1.夢と希望を添えて

 

 ――ゲーム初心者、フルダイブ型VRに関しては初の僕は、定員の限られた“Original Trajectory Online”に当選? 合格? していた。とにかくこれで誘ってくれた友人と遊べる。

 そして何より、理想の自分になれるのだ。


 そう意気込んで、VR機器を装着して起動した。




『“Original Trajectory Online”のインストールが完了しています。起動しますか?』

「はい!」


『認証中――生体の確認に入ります』

「は、はい!」


『完了しました。ユーザーネーム:明堂めいどうひびき様でよろしいでしょうか』

「はい……」


『照会中、しばらくお待ちください』

「あ、はい」



 なんだかよく分からないけど頑張ってくれてるのは伝わる。ここはメインメニューというらしいのでメインメニューさんは頑張り屋ということだ。

 僕には応援することしか出来ない。


『完了しました。プレイヤーネーム:ヒビキ で間違いないでしょうか』

「合ってます」


『起動を開始します』

「お願いします!」



 少しすると目にも優しい光のトンネルをくぐっていく。

『Fine-VR♪』

『Original Trajectory Online!』



 制作会社とタイトルの読み上げもあるのか。最新のゲームってしっかりしてるんだ。僕の携帯のオセロゲームは単調なBGMしかないのに。



 地図のような足場の場所で右往左往していると、小さな人が現れた。




『ようこそ、Original Trajectory Onlineの世界へ〜!』

「はじめまして、このような素晴らしいゲームをさせていただく機会を得ることができて至極恐縮でございます」



『君、随分とお堅いね?』

「このゲームを制作なさった方ですし、こちらは選んでいただいた立場ですので」



『それは違うよ〜。俺っちはただの案内役のAIだからね。君専用の案内人、7番君さ』


「AI……人工知能って人みたいな意志を持っているのですか」


 最新の技術はすごいんだなー。




『おっとゲーム初心者だとは資料で聞いていたけどそこまでか〜』

「7番様、無知で申し訳ございません。この通り、おそらくゲームにおける一般常識にも疎いのでそれを踏まえて案内してくださると幸いでございます」



『……君、もしかしてもうRPロールプレイしてる?』

「ロールプレイ、演じているかということですね? それでしたら一応なりのメイド像で話しております」



 素の一人称は僕で、敬語もそこまで使わないがメイドならこれが正しい。親の顔よりも目の前で見てきたからね。



『じゃあもう先に色々渡しちゃうね〜』


 そう言って7番さんが指を鳴らすと僕の服装が変化した。

 メイド服のそれである。


『それが君のオリジナル装備、{天破のメイドセット}だよ』

「オリジナル装備……確かプレイヤー独自の服装でございますね?」


『そうだよ。オリジナル装備は“詳細を見たい”と考えると表示されて、他の人に見せるときも“見せたい”って考えればできるよ』

「なるほど。では試しに……」



 メイド服の詳細を見たいと念じると、即座に半透明な板が出現した。触ろうとするとすり抜ける仕組みになっているようで、これを即興の盾にしたりはできないようになっている。


 ========


 〈装備〉

 頭{天破のホワイトブリム}

 耐久値:100/100

 ・HP-50


 胴{天破のエプロンドレス}

 耐久値:100/100

 ・BSP,SKP除く全パラメータ2倍


 足{天破のストラップシューズ}

 耐久値:100/100

 ・【天蹴】


 武器{天破のデッキブラシ}

 耐久値:100/100

 ・【天破砕フラージュ


 └セット効果:獲得SKP2倍

 ========


「よくわかりませんね」

『最初はねぇ。装備についてるスキル……あ、これも説明要るか。技能や特性のことだけど、黒いカッコで覆われてるのがスキルって言うんだ。見たいと思うかそこに指を当てるかすると詳しく見れるよ』



「なるほど」


 ========


 〈装備〉

 頭{天破のホワイトブリム}

 耐久値:100/100

 ・HP-50


 胴{天破のエプロンドレス}

 耐久値:100/100

 ・BSP,SKP除く全パラメータ2倍


 足{天破のストラップシューズ}

 耐久値:100/100

 ・【天蹴】

 └常時空中を自由に歩ける。


 武器{天破のデッキブラシ}

 耐久値:100/100

 ・【天破砕フラージュ

 └武器の耐久値を10%消費して、攻撃対象の最大HP10%を削る。

 CT:0秒


 └セット効果:獲得SKP2倍


 ========



「空が歩けるのはいいとして、耐久値、HP、CT、BSP、SKPというのはどのようなものなのでしょう?」

『耐久値はゼロになると装備品が壊れるんだ。もちろんスキルで直すこともできるよ。HPとかはまとめて見せた方が早そうだね。普通なら各自詳細をみてもらうんだけど……まずは“ステータスヘルプ”って言ってみて?』


「はい。ステータスヘルプ」



 ========

 プレイヤーネーム:名前。(R)がある場合はリアルモジュールのアバターであることを示す。他プレイヤーから見られる要素。


 種族:身体的特徴、体質、パラメータの成長方針に大きく関わってくる区分を指す。

 種族レベル:種族の成長度合いを示す。成長限界を迎えると進化して上位の種族になることも。これも表示される。


 ジョブ:プレイヤーの役割、得意分野を伸ばす要素。変更も各教会で行うことが可能。

 ジョブレベル:ジョブの成長度合いを示す。成長限界を迎えると上位のジョブになることも。


 満腹度:空腹の度合いを可視化したもの。0に近付くとパラメータが制限され0になると餓死する。



 〈パラメータ〉

 HP:ヒットポイントの略称、手傷ダメージを負うと数値が減り、0になると死亡する。小数点以下で内部データとして管理されているスタミナ体力の上限にも関わる数値でもある。表示される。


