スキルはそう“脂肪”

私のスキルはそう、“脂肪”。


、、そう脂肪!って言われても「あーあのスキルね!」なんて言ってくれる人は

そう多くないでしょうね。


私、異世界では酒場の一人娘・ゴチとして生きているんだけど

前世に当たる盛山ミナだった頃の私の記憶は残っていて、

だから趣味、趣向もまったく変わってはいない。


この前お母さんの付き添いで市場まで行ったその道中で、

白馬に乗って街を巡回していた騎士団?らしき集団の中に

私のどタイプで、元・ギャング&プリンスの

平尾ショウ君似の超絶イケメンがいたときには思わず叫びそうになっちゃたから、

それは間違いないみたい。


そんな私がまだ盛山ミナだった頃に一番好きだったことといえば

“美味しいものをたくさん食べること”


元々太らない体質だった私は周りの子よりも

好きな食べ物を遠慮なく食べることに抵抗がなかった。


それに加えて、“ちょっとだけ”大食いが得意だった私は

小学生のころからその食べっぷりを両親や親せき、友達から

よく驚かれていた。


クラスのどんな大柄な男の子たちよりも量、スピードの両方で食べることに

関しては私が一番だったし、中学に入ってからは“街の大食い少女”として

ローカル番組に出演したこともある。(実はそれが結構ネットで話題になって、私が所属していた芸能事務所にはその時から私に目をつけていたプロデューサーがいた。)


食べようと思えば朝、昼、晩、とことん食べ続けることができたんだけど

それじゃあさすがに食費もばかにならないから、私はいつも腹5分から6分で

済ませるようにしていた。

、、まあほんとは腹4分くらいだったかも、、、。


そんな私がお義母さんの強制で芸能事務所に入って、モデルになるために

それ以上に少ないご飯しか食べられなくなった。


元々太らない体質ではあったんだけど、成長期だったからか

やっぱり小さい頃よりは体や顔のラインがふっくらとはしてたから、

食事を減らさないわけにはいかなかった。


で、一番好きだった“食べること”を奪われた私にはストレスでしかなかった生活だけど、食べ物のことが嫌いになったことは一度もなかった。

むしろ限られた食事を楽しみにすることで、より“食”への思いが強まっていたような

気さえする。


そんな灰色だった人生があっけなく終わって、

この異世界では存分に“食”を楽しみたかった私に神様は最高の“スキル”をくれたんだ。


「ゴチー?いるかー?織物商人のファンじいさんがお前にお土産があるってよー。」


一階の酒場に出ているお父さんから呼びかけられた。


ファンじいさんというのはお父さんの昔からの知り合いで、かなりの年齢のはずなのに今も現役で商人をやっているかわいい小さなおじいちゃんだ。


ファンじいさんにはこの前“万薬泉の水あめ”ってアメをもらったばかりなのに

また何か手に入ったみたいだ。


私がなにも答えないでいるとお父さんが続けて言った。


「あー安心しろよ、なにかはわからないけど“食べ物”なんだってよー。おーい、おりてこーい。いらないのかー。」


私は元気に、なるべく無邪気そうな高い声で「はーい」と答えた。


ちょうどいい、私の“スキル”がどんなものか

ファンじいさんのお土産を使って説明しよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る