。何者かが接近しています」
膝で何かワケありな話をしているアメリアさんの口を手でおさえる。
「帰りが遅いから探してみたら、返り討ちとは情けないねぇ。王宮のメイド……ではなさそうだけと、メイドがうちのやつらをやったのかい?」
野性味溢れる筋肉の女性がフードを被ったままゆっくりとこちらに歩いてきている。そこで積み上げておいた人攫い三人衆の上司だろうか。
僕は膝からアメリアさんを下ろしてデッキブラシを片手に立ち上がった。
「私はヒビキ、主を探す流浪のメイドです。プレイヤーでもあります」
「ぷれいやあ? ああ、教会が喧伝してた神の使いとかいう来訪者か。面白い、あんたも連れて帰るとしようかねぇ」
プレイヤーは来訪者と呼ばれているのか。
……それはともかくこれは勝てるのだろうか。相手の頭上にはHPバーがあり、その横に“種族Lv.150”とあるのだ。
ゲーム初心者ではあるが、自分のレベル1の150倍もする相手に勝てるとは正直思えない。
「ここは私が時間を稼ぎます。来た道を通って大通りに出てください」
「な、あの魔力、相手は高位の魔人族よ!?」
大丈夫、プレイヤーは死んでも復活すると
これが最善だろう。
「その必要は無いよ! そい!」
馴染み深い声と同時に路地を20程の大小様々な白い盾が推定敵さんを包んで押さえ込んだ。
「なんだこれは……ビクともしない」
余程重いのか本当に身動きひとつとれていない。
「ハル様でしたか。助かりました」
「め……ヒビキく…………ん?」
ダンボールの鎧としか表現できない不審者だが、中身は彼女のようだ。変な格好で気にはなるが、先にこちらの怪しげな女性に尋問をしないと。
「さて、名前と所属、目的を吐いてください」
「――嫌なこったねぇ! 【厄災の
「これは……」
「なんて圧なの!」
「だ、大丈夫! あの盾は全部要求ステータスで筋力1億無いと動かないから!」
そういえばあれもオリジナル装備だからトンデモ効果があるのか。とはいえ隙間はあるから何かされない保証は無い。
赤いオーラと仮面が増えただけで炎とかは出ていない今のうちに仕留めなければ手に負えない。
ストレージから木材を取り出しつつ、盾の隙間からデッキブラシの持ち手の方で突きに向かう。
「おふたりは下がってくださいませ。【
【修繕】のクールタイムは3秒だが、直して次の木材を取り出しつつ再度突いて引き戻す間に明けているから気にしなくてよさそうだ。
発動の瞬間にクールタイムのカウントが始まって修繕の吸い込まれる演出があるから連発は出来ないがテンポは良い。
この単純作業を繰り返していると、流石にマズいと思ったのか仮面の魔人族さんは声を上げた。
「この盾のせいでこっちも燃えちまうけどそんなこと言ってられないねぇ。町ごと火の海に沈みな! 【大火の禊】!」
盛大な火柱が立つ。
そこから火が広がる――前にアメリアさんが躍り出た。
「『古の契約よ。鎮めの権能よ。我が命を対価に捧げる』【沈黙の歌】」
よく分からないが火は止まった。
今のうちに倒しきろう。
「――【
トドメを刺そうと突きを放った。
しかしそれが盾で拘束された敵に命中する前に何者かによって阻まれた。
「相変わらず間の良い男だねぇ」
「素手で掴んだとはいえ一割もっていかれるとは、特殊なスキルを持っているようだな。ここは
黒い仮面の男が割り込んだのだ。
彼から黒い液体が流れ出て、赤い仮面の人を呑み込んでしまった。
「我ら界滅教団の幹部、それも最も強い“赤”を封殺するとはな」
「あの界滅教団……!」
「界滅……ああ、聖王国で指名手配されてた集団だったっけ」
2人とも知っているらしい。
指名手配と言ってるあたり犯罪組織的なものなのだろう。
「メイドに騎士か。第二王女に来訪者のお付きの者がいたとはな。まあいい、貴様らが“赤”を返り討ちにしたんだ。いずれまた相見えるだろう。せいぜい腕を磨いておくといい」
「ご忠告ありがとうございます」
「ヒビキ君、たぶん今のは皮肉だよ! 悪役特有の捨て台詞なの!」
あ、そういうやつなのか。
「あんた達呑気ね……」
「――はぁ、まったく。とんだ来訪者も居たものだ」
そう言い残して黒い仮面の男はドロっと解けて消えてしまった。逃げられたといえばその通りだが、僕には少しだけ安堵の感情を抱いていた。
仕える方や自分のためなら容赦なんてしないつもりではあるが、それでもあの人を倒していたら人殺しに相違ないのだ。
――まだ、その覚悟は出来ていない。
もう少し人間離れしていたら話は別だが、人に近い姿だったからもし仕留めていたらしばらく放心していたかもしれない。
「くっ……」
「アメリア様? お体が悪いのですか?」
「HP減ってるじゃん! えーとHPポーション……あった、はい! 飲んで!」
突然座り込んだアメリアさんに、ハルさんが緑色の液体の入った瓶を渡して飲ませる。
