2.チュートリアル
意外としっかり柔らかい胸のパッドを片手でモミモミしながら、ステータス画面を操作する。物心ついてから女性の胸部に手で触れたことはないので本物と近いかどうかは分からないが、癖になる触り心地なのは間違いない。
「よしっと、ひとまず設定は終わりました」
『……薄々察してたけど君戦闘メイドとかじゃなくてガチのメイド目指してたんだね?』
「戦闘メイド? そのような種別のメイドも存在するのですね」
『主にフィクションの世界にしか居ないけどね』
物騒なメイドもいたものだ。
確かに護身・護衛術はメイドの嗜みだと実家に居たときに聞いたが、戦闘を生業としている人は聞いたことがない。
ま、僕がなりたいのは普通のメイドだ。丁寧で美しい所作を以て、華やかで美しいお嬢様に仕える完璧なメイド。
だからこそ、その理想に近付くための設定がこちら。
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プレイヤーネーム:ヒビキ(R)
種族:純人族
種族レベル:1/100
ジョブ:メイド(1次)
ジョブレベル:1/30
└器用20%上昇
満腹度:100/100
〈パラメータ〉
・[]内は1LVごとまたは1BSPごと(BSP,SKP 除く)の上昇値
・《》内は基礎値+レベル上昇分+ボーナスステータスポイント分+スキル補正値+職業補正値+装備補正値の計算式
HP:100/100[+10]《(100-50)×2》
MP:60/60[+5]《30×2》
筋力:20[+1]《10×2》
知力:20[+1]《10×2》
防御力:20[+1]《10×2》
精神力:20[+1]《10×2》
器用:24[+1]《10×1.2×2》
敏捷:20[+1]《10×2》
幸運:20[+1]《10×2》
BSP:50[+5]
SKP:20[+(2×2)]
〈スキル〉
オリジナル:
通常(パッシブ):所作1
通常(アクティブ):修繕1・調理2
魔法:生活魔法2
ジョブ:清掃1
〈装備〉
頭{天破のホワイトブリム}
耐久値:100/100
・HP-50
胴{天破のエプロンドレス}
耐久値:100/100
・BSP,SKP除く全パラメータ2倍
足{天破のストラップシューズ}
耐久値:100/100
・【天蹴】
└常時空中を自由に歩ける。
武器{天破のデッキブラシ}
耐久値:100/100
・【
└武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。
CT:0秒
└セット効果:獲得SKP2倍
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オリジナルスキル
【
効果:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのデバフ、状態異常を受け付けない。
デメリット:常に自身と、あらかじめ指定した者以外からのバフを受け付けない。指定者は変更不可。
通常スキル(P)
【所作】レベル:1 習熟度0/5
立ち振る舞いに補正がかかる。
通常スキル(A)
【修繕】レベル:1 習熟度0/10
素材を消費して装備やアイテムの耐久値をスキルレベル×10回復する。消費する素材はアイテムによる。
CT:3秒
【調理】レベル:2 習熟度0/10
補正のかかった作業を行える。
・切る
・焼く
更にMP5を消費して保有しているレシピを完全自動で制作できる。
(レシピ)
なし
魔法スキル
【生活魔法】レベル:2 習熟度0/20
・〖種火〗
種火を生み出す。
消費MP:1
・〖放水〗
水を放つ。
消費MP:3
ジョブスキル(P)
【清掃】レベル:1 習熟度0/5
清掃の行動に補正がかかる。
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種族によってパラメータの基礎値は変わるらしいが、1番クセのない成長度合いにも期待できる純粋な人間にした。ジョブは当然メイド。
最初に選べるスキルはもともとの3つに加え、リアルモジュールの特典で合計4つだ。
【所作】、【調理】、【生活魔法】はメイドとして必須だからとり、【修繕】はデッキブラシを直すために見繕ったものである。ちなみに【調理】と【生活魔法】はジョブスキルにもあったようで統合されてレベルが上がっている。
そして僕のオリジナルスキルは【
「そもそも、メイドたるもの自ら戦いに身を投じるなどもってのほかです。私の場合は友人と遊ぶためというプライベートな大義名分がございますから問題はありませんが、己のためだけに戦うメイドはメイド失格ですね」
『オタク文化に染まってない珍しいタイプの厄介メイドオタクだこの人……』
「?」
『いや、気にしないで。それよりここで時間を食いすぎるのも悪いしチュートリアルに移ろっか』
彼が地面に手をかざすと、ほわわーんと何も無いところから普通の兎さんが現れた。兎さんの上には緑色の棒が浮いている。
『基本的にHPゲージが表示されるから、それを参考に戦うといいよ。それじゃあこのモンスターは動かない設定にしてあるから攻撃してみようか』
「はい」
『スキル名を唱えると発動するからやってみてね』
「【
言われた通りにやってみると、デッキブラシが透き通るような水色に光った。心なしか風を巻き起こしているような感じもする。
試しにそのまま兎さんを殴ってみると兎さんのHPゲージが1割削れ、デッキブラシの耐久値も100から90になっていた。
『そんなところだね。じゃあ今度は【修繕】をやってみよう。今回はこちらで必要な素材を渡しておくよ』
「これは……{木材}って表示されてます。デッキブラシはこれで直るのですね。ではありがたく頂戴いたしまして――【修繕】」
手渡された薪サイズのそれを片手にデッキブラシに押し込むと、デッキブラシの耐久値は元の100に戻った。意外とお手軽だ。
『あとは、【清掃】と【所作】は
「承知しました」
