祭囃子



 ――祭囃子って、なんか嫌じゃない?


 太鼓や笛の音は遠くにいても聞こえてきて、頭に響くだろう。

 小さい頃はよく祭りに親に連れて行かれたけど、嫌すぎて吐いたこともあったらしい。


 別にリコーダーとかは平気なのに、おかしいと言えばおかしい話だよな。

 でも嫌なんだ。


 嫌いだってことはバレたら馬鹿にされると思って、誰にも話さなかったけど、ある日それが知られたんだ。しかも、最悪なことにからかうタイプにさ。


 散々馬鹿にされただけでも頭にきたのに、そいつまじであり得ないことに、俺を驚かす作戦までたてやがったんだよ。


 何人かを集めて、深夜に俺を無理やり墓場に連れて行った。

 抵抗しても無駄で、連れていかれた途端に太鼓や笛が鳴り出した。


 後で知ったんだけど、あらかじめダウンロードしていた音を大音量で流したんだ。

 そんなくだらないことに、労力をかけるなって話だよな。

 本当に救いようのない馬鹿達。


 俺は気持ち悪くなって、耳を塞ぎながらしゃがんでいるしかなかった。

 そんな俺のことを、みんなが笑っていた。

 楽しそうだったよ。人が苦しんでいるのが、心底おかしくてたまらないっていった感じでさ。


 ……でも段々と様子が変わってきた。

 気づいたんだ。いつまで経っても、音が鳴り止まないのに。


 それからは大騒ぎ。

 誰がやっているんだって犯人探しが始まって、結局見つからなくて。それじゃあ誰がやっているのかって話になるよな。


 人の仕業じゃないとしたら?

 その可能性に思い至ったら、もう大パニック。

 逃げたり、腰を抜かしたり、泣いている奴まで現れた中で、俺は見たんだよ。


 俺達の周りを、たくさんの何かが囲んでいるのを。

 そこから太鼓や笛の音が聞こえてきて、俺は必死に見ないように、聞かないように、全ての情報をシャットダウンした。


 あれ以来、俺は祭囃子には絶対に近づかないと心に誓った。

 ――ああはなりたくないからさ。



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