少しすると顔色は元通りになり、アメリアさんのHPも回復していた。ポーションとやらが回復アイテムのようだ。
「助かったわ。あんた達の主人には感謝しないとね」
「いやいや、ここでは騎士とメイドだけど別に仕える相手なんていないからね!」
「そんなことより場所を変えましょう。先程の火柱でかなり目立ったことですし」
「…………これ以上付きまとわれたら
何を考えたのか突然走り出してしまった。
とんだ心変わりである。
「自分を囮にして手柄にしてやると息巻いていらしたのにどうしたのでしょう?」
「んー、会ったばかりだから感覚的な話だけど、たぶん私らに迷惑をかけたくないって思ったんじゃないかな。相手の規模が思ってたより大きくてさ」
優しい子だということか。
しかし一人で帰れるのだろうか。転移ポータルとやらがあるから大丈夫だとは思うがまた狙われたりしたら危ないのでは?
「追いかけましょう。転移ポータルとやらへ向かっているはずですし先回りすれば――」
「転移ポータルならたぶん使えないんじゃないかな? 王女の行方不明なんてここに来るまで知られてなさそうな感じだったし、身分を証明出来るものがないと転移ポータルは使えないし」
「最初から徒歩で送るしか道は無かったわけですか」
「そういうことだね」
「そういうわけならやはり迎えに行きましょう。私は空を歩けるのでよければ抱えますよ」
「こっちも盾を操れるからそれに乗って飛べるよ。てかステータス構成どうなってるのか気になる」
「では向かいながら見せ合いましょう。このままこのクエストは一緒にやるのでしょう?」
「そうだね。じゃあついでにパーティーを……作って誘うから入ってね」
『“ハル”から《王女様を護衛し隊》パーティーへの勧誘を受けました。参加しますか?』
はい、と受け入れるとメニュー画面左端に自分のHP、MPと彼女のHP、MPバーが表示されるようになった。
こんな機能もあるのか。意外と抜け落ちてるチュートリアルが多そうだ。まぁ細かいところまで説明して1時間近く居座ってたししょうがないか。
「じゃあ行こう!」
「はい」
そしてお互いのステータスを見せ合う。
先程の戦闘では多少スキルの熟練度が上がっただけでレベルは上がらなかったのでこちらのは初期のそれだ。
歩きながらそこら辺を尋ねると、モンスターを倒さないと上がらないらしい。人を殺しても成長できず、モンスターの何らかのエネルギーを吸収して強くなると仮説が立てられているようだ。
僕が見せたのはこちら。
========
プレイヤーネーム:ヒビキ(R)
種族:純人族
種族レベル:1/100
ジョブ:メイド(1次)
ジョブレベル:1/30
└器用20%上昇
満腹度:85/100
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:100/100[+10]《(100-50)×2》
MP:60/60[+5]《30×2》
筋力:20[+1]《10×2》
知力:20[+1]《10×2》
防御力:20[+1]《10×2》
精神力:20[+1]《10×2》
器用:24[+1]《10×1.2×2》
敏捷:20[+1]《10×2》
幸運:20[+1]《10×2》
BSP:50[+5]
SKP:20[+(2×2)]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):所作1
通常(アクティブ):修繕1・調理2
魔法:生活魔法2
ジョブ:清掃1
〈装備〉
頭{天破のホワイトブリム}
耐久値:100/100
・HP-50
胴{天破のエプロンドレス}
耐久値:100/100
・BSP,SKP除く全パラメータ2倍
足{天破のストラップシューズ}
耐久値:100/100
・【天蹴】
└常時空中を自由に歩ける。
武器{天破のデッキブラシ}
耐久値:100/100
・【
└武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。
CT:0秒
└セット効果:獲得SKP2倍
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
オリジナルスキル
【
効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。
デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。
通常スキル(P)
【所作】レベル:1 習熟度4/5
立ち振る舞いに補正がかかる。
通常スキル(A)
【修繕】レベル:1 習熟度8/10
素材を消費して装備やアイテムの耐久値の回復や破損状態を直す。素材は物による。
CT:3秒
【調理】レベル:2 習熟度1/10
補正のかかった作業を行える。
・切る
