第4話 生き抜く素質

王国近辺調査


「その子供が処刑を免れるためには、道は一つしかない。それは次回の

“王国近辺調査”で成果を上げることだ。」


ワゾルフは真剣な面持ちでそう言った。


近辺調査、、?私はまったくピンとこない。


今からその“王国近辺調査”について話し始めるつもりなのか、ワゾルフは艶やかな長髪をかきあげた後、遠くを見るような目と、古い記憶を思い返すようなどこか儚い

表情で、言葉を続けた。


「、、、かつて、私たちが暮らしているこのイークウトは、魔王と魔物たちによって支配されていた。草木は枯れ、土地は荒れ果て、人々は生きる気力を失い、魔王の支配に屈していた。魔王が侵略してすぐ、国王は殺され、残された王族たちも日に日にその手にかけられた。殺されたのは王属だけにとどまらず、必死に魔王たちと交戦していた魔法騎士団の兵士たちや、街の平民たちも同じような目に逢った。イークウトは崩壊寸前だった。そんな最中さなか、疾風のごとく現れた勇者たちは魔王を討ち、イークウトに平和が取り戻された。これが俗にいう“勇者平定”だ。」


あっ出た、“勇者平定”。

ファンじいさんも言っていた言葉じゃん。


ワゾルフが思い出し語ったのは、十年前のこの国の歴史だった。

私がこの異世界に転生する四年前、、、わりと最近の話だな。

こっから話はどう“王国近辺調査”につながっていくんだろう。


ワゾルフはさらに言う。


「“勇者平定”により一番変化があったのは王国やその周囲の“自然環境”だ。魔王が支配していた頃、その強い“魔気”によって植物は枯れ、動物や魚も育たなかった。しかし、魔王が消え去った後、王国は緑を取り戻し、動物や魚も息を吹き返し、今では多種多様な生物が生息している。ただ、この王国の周囲にはいまだ“強力な魔気”が漂う魔境ダンジョンが数多く残っている。」


ダンジョン、、ダンジョン?ダンジョンだ、、、、。

思わず私は感銘を受ける。


異世界にダンジョンはマストだ、と思う。

相場、じゃあ、“王国近辺調査”っていうのは、そのダンジョンの

探索が目的ってところだろうか。


私は小説を読んで得た、さすがの異世界モノ知識で、話の流れを勝手に推測する。


ワゾルフが言う。


「“勇者平定”より十年。平和になった王国は今、かつてない“成長期”の真っただ中なのは言わずともわかるだろう。発展に伴い人々の数は増え、土地が足りなくなってきた。国王としてもぜひ、“魔境”を、新たな領地としたいところだろう。

そんな中、冒険者パーティーに混ざり、魔境や未開の地を調査するのが“王国近辺調査隊”だ。」


こう言ってワゾルフは、その組織の名を明らかにした。


王国近辺調査隊、、、

ちょうさ、、隊かぁ、、、


冒険隊みたいなノリの名前でいまいち格好がついていない気がしたが、

私はまだ真剣な表情を崩さなかった。


「“王国近辺調査隊”は“王属魔法士団”、“王属騎士団”のそれぞれのから構成されている。一般的には、若き兵士たちの腕前伸ばしのための試練の一環とされているが、実情はそんな易しいものではない、、、。」


ワゾルフの顔が少し強張る。

何を言う気なんだろう、、。


ワゾルフは少しだけ眉をひそめ言った。


「、、、実際は、実力的に将来性がなく、それ以上の成長が見込めない、いわば両団の“落ちこぼれ”兵士たちが、なにかしらの“功績”を上げ、団に復帰するための最後のチャンスの場というのが正しい。」


お母さんとお父さんが息をのむ。

娘をそんな場所に送り出さないといけないのかと言うようにな絶望の表情だ。


はぁ。そうですか、、、。はぁ。

、、、私はどうやらとんでもない所に入らないといけないようだ。


組織の落ちこぼれ達が送られる最後の活躍の場、、、。

人の踏み入れられない魔境ダンジョンで、命がけで調査することになるんだ、、、。


合っているかはわからないけど、魔法士団とか騎士団のお偉いさんの考えとしては、

、なんてとこだろうか。


ぱっと思いついた恐ろしい想像に、我ながらゾッとする。


こっわ、私なんてこと考えてんだ、、、。

ああ糖分足りてない、、、なにか、なにか食べたい、、。


私は急に食べ物にすがりたい気持ちになり視線を落とす。


そこにはすっかり冷めてしまった、ご臨終のクロワッサンたちがバスケットの中に

転がっていた。

私はすぐに手を伸ばすかどうか悩んだが、もう少しだけワゾルフの話を

聞くことを決め、視線を上げた。









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