Ep.27 -…買っちゃった、ね-

 放課後、僕と伶衣はとある場所へと向かっていた。

「…なんか、別に違うってわかってるけど、いざ彼方と2人で来ると緊張するね…」

「…そう、だね」

 そう言って、僕らはその店の中に入って買い物をする。

 そうして買い物を済ませた僕らは、足早に家へと帰る。玄関のドアを解錠し、ドアを開けて玄関の中に入る。

「「ただいま」」

 2人でそう言った後、靴を脱いでリビングの中へと入る。学生鞄と別に少し小さい紙袋を提げて。

「結構高かったね」

「そうだね」

 6万円弱、結構使ったな。…まあ、それだけ価値のあるものであると信じたいんだけど。

「じゃあ、着けよっか」

「うん、そうだね」

 そう言って、小さな紙袋の中から箱を2つ取り出して、1方を開ける。そして、指輪を取り出して、薬指に着ける。

「…一応、薬指に着けるんだね」

「まあ…うん。流石にまだ…左手には着けないよ」

「…じゃ、じゃあ、私のは、彼方に着けてほしい…な」

 そう言って、伶衣は掌を下に向けて右手を差し出してくる。

「…仰せのままに」

 僕はそう言うと、伶衣の薬指に指輪をつける。

「…えへへ、彼方とお揃いだね」

「そう、だね」

 なんか…恥ずかしい。…でも、嬉しい。

「…結婚指輪は、別で買うの?」

「…ん~…どうしよっか…」

 僕と伶衣がリビングでそんなことを話していると、玄関のドアが解錠される音がして、その後すぐにドアの開く音が鳴る。

「たっだいまぁ~」

「…おかえり、母さん」

「おかえりなさい、お義母さん」

 母さんはそう言いながら、真っ直ぐにキッチンへと向かい、冷蔵庫の扉を開けて、お酒や他ちょっとした惣菜を冷蔵庫の中に入れていた。

「今日は普通に早上がり?」

「そうそう。思いの外忙しくなくて、暇だったから早めに上がってきちゃった」

「そう」

 冷蔵庫に惣菜やお酒を入れた後、母さんは「手洗ってくるわね」と言って、洗面所に向かう。

「…お義母さん、驚くかな?」

「さあ?これくらいじゃ驚かない気もするけど」

「お義母さんが驚く事ってあった?」

「あるにはあったけど…結構反応は薄いよ」

「そうなんだ」

 そんな事を伶衣と話していると、母さんが洗面所から戻ってくる。

「………そういえば、それ指輪、どうしたの?」

「え?どうしたのって…普通に指輪だけど」

「へぇ、結婚指輪とかじゃなくって?」

「違い…ますよ。…まあ、その…なんていうか…」

「…結婚指輪のデモンストレーション…的な」

「…へえ、デモンストレーションねえ」

「…何?」

「いや、高かったでしょ。あの人との結婚指輪あるのに」

 流石にそれは着けられないって。

「ま、着けさせる気はないけどね」

 じゃあなんで言ったんだ…。



「…彼方、指輪…買っちゃった、ね」

「そうだね」

 そう言いながら、右手を上に挙げて指輪を見つめる伶衣。

「…楽しみだな…彼方と結婚できるの…」

 そう言いながら、指輪に軽くキスをする伶衣。

「…彼方もしてほしい?」

「…まあ」

 僕がそう言うと、伶衣が僕の頬にキスをする。

「…口じゃないんだ?」

「ちょっと意地悪したくなっちゃって」

 そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべる伶衣の手を引いて、少し強引に押し倒す。

 さっきまでの表情からは一変して、頬を深紅に染めて僕から目を逸らす。

「…そのままでいいの?」

「どういうこ―――」

 伶衣がそう言い終わる前に、伶衣の首元にキスをする。

「ひゃっ…!?」

「ちゃんと真っ直ぐ見てたら口にキスできたのにね」

「…うぅ~…意地悪ぅ…」

「さっきの仕返しってことで」

 そう言って伶衣の上から退いて、伶衣の隣に座る。伶衣の右手と、僕の左手がどちらともなく重ね合わせる。

「…前にも言ったけど、私の初恋が彼方で良かったな」

「そう?」

「うん」

 重ね合わせた手を、またどちらともなく絡め合わせる。

「…彼方、好きだよ」

「僕も、伶衣の事好きだよ」

 そうして、なんだか少し溶けてしまいそうなほどに甘い時間は過ぎていく。

 翌日、僕と伶衣は手を繋いで登校していた。

 別に見せつけようとは思っていないし、注目を浴びるのもなんだか嫌だったので人の少ないところでしか手を繋いでいないけれど。

「…指輪、学校じゃ着けたらだめなんだよね」

「そうだね」

「…でも、これはこれで良いかも?」

 キーチェーンで学生鞄のファスナーと繋がれた指輪を軽く握りしめた伶衣がそう言う。

「そうかもね」

「あ、瀬戸くんに伶衣ちゃん。おっは~」

「おはよう佐藤さん」

「由希ちゃん、おはよう」

「…ん?…ん~?なんか違和感…」

 そう言いながら、僕と伶衣の全身をじっくりと眺め始める佐藤さん。

「…あ、違和感の正体みーっけた」

 そう言いながら、伶衣の鞄に着いた指輪をそっと掌に乗せる。

「…ん~、2人がお揃の指輪着けてると結婚してるようにしか見えないなあ」

「まだ、まだ左の薬指には着けてないから、ね?」

「じゃあ、右の薬指には着けたんだ?」

「…まぁ、うん」

 いつも通りのニヤニヤ笑顔の佐藤さんが僕たちを見て何回も頷く。そして、僕たちの肩に手を置いて、「式には呼んでね?」と言う。

「当たり前だよ」

「呼ぶに決まってるって」

「もう式を挙げる事は前提なんだね」

「「だって指輪買ったし」」

「それもそっか。じゃあ、晴れ舞台は楽しみにしてるぞっ★」

 そう言って教室の方向に向かう佐藤さんを暫く見て、僕たちもそれぞれの教室に向かい始めた。


――――――――

作者's つぶやき:買ってしまいましたね。指輪。結婚指輪(デモンストレーション用)って、これもう『結婚指輪です』って言ってるようなものだと思うんですよね。

それはそうと、もう結婚まで話が進んでますね。なんか早い気もしますが、それだけ二人の想いが強いという事なのでしょう。

――――――――

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