酒場からの逃走

たぶんさっきの魔法で“魔力”は使い果たしてしまった。

六歳のか弱い体じゃ抵抗しようにもできない。


店はまたパニックに包まれていた。


私を抱きかかえた男は走りながら叫んだ。


「ガキは捕まえたぞ!!」


どこからかその声に答える声が複数聞こえた。


店はまだ白煙に包まれていて、周りはよく見えない。


男はまっすぐ出口まで走り、扉を勢いよく開け、外に出ようとした。


その直前、さっきの冒険パーティの勇者の声が聞こえた。


「待て!その子を離せ!」


ああ、私どうなっちゃうんだろう。

こいつに何されるんだろう。


男は店を出ると、私を片脇に抱えたまま、口笛を吹いた。

高い音がリズムよく三回響いた。


通りの人たちがこっちを不思議そうに見ている。

そしてそのうちの一人が酒場の異変に気付き声を上げた。


「おい!酒場から煙が出てるぞ!なにがあったんだ?!」


「ほんとうだ、待て、店の前のあいつら、“盗賊”だ!女の子を

抱えてるぞ!」


私たちに通りの民衆の視線が集まる。


「ちっ、まだか飛竜のやつら、、、!」


男たちは焦った声でそう言った。


すると、酒場からパニックになったお客さんたちが飛び出てくる。

その奥にあのパーティの勇者がいた。なにか必死に叫んでるようだ。


私がその声をなんとか聞き取ろうとしていると、空からさっきの

口笛のように高い音が聞こえてきた。

鳥だ。いや、あれはドラゴン?


遠目にはかなり小柄なようだけど、確かにドラゴンだ。

それに三匹もいる。

昔、昔といっても私がまだ盛山ミナだったころに見た“異世界モノ”の小説に

出てきた描写、そのものと言えるようなドラゴンだった。


そのドラゴンが空中で失速したかと思うと、一気に真下へ急降下し、地面すれすれで

方向を変え、進路にいた民衆を左右に散らしながらこちらめがけて

真っすぐに飛んでくる。


地面すれすれを飛行するドラゴンを目の当たりにし、

不覚にも、かっこいいと思ってしまった。


しかし、そう思うのも束の間、三匹のドラゴンは、私を抱いた男とその二人の

仲間の腕を前爪で掴み、再び空に舞い上がった。


だんだんと地面との距離が開いていく。


かなりの高さまで来ていたと思う。

男が何かしゃべりかけてきたがそれどころじゃなかった。

さすがにそのスリル満点な状況に慣れていなかった私は

遠くなっていく街を見ながら、気を失ってしまった。














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