唯一の道

食べたもののカロリーが魔力に変換される。

私はなんでこんなスキルを得てしまったんだろう。


神様ともう一度、話ができるならば、こんなスキルは外してもらうように頼もうと

思っている。私は昨日からずっとこのスキルのことを恨んでいた。


はじめは“魔法”を使えることは嬉しかった。

酒場に来る常連のお客さんの手助けをした時、自分の力が誰かの役に立っていると思ったからだ。それも、“好きなものを食べること”を存分に楽しみながら。


私が転生する前、まだ盛山ミナだった頃、芸能活動のために食事制限をすることを私が嫌がったときに、決まって口癖のように言ってきた言葉がある。


「あなたが好きなことを我慢することが、誰かの幸せにつながるの。」


義母はその言葉を私に言い聞かせて、誰かのために自分が犠牲になるよう

教育しようとした。


でも私はどうしても納得できなかった。

そんなの間違っていると思った。


自分の人生は、自分自身が心から幸福を感じられることを、自分の好きなだけ満喫

するためにあると私は思うのだ。


もちろん、規則やマナーの範疇はんちゅうで、だけど。


私は、決して自分を犠牲にして、誰かを幸せにすることなんてできない。

だって人生はいつだって自分のものだから。


そんな私は、異世界に転生して、“好きなものを食べること”を我慢しないで

人の役に立てることがとても嬉しかった。

自分が食べたいものを食べるというなによりもの幸せを感じながら、

誰かもいっしょに幸せにできることが。


それが、まさかこのスキルのせいでこんな惨事に巻き込まれるとは。

神様も言っといてよね、、、「君の生まれる国は、貴族以外が魔法使っちゃったら処刑されちゃうかもしれないよ」ってさぁ。


「その子供が処刑を免れるためには、道は一つしかない。」


ワゾルフは次の言葉を前に、重々しくそう言い放った。


私が処刑を免れる唯一の道、、、?

ワゾルフが続けて言った。


「、、、それは次回の“王国近辺調査”で成果を上げることだ。」


それは、また私の知らない言葉だった。

王国なんたら調査、、、?

全くピンと来ない。


しかし、この“試練”が私をさらに、夢の“ごちそう満喫ハッピー異世界ライフ”から

私を遠ざけることを、この時はまだ知らなかった。





(つづく)














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