転生ライフも早六年

私、盛山ミナは不遇の人生に早々と終止符を打たれて、

この異世界に転生して、いまは街の酒場の一人娘のゴチとして生きている。


そんな私も転生して早6年。記憶を持って転生したこともあって、

ここまでの私は、いかに周りの人間に不審がられないように

“自然な赤ちゃん”を演じるかに全力だった。


お腹がすいたり、おむつの感触が気持ち悪くなったりすると

大きな声で泣いてお母さんを呼ばなくちゃいけないし、

そうじゃない時でもなんとなく泣いて、お母さんにあやしてもらったりした。


赤ちゃんのふりをするのもなかなか大変だ。

私の夢の異世界転生にはじめっからこんな試練が与えられるとは、

神様は盛山ミナだった頃のわたしに同情して、“すごいスキル”を授けてくれたらしいけど、わがままを言うなら、いい具合に成長して、自由に歩くぐらいはできる子供の段階で転生させてもらいたかったなと何回も思った。


でも、そんな私でもすでに断言できることがある。

それは異世界の食べ物は信じられないくらい美味しいってこと、、、!


というのも、私は初めてミルクを飲んだとき、そのあまりの美味しさに

「おかわり」と言ってしまった。

まさか、自分の子供の第一声がそんな言葉だったと思っていなかったのか

お母さんはちょっと困惑してて、申し訳なく思った私はすぐに

「マ~マ!」と付け加えた。


お母さんはそれを聞いてかなり喜んでくれたけど、

生まれて間もない赤ちゃんが急にはっきりとしゃべり出したこと

はあんまり気にしなかったみたいだ。


異世界の赤ちゃんは生まれてすぐ話し出すもんなのかなとも思ったけど、

そんなことはなかったらしく、うちを訪れた街の人たちに

「こんにちわ~今日は天気が良くて気持ちいいですね!」なんて

話しかけたら真っ青な顔をして驚かれてしまったこともある。

でもすぐに「きっとこの子はお城で働くような頭のいい子になるわよ、ゴチさん!」なんて喜んでくれた。


なんか異世界の人たちっておおらかというか、細かいことは気にしないというか、、、

常に閉塞感を感じるような日本という国で生活していた

私にとってはとっても新鮮で、でもすぐにそんな自由なこの世界の人たち

のことが気に入った。


話は戻って、この世界の食べ物はどれもめちゃくちゃ美味しい。

毎日、食べたことのないような美味しい料理にであうことができる。

よだれ豚の角煮に、ツリーシャークの塩焼き、ウカレダケのスープに

レッドベリーパイ、、、。


元いた現実世界じゃ出会えなかったチョー美味しい食べ物たちをこれまでも

たくさん食べることができた。


これってうちが酒場だから?それはもちろんあるんだろうけど、

それにしても食材一つ一つの味が日本の美味しい食べ物を食べ慣れた私が驚くくらいに美味しいのだ。それはまるでゲテモノにしか見えない食材でも、だ。


やるじゃん神様。

美味しい食べ物がある異世界とかほ~んとに欠点ゼロ!


その上に“このスキル”でしょ?

神様は私に、お礼を言っても言い切れないくらいに最高の

スキルを与えてくれた。

ようやく自由に歩いても喋ってもおかしくない年齢になることができたんだし、

私の“異世界ライフ”はまさに始まったばかり。


さあ待ってろ、この世界にあふれる“ごちそう”たちよ、、、、!

私が全部食べつくして、後悔することないくらい最高の人生にしてやるんだから!


私は、これから喧嘩を挑むヤンキーが指をポキポキいわすように、

お腹をさすり、舌で唇をなめるように一周させた。


















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