兎さんを消して、今度は既に着火待ちのと枝、包丁とまな板が用意された机が現れた。フォークやら調味料も用意してくれている当たり分かってらっしゃる。
『今回はさっきのバニララビットでこの兎肉でやってもらうよ』
「解体済みなのはありがたいですね。では早速――」
ある程度下処理はされているので、軽くフォークで刺しながら食べられなさそうなところを切り落としていく。スキルのおかげか普段より包丁さばきが上手くなっている。軽く用意された調味料もかけてと。
『随分手慣れてるね?』
「メイドですので。〖種火〗」
火を点けて満遍なく炙っていく。
これは“焼く”判明なのかは疑問だが、いい感じの焼き目になってきた。機を見計らって火から離すとアイテム名が表示された。
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アイテム
{質素な兎の丸焼き}
製作評価:☆4
製作者:ヒビキ(R)
とあるメイドが簡易的に作った兎の丸焼き。丁寧に調理されており臭みが少ない。
効果:満腹度+30,HP回復+100,30分間敏捷1.2倍
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「料理にも効果があるんですね」
『そうだね。スキルや本人の腕前で製作評価が10段階で評価されて、効果も変わってくる仕組みだよ』
「なるほど10段階でしたか。私もまだまだというわけですね」
『いや、あんな雑な素材と環境でこれはすごいけどねぇ。ちなみにそういうアイテムはストレージっていう収納にしまえるよ。収納しようとするとすっと消えるはず』
ストレージねオーケーオーケー。
収納、と念じると作りたての料理は消えて代わりにステータス画面に似た透明な板が現れた。
画面の右上には“1/1000”と書かれていて色んなマークがあり、先程の丸焼きの写真が小さく載っている。それを触ると詳細や取り出す等の選択も出た。
『同じアイテムは重ねて100個まで、それを超えると別枠でまた100までって感じで合計1000枠収納できるよ』
「便利ですね」
同じアイテムなら全部で10万個収納できるというわけだ。現実にもあったらどれだけ便利なことか。
『よし、とりあえずチュートリアルはこれで終わりかな。これ以降習得するスキルは自分で検証してみてね』
「分かりました。
『それでいいと思うよ。じゃあ最後に、最初に行く国を選んでもらおうか』
国か。
足元の世界地図のようなものがそれぞれ光っているのでそれを参考にしろということだろう。
降り立つことの出来るのは、この六角形とも円形ともとれる大陸だけのようだ。
時計の12時方向から時計回りで歩いて各国の特長を見て回ることに。
まずはキルス聖王国。その名の通り聖王さんとやらが統治しているようで宗教みが強いようだ。メイド関係ない、却下。
次はセヌビア共和国。よくある共和制で商業やものづくりが活発らしい。金を持ってるだけの誇りの無い主人に仕える気はないので却下。
その次は亜人連合。どうやら色んな種族の里やらなんやらが集まった場所らしい。メイドの出る幕は無さそうなので却下。
時計で言う6-8時方向にあるのがアビクセウス竜王国。竜は流石の僕でも知っている。高校の時
そしてお隣ライネハイト帝国。皇帝さんが統治している国で純人族の国家の中では軍事力随一らしい。メイドの出番はありそうだけど、別に争いが好きという訳でもないのでそのお隣さんの方がピッタリそうだ。
最後に本命のグランセル王国。こちらは王をトップに各地方を貴族が治めているようで、1番分かりやすい国家体制だ。これといった特別な事情は無いが安定感は1番。それにやはりメイドが居そうな場所だ。ここにしよう。
「グランセル王国で決定……する前にお聞きしたいことがあるのですが」
『ん?』
「時計のようにくるっと国があるのは構いませんが、中央の森林、国土判定になっていないのはどういう意味なのでしょうか?」
『ああ、やっぱり気になった? それは死の森って言って、色々あって全ての国が支配を諦めざるをえなかった未開の地さ』
ドーナツのような配置だったのはこの大陸の歴史が関係しているのだろうとは思っていたが、死の森とはまた物騒な名前だ。
『詳しくは自分で見聞きして確かめるといいよ』
「そうさせていただきます」
『さ、これで設定とチュートリアルは終わりでいいかな。説明し忘れてるのは……あ、お金を払えば各対応する町に転移できるよ。最初の町で転移すると別の国の最初の町って感じでね。国内の移動も行ったことがあればその転移装置でできるから』
「了解いたしました」
移動が楽なのはありがたい話だ。
『それじゃあ、君だけの物語を楽しんで〜』
「お世話になりました。どうか7番様もお元気で」
体が足元から消えていく中、7番さんは不思議そうな顔をしていた。
『……ずっと気になってたけど、こういう時ってあだ名とかつけて親しくなろうとするもんじゃないの? 7番とか味気ないし』
「あまり私自身の友人関係が多いわけではないのでそのような仲の深め方は存じ上げませんが、少なくとも“7番”というのも与えられた大切な名前でしょう?」
体がゆっくりと消えていく。
「それを見ず知らずの私が自分勝手に蔑ろにするのは失礼だと思います」
『……そっかぁ。大切な名前か。考えたことなかったよ』
「名前、名称には命が宿っていると躾られましたので」
『君、やっぱり変わってるね〜。でも気に入った。何かあったらメニューって念じればログアウトボタンとかがあるのか表示されて、中に俺っちを呼べるGMコールボタンがあるから何かあったら呼んでよ』
「ログアウトはゲームをやめるときのことですよね。メニュー、触ってみます」
『あ、確かにメニュー画面の説明してな――』
渦にでも吸い込まれるような感覚で意識が一瞬飛び、再び目を開けると見事な噴水の広場に立っていた。
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