怒りの形相

拝啓、異世界転生初日の私へ

私はいま、“食べたいものを遠慮なく食べつくす”夢のライフから

どんどんと遠い所へ向かっている気がします。

敬具


こんな手紙が書けたなら迷わずあの日の浮かれた自分に郵送してあげたい。


ワゾルフは最後に、“王国近辺調査隊”と、その隊に私が送られることがどんなことを意味するかを丁寧に説明してくれた。


「その子供が間違いなくこの隊に所属になる理由は明白だ。腐った貴族のやつらは、この子供のような“平民でありながら魔合者”、といういまだかつてなかった事例を、その先には過酷な探索の先に死だけが待つ“王国近辺調査”にその子供を送ることで、早く忘れ去りたいからだ。貴族じゃないその子供は、魔法士としての未来は閉ざされているも同然だ。“落ちこぼれ”の汚名を背負わされた兵士たちに混ざって処分しようとするのは容易いだろう。」


「そんなこと、、、、。許せない、、、、、。」


お母さんが涙ぐんだ声で言う。


それを見てか、お父さんがまた、必死な声で聞いた。


「で、でもっ、お前はさっき何もなかった空間に、急にあのバスケットを出現させたんだよなぁ!?そんな凄い魔法使いのお前が、どういう理由か知らないが、娘を守って、助けてくれるんだろう?!」


それを聞いてワゾルフは一瞬、たじろぐような表情を見せたが、すぐにまたクールぶった顔をして、首を横に振って言う。


「いいや、そこまではできない。私も、私の妹のヨーシャも、“そこ”には属していない。」


ワゾルフはあくまで冷静にそう言い放った。


お父さんは食い下がる。


「どうしてだよ!、、確かに、そこに所属するのが“落ちこぼれ”ってんならよぉ、お前は違うだろうがよぉ、じゃあどうやって娘を助けるんだ、、、!そもそもどうして俺たちを助けるんだ!お前だって貴族なんだろ?」


すると突然ヨーシャさんが割り入って叫んだ。


「あんな奴らと一緒にしないでっ!!」


場に沈黙が流れる。


お父さんも思わずヨーシャさんの方を見る。


ヨーシャさんはその美顔に似合わぬ怒りの形相をしていた。

一部の貴族と一緒にされることにとてつもない拒絶反応を示しているようだった。


ワゾルフが言う。


「俺たちがその子供を助ける理由については、“尊く幼き子の命を無下にしたくないから”としか、今は言えない。、、、無論、その子供を直接的に護衛することはできないが、可能な限り、私たちも援助することは約束しよう。」


ワゾルフは苦しそうにそう言って、さらに続ける。


「、、、話は変わるが、その子供に魔法を教えたのは一体誰だ?」


お父さんの方を向いてワゾルフは聞いた。


が、もちろん私は誰かに魔法を教わるなんてことはしていない。

だからお父さんの返答は、、、


「教えた?、、いいや、その子は、、、といっても最近の話になるが、魔法を自発的にいつの間にか使うようになったんだ。」


事実はお父さんの言ったその通りだった。


ワゾルフが反応する。


「、、、、そうか。まあいい。もし私たち“魔団”の許可もなしに魔法の使用をこの国で行うものがいたなら、その時点で重罪。その場合はもちろん、今回の件とは別に、厳粛な処罰を受けることになるだろう。では、、、おい、魔合者の子供。」


ワゾルフは私を睨むように見下ろす。

一度は“本性”を露わにした、性格こどもイケメンに見下され、私はすこしイラっとした。、、っと危ない、危うくそのムカつきが顔に出てしまうところだった。


私はぶるぶる恐れ震える幼女を演じた。


「そう怯えるな。いいか、一つ質問だ。“基礎魔法”は使えるか?、、、嘘はいらない、これは全てお前のためだ。正直に答えろ。」


ワゾルフが少しずつこちらに歩み寄りながら、そう聞いてきた。


私は黙っている。

嘘をつこうとしているわけではない。

単に、“基礎魔法”とやらがなんなのか良くわからないのだ。

だから、使えるかどうか聞かれたっていったいどんな魔法のことを言っているのかも分からないのだ。


私がうんともすんとも言わずただ困惑した顔だけつくっていると、ワゾルフは急に自身の顔の前で、人差し指だけをピンと立て、言った。


「いいか、この指を見ろ。」


そう言うとワゾルフは、人差し指だけを立てていた右手に、自分の体の前を横切らせ、左方を差す。私からすると、向かって右側だ。


その指に差す先にあったのは、酒場の客の座るテーブルと椅子だった。


「あの椅子をこれが“基礎魔法”のひとつ、“操魔法”だ。」


ワゾルフは私を見つめて、真剣な顔でそう言った。













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