さっきのはナシということで
その訪問者たちは姓をストラーレンと名乗った。
二人は実の兄妹で、名前はそれぞれ、妹のヨーシャと兄のワゾルフだという。
妹のヨーシャと名乗った女の人はやっぱり顔が整っていて美人だった。
それでいて、人当たりのよさそうな雰囲気で、突然感情を爆発させた男の人に代わって私たちに身を明かした。
一方、そのさっきまで冷静でクールな印象だったワゾルフ兄ちゃんの方はムスッとした顔で、お父さんのことを睨んでいる。
てっきり、冷静で頼りがいがありそうなカッコいい人なんだと思っていたのに、、、。
この十数分の間に失恋した気分、、、。
私はワゾルフと紹介された男に冷ややかな視線を送りながらそう思った。
するとそれに気づいたワゾルフはハッとした表情を見せ、
両手で顔を洗うかのようにゴシゴシこすり、目をつむったまま天井を見上げた。
数秒間、その状態で止まったかと思うと、ゆっくりと頭を元の位置に戻し目を
開けて言った。
「ふうぅ。、、、処刑というのはあくまで、最悪の場合になったときの話だ。」
いや切り替えられるかーい!私はすぐに心の中でツッコむ。
さっきあそこまで情けない姿を見せておきながら
まだ“クール”を演じようとするなんて、余計にその子供っぽい性格というのに
納得させられる。
妹のヨーシャさんも、兄には見えてない位置で、「やれやれ」という表情をしていた。兄のその変な性格に手を焼いているようのかもしれない。
ワゾルフさんはすっかり落ち着きを取り戻したように冷然と話し始める。
「その子供は平民としては世にも珍しく“魔合者”であるようだ。先ほども言ったが、元来、イークウトでは、貴族の血筋が流れていることが“魔合者”の素質を持つかの最低条件だ。もしかして、お前たちは貴族の血筋の者なのか?」
さっきの子供みたいな癇癪はなんだったのかと、まだ戸惑いを隠せない様子のお父さんとお母さんが、返答に詰まる。
その様子を見かねてワゾルフが言う。
「あぁ、“さっきの発作”は気にするな。、、私は、扱う魔力があまりに膨大すぎて、いつからか“悪魔”に取りつかれてしまったんだ。だからさっきのは私じゃない。
私はあんな、幼稚な行動をしない、、、。私はいつだって冷静沈着で、誰にも冷たいクールな性格で、であって賢い判断力のある、頼れる、、、
、、、クールな男だ。」
流石に苦しすぎる自己紹介だと思ったが、あまりの滑稽さに同情してか、
その場の誰もワゾルフにツッコむことはしなかった。
そんなことには気づいてない様子で、ワゾルフは冷静ぶったトーンで繰り返す。
「どうなんだ?お前たちのどちらかに“貴族の血”は流れているのか?
そうであるなら、只ならぬ事情を抱えていることは間違いないだろうが。」
流石に気を取り直したお父さんが答える。
「いいや、まさか俺たちが貴族の血筋なんてとんでもねえ。か、母さんも俺も、もちろんただの平民階級の家系だ、、、。」
お父さんの言葉に、お母さんも同意するように首を縦に振る。
兄の機嫌をこれ以上損ねさせたくないのか、毅然とした様子でヨーシャさんが言う。
「まあ、そうですよね、、、。お二人から魔力は感じませんし、話を聞いたところ、この酒場も古くから親御さんがやられていたそうですし。」
ワゾルフが言う。
「だとは思ったが、親はやはりただの平民。となると本当に平民の子供に“魔合者”がいることになる。それがどんなことを意味するか分かるか?」
お父さんが聞く。
「なにを意味するんだ、、、?」
ワゾルフは淡々と話す。
「今まで“魔法”を使えなかったはずの平民にそうじゃない奴が現れた。そうなったら一番こまるのは“貴族”だ。今まで貴族は、生まれながらにして持ったその“特別な力”を頼りに、意のままに豪華絢爛な贅沢な生活を送ってきた。ただ、一人でも“魔合者”が平民にいたら?
私いま、“魔法”についてご講義いただいてる、、。
異世界モノの小説で幾度となく出会ってきた場面ではあるが、
胸がわずかに高鳴る気分になる。
フィクションとは全然違う、“りあるがち”な話として“魔法”の存在に触れているんだ。
「ましてや、その子供は、魔合者といっても極めて“特異”な存在のようだ。野放しにはしてくれないだろう。」
ワゾルフがそう言った。
私のスキルは、この世界の人に取っちゃ特異なものに他ならないみたいだ。
魔合者のみならず“剣食い”なんて悪名を付けられてしまう始末だし。
いままで“魔法”を独占できていた貴族にとっては、たしかに私みたいな
謎の力を持ったSF少女は脅威でしかないだろう。
望んでもないたまげたスキルを付与した神様に私はイライラする。
なんで私の転生に、“カロリーを魔力に変換する”なんてオプションをつけてくださったんだろうか。平凡な生活とは真反対な方向に向かっている自分の人生を俯瞰して、
私はブルーな気分になった。
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