・焼く
更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。
(レシピ)
なし
魔法スキル
【生活魔法】レベル:2 習熟度3/20
・〖種火〗
種火を生み出す。
消費MP:1
・〖放水〗
水を放つ。
消費MP:3
ジョブスキル(P)
【清掃】レベル:1 習熟度2/5
清掃の行動に補正がかかる。
========
そしてハルさんのステータスがこちら。
========
プレイヤーネーム:ハル(R)
種族:純人族
種族レベル:1/100
ジョブ:騎士(1次)
ジョブレベル:1/50
└筋力、精神力10%上昇
満腹度:92/100
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:500/500[+10]《100+100+200+100》
MP:30/30[+5]
筋力:121[+1]《(10+100)×1.1》
知力:10[+1]
防御力:10[+1]
精神力:463[+1]《(10+20+300)×1.1+100》
器用:10[+1]
敏捷:230[+1]《10+20+200》
幸運:10[+1]
BSP:0[+5]
SKP:0[+2]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):HP上昇2・精神力上昇2・敏捷上昇2・HP自動回復微2
通常(アクティブ):挑発1
ジョブ:剣術1・盾術1・騎士の心得1
〈装備〉
頭{聖盾のダンボールヘルム}
耐久値:100/100
・HP+100
・火属性被ダメージ時、“ダンボール”の装備品は耐久値大幅に減少
体{聖盾のダンボールアーマー}
耐久値:100/100
・精神力+100
・{聖盾}以外の武器使用不可
武器{聖盾}
大×12(頭~足) 中×8(腕) 小×4(手足の甲)
耐久値:∞
要求パラメータ:筋力99999999
└セット効果:【
{聖盾}を装備品に謎の力で纏わせる。
要求パラメータを満たしていない場合指ひとつ動かせない。
CT:30秒
▲▽▲▽▲▽▲▽▲
オリジナルスキル
【
効果:要求パラメータを無視して{聖盾}を操る。
デメリット:使用中、自身の防御力が10%になる。
通常スキル(P)
【HP上昇】レベル:2 習熟度0/10
HP+200
【精神力上昇】レベル:2 習熟度0/10
精神力+200
【敏捷上昇】レベル:2 習熟度4/10
敏捷+200
【HP自動回復微】レベル:2 習熟度0/10
10秒につきHPを10回復する。
通常スキル(A)
【挑発】レベル:1 習熟度0/5
周囲の敵のヘイトを集める。
CT:10秒
ジョブスキル(P)
【騎士の心得】レベル:1 習熟度2/10
筋力+100
精神力+100
ジョブスキル(A)
【剣術】レベル:1 習熟度0/5
・〖スラッシュ〗
汎用的な斬撃を放つ。
CT:20秒
【盾術】レベル:1 習熟度1/5
・〖ガード〗
盾を構えて攻撃を受け止める。
CT:20秒
========
詳しいことは分からないが守りを重視した構成なのは理解出来た。
「1時間近く早くやってるでしょうに上がってませんね」
「
どうやら面倒事に巻き込まれていたらしい。
「でも一緒にスタートを切れると考えれば悪いことでもないのでは?」
「……確かに! キャリーする気満々だったけどこのステータス構成なら一緒に楽しんで成長した方が面白いよね! 聖王国のあれこれは……まぁそのうちやっとくかなぁ」
そうこう話しているうちに大きな門のような物がある広場に到着した。人の少ないところに降りたが、何故か妙に人目を集める。
「ハル様、そのダンボールのせいで注目を集めていますよ」
「私だけのせいでは無いと思うけど……じゃあ頭のだけでも外しておくよ」
そう言って彼女は頭のダンボールを取り外してストレージに仕舞った。
このゲーム内の彼女は、キツすぎない紫色の髪を高めの位置でお団子にしていた。前髪の一部に青いメッシュもある。
瞳の色はメッシュと同じ色だった。
現実だと茶色めの地毛でポニーテールにしてるとこしか見ないから印象が変わって見える。
「それと……ハル様はなんかむず痒いからハルでいいよ?」
「では、ハルと呼びます。確かにメイドとはいえ友人にまで様づけは不自然でしたね。でしたらそちらも私のことはヒビキで構いませんよ」
「ヒ、ヒビキ……ヒビキ!」
「何でしょう、ハル」
「なんかすごい親友っぽい!」
「そうですか」
見た目の印象はかなり変わっているが中身は全く同じだ。元気なことはいいこと。
軽く話しながらアメリアさんを探していると端の方でうずくまっている姿を見つけた。
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