 MP:マジックポイントの略称、魔法スキル使用の際に消費する。MPは時間経過で回復する。0になると朦朧状態になり、10%に至るまであらゆる行動が難しくなる。


 筋力:物を持ち上げたり動かす行動に関わる数値。物理攻撃のダメージはこれを参照する。


 知力:書物の読解力や知識習得に関わる数値。魔法攻撃のダメージはこれを参照する。


 防御力:物理攻撃、直接攻撃型の魔法に対する抵抗を表す数値。


 精神力:状態異常、内部攻撃型の魔法に対する抵抗を表す数値。


 器用:生産系スキルや遠距離攻撃の命中率に関わる数値。


 敏捷:移動速度や反射神経に対応する数値。


 幸運:ランダム要素のすべてに関わる数値。


 BSPボーナスステータスポイント:種族レベルの上昇に伴って入手可能な数値。自由にSP以外のパラメータへ割り振ることが可能。割り振る際の各項目の変換効率は種族によって異なる。


 SKPスキルポイント:種族レベルの上昇に伴って入手可能な数値。これを対応数消費して獲得可能スキル一覧からスキルを選択して獲得することができる。



 ========



 ざっと説明に目を通しておおよそ理解できた。

 要するに熊さんになって料理家になったりもできるのが種族とジョブ。

 パラメータはスポーツテストの分析結果だと思えばいいのだろう。それぞれの数値は成長によって上がり、自分で成長の方向性や技能や特性――いわゆるスキルを手に入れることも可能と。



 スマートフォンのような感覚的な説明より、今みたいな理屈っぽい方が個人的には理解しやすく助かる。ここまで説明してくれればあとは実践あるのみ、といったところだろう。

 まだ分からない点が二つあるが――



BSPボーナスステータスポイントSKPスキルポイントはゲーム内に沢山あるクエスト――依頼を達成しても貰えたりするよ。そこに無いCTクールタイムは、アクティブ――任意発動のスキルを使うときに連続して発動できない制限の時間みたいなところかな』


 クエストね。了解了解。

 そしてCTはそのまま冷やす時間というわけか。ということは私のデッキブラシの【天破砕フラージュ】とやらは10回使うとデッキブラシが壊れる代わりに相手を完全に倒せてその間の制限も無いのだろう。



『リアルモジュールについての説明も無いみたいだね。簡単に言うと君のアバター肉体を作る際に現実の造形をそのまま使うって意味だよ』


「そこに何かメリットがあるのでしょうか?」


『キャクターメイキング……自分のアバターを作るのが面倒な人にとっては省略できるし、自分で調整するよりずっと自然なアバターになるね。こちらとしてもあまりコテコテしたプレイヤーばかりというのも嫌だから、特典として最初に選べるスキルが一つ増えるようにしてるねー』


「やり得というわけですね」



 幸い、昔から中性的な顔立ちだからメイドとして相応しくない絵面にはならないはず。



『今はこれくらいでいいかな。じゃあ早速キャラクターメイキングに入ろう。まずはアバター肉体の見た目からね』



 7番さんがそう言うと、眼前に自分の姿を映した板が現れた。身長やら体型を弄れるようだ。適当にポチポチ触るが、ぶっちゃけ細かいことは分からないのでリアルモジュールボタンを押す。

 すると顔と体型にロックがかかった。

 変更可能なのは髪型、髪色、瞳の色。


 このままでいいかなと考えていると顔に出ていたのか注意された。


『完全にそのままだとネットリテラシー的に危ないからやめたほうがいいよ。変えられるとこは変えた方がいいかも』

「……そういえば私の友人紫村さんもそんなこと言ってましたね」



 髪色は真っ黒な色から明るめの焦げ茶色に。髪型はあまり長いと痒そうなので肩にかかる程度の長さにして、前髪はメイドっぽく整然と揃える感じに。

 瞳の色は同じく明るめのレモン色に。どうせなら同じ色で髪の内側の色も変えちゃおう。メイド服のリボンがレモン色だから揃えた方が見栄えがいい。良き主を持つにはまず良きメイドにならないとだから可能な限り外見も整えたい。


 しかしそうなるとすこしコンパクト過ぎる気もする。毛先を少し遊ばせる感じにしてみて――おお、これなら質素すぎないしいい塩梅だ。




「これでどうでしょう?」

『なるほどそう来たか。確かに申請書類にはメイド云々書いてあったけど……ちょっと待っててー』



 何か問題でもあったのかと心配に思っていると、

 7番さんは指を鳴らした。

 同時に僕の姿が先程設定したものになった。

 ――全く弄っていないはずのまな板がご立派な胸部装甲になったのを除いて。



「おっぱいがつきました!」

『パッドだけどね』



 なんとこちらの本気っぷりを見てメイド服にパッドを追加してくれたらしい。しかも邪魔にならない程度の程よい膨らみなのでありがたい。



『さて、じゃあ今度は具体的な種族やらジョブ、パラメータ、それとスキル選択をやってもらおうかな』


 ――ふふふ! ここからはちゃんとあらかじめ公開されていた情報だったからメイドになるための選択をしてきているのだ。

 ホームページとやらの見方が分からなくて紫村さんにわざわざ印刷したものを郵便で送ってもらったのだ。ここからは巻きでいこう。彼女を待たせるのも悪いからね。




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