小手調べ

ワゾルフは私に、酒場の椅子を魔法で動かすように指示した。

それが基礎魔法の一つの、、、そうまほう?らしい。


“そうまほう”ってなんだ?

“走馬灯”じゃないんだよね?

ま、まあ、よく分からないけどやってみよう。


私は言われるがまま、少し遠くにある椅子に、その場で体を向ける。

そしてふと思う。


、、え、これって手を前に出した方がいいの?

そうじゃないと、魔法、使えなかったりする?


私はなんとなく、自分がいかにも魔法使いのようなポージングをすることが恥ずかしくなり、クロワッサンの入ったバスケットを抱きかかえたまま、一旦頭の中で、椅子を動かすイメージで念じてみた。


椅子動け椅子動け椅子動け、、、、


しかし、椅子はびくともしない。


すると、ワゾルフが後ろから小ばかにするに鼻で笑った。


「ふんっ、なにをしているんだぁ?サイコキネシスでも使う気か?」


押さえているつもりなんだろうが、その言い方は確実に私を煽っていた。


やっぱり手は向けるべきか。


私はむきになって、バスケットを床に置き、両手を前に出し、改めて力を込めてみる。


動け、動け、椅子動いて、動いて!


手を向けるのはやはり大事だったみたいだ。

だんだんと私の手のひらが青い光をまといだす。

その光は手のひらを完全に覆って、さらに私が手を向けていた

椅子もうっすら青い光をまとっているのが分かる。


ガタガタガタガタ、、、、、


動いた!

どんなもんだ。私は教わらずともすでにこのくらいの操作は、、、

でも、、あれ?


確かに椅子は想像通りに動いてくれたが、その場でガタガタと揺れている程度で、

それ以上、後ろに下がってはくれない。


あーしんどいしんどい、、、


私は魔法に精通してないながらも、魔力に変換されたカロリーが現在進行形で、

みるみる消費されているのを感じる。なんとなく体に疲れがたまりだすような感覚を

覚える。そうなると本能的に“何か食べたくなる”。


甘いもの補充したい、、、

はあ、あーもう無理っ


私は、それ以上椅子を動かすことを諦めて手をおろす。


その様子を眺めていたヨーシャさんが言う。


「うーん、魔力がいまいち“溜まりきってないのかなぁ”?」


私は、はあはあと息を上げ、肩を上下に動かす。


「、、うーん、そうね。あなたはやっぱり“食べたものが魔力になっている”と思うんだよな~。」


ヨーシャさんが言った。


「クロワッサンはまだあるけど、、、」


床に置いたバスケットを覗き込んだヨーシャさんが

ぼそっとそう言ったのを私は聞き逃さない。


クロワッサン、、、

はっ!クロワッサンっ!


深刻な話が長々と続いたせいで、結局一個しか食べられていないのを

そこで思い出す。あまりの感動の味に、一個でもかなり満足できたというのも

あるだろうけど。


私はすごい速さで、バスケットを再び抱きかかえる。

その中のクロワッサンたちは、すっかり冷めているとは思うが、

まだほのかに甘い香りは伝わってきた。


ヨーシャさんが私に聞いた。


「大丈夫?無理しないで良いけど、あと何個くらい食べられそう?」


私は笑顔でヨーシャさんに答えた。


「うん!全部食べるよ!」


会話になっていないことに気が付かない私は、すぐに二つ目のクロワッサンを頬張った。











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