ファンじいさん
まだ昼だというのに酒場はそれなりに繁盛してた。
屈強な男衆が顔を真っ赤にさせて楽しそうに談笑してる。
私が階段を下りてくるとそのうちの何人かが反応する。
「よーぅ元気かゴぉっ、うぷっ、ゴ、ゴ~チちゃ~ん!!」
めちゃくちゃ吐きかけてんじゃん、、、、。
あっこに近づいていくのはやめとこう。私が抱きつきでもしたら
お腹の中からいったいどれほどのものが吐き出されるかわからない。
テキトーに手だけふったら満足そうな顔でそのまま机に倒れ伏してしまった。
あの人ってたしか漁業団の人だったよね。
この前“人魚のふかひれ”を食べさせてもらったんだ。
もちろん本物の人魚じゃなくて、“ニンギョザメ”って魚のふかひれなんだけど
あまりの美味しさにそう呼ばれてるらしい。
そのお礼に、近海での漁業を邪魔してたっていう“海獣たち”を
一匹残らず退治してやったんだけどね。
最初は数体って聞いてたんだけど、私が懲らしめたやつが
仲間を呼んじゃって、結局最後は親玉が出てきたんだけど、
そいつを倒したら、どういうわけか海流も変わっちゃったみたいで、
前よりもたくさん魚が取れるようになったって漁業団の人たちはすごく喜んでくれた。
まだ盛山ミナだった頃にもふかひれを食べたことはなかった。
でもあれはたしかに相当美味しかったな。
で、ファンじいさんはどこだろう。
そこで、厨房でなにかに向かって楽しそうに喋るお父さんが目に入った。
かなり目線を下に向けて喋りかけていって、調理台が死角のここからは誰としゃべっているのかはわからない。
私はお酒が入り顔を真っ赤にさせた大男たちが話しかけてくるのをできるだけ無邪気な笑顔一つでスルーしながら店内を横断して、厨房に到着した。
「やあゴチちゃん、元気にしとったかい。」
そこには小麦色に肌が焼け、ぼさぼさの銀髪、上には年季の入ったポンチョを
着た老人がいた。
しわしわの顔でにっこりと笑いかけてくるこおじいちゃんがファンじいさんだ。
私と同じくらいの身長しかないファンじいさんは小人族の織物商人だった。
でも小人族だといってなめてはいけないらしい。
お父さんが言うには小人族はみな怪力の持ち主で、
中には巨人族を投げ飛ばしちゃう人もいるんだって。
前は“水あめ”だったけど、今日は何をくれるんだろう。
フィンじいさんはかごから何かを取り出して、私に渡してくれた。
「今日隣国のウイスの商人と市場であってのぅ、そやつにもらったのがこの
“金のプリン”じゃ。食べたことあったかのぅ?」
「ゴチはまだ食べたことないと思います。そうだよな?」
お父さんに聞かれ私はうんうんうんうんとうなづく。
最後の二回は「食べるか?」って聞かれたときに答える分がフライングしてしまった。
「かなり高地にあるウイスは冷涼な気候でのぅ、大切に育てられた“ゼウ”の搾りたてミルクをふんだんに使ってつくられたものじゃぞ。きっとゴチちゃんも満足してくれるじゃろぅ。」
神神神ぃ!
転生するときにホンモノの神様を見てる私でも
食べ物をくれるファンじいさんには後光がさして神様に見える。
「それでなんじゃが、、このプリンを上げる代わりに前の“アレ”、頼んでもいいかのぅ?」
ファンじいさんはうしろ頭をかきながら私に申し訳なさそうにそう聞いた。
アレってアレのことね。
商人として各地を旅歩くファンじいさんは私の“アレ”がたまらなく
気持ちいいらしい。
ちょうどいい、とうとうお披露目するとしようか、
私の“スキル”がいかなるものか、、、!
「うん!」と答え、お父さんにスプーンをもらった私は
“金のプリン”に手を伸ばした。
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