Ep.26 -仲直りすれば?-
「僕の…したい事…」
そう言って、翔君は考え込む。
「別に今すぐ見つける必要はないって。それに見つけられなくれも良いんだからさ。…というより、仲直りしたら?」
「…お父さんは、『あんな奴放っておけ』って…」
「…はぁ」
僕はため息を吐く。
親の言う事全部が正しいわけじゃないし、親がそう言うからって全部それに従ってたら、それはそれで心配になる。
「…まあ、仲直りしなくても後悔しないって言うなら、無理にとは言わないけど」
「…後、悔…」
「翔君にも時間はあるんだし、ゆっくり考えれば良いんじゃない?」
そう言って、部屋を出ようとする僕の手首を翔君が握る。
「待って…」
「…どうしたの?」
「…その…お姉ちゃんと、仲直り、したい。後悔したままじゃ、嫌だ…」
「…そう。分かった。じゃあリビングに戻ろっか」
「…うん」
翔君を引き連れてリビングに戻る。
まだ伶衣と佐藤さんは天笠先輩と話しているようで、階段からでも小さく話し声が聞こえる。
「…お、姉ちゃん」
『…翔…?』
翔君の声に天笠先輩は驚いた声を出す。
「…その、ご、ごめん。お姉ちゃんと、喧嘩して」
『…ううん。勝手に家を出た私も、悪いから』
…勝手に家を出たのに、あんなタワーマンションに住んでるって…天笠先輩の両親って結構天笠先輩の身を案じているのでは?
『それに、翔の言いたい事も、分かってたから。でも、両親に決められない人生を歩みたいなって思ったから』
「…そっか」
両親に決められた人生。それは多分、天笠先輩や翔君の身を案じているから、出来る限り安全な道を両親が天笠先輩や翔君の為に作っているんだろう。
でも、それだけじゃ何時まで経っても誰かに甘えてしまうだけだ。大人になれば、一歩社会に出れば、自己責任になるのだから。
「…僕も、そういう風に生きても、良い?」
『それはぁ…お父さんとお母さんに要相談かな?今までの翔の人生を決めてきたのは私と翔のお父さんとお母さんなんだからさ』
「分かった。…あ、そうだ。お姉ちゃん家行きたい」
『え?また唐突に…まあ良いけど。…迎えに行くからちょっと待ってて。そう言うわけだから、じゃね、彼方くん』
「はい、また」
そう言った後に通話が切れる。
なんだか、仲悪いと言っていた割には案外早く仲直りができていてちょっと吃驚した。
通話が切れてから十数分後くらいにインターホンが鳴って、天笠先輩が来た。
「お姉ちゃん。久しぶり」
「うん。久しぶり。大きくなったね」
「…えっと、ありがとう。彼方さん」
「ちょっとの間だけど面倒見てくれてありがとね。彼方くん」
「…あ、お礼は佐藤さんに言ってほしい」
僕がそう言うと、「え?なんで?」と小首を傾げて疑問を口にする。
「実はね~、駅の近くで迷ってた翔君を私が保護したんだ~。なーんかあまっちと顔似てるなぁって思って話しかけたらあまっちの弟だったんだもん、それはもうびっくり」
「そうなんだ。迷惑かけなかった?」
「ん?うん。礼儀正しかったよ」
…人違いだったらどうするつもりだったんだろ。
「まあ、とにかく仲直りできて良かったですね」
「うん。本当に。…それじゃ、行こっか」
「うん」
■
「…こんな深夜に何の用?母さん」
『いやぁ、特に何もないんだけど、ちょっと雑談したくて』
「じゃあ昼間に電話かければよかったじゃん」
『使用中で掛けられませんって言われたんだもの』
「…あぁ、そういえば」
天笠先輩と通話してたっけ。
『…まあ、それは置いておいて、伶衣ちゃんとは上手くやれてる?』
「まあ、そなりに。っていうか、電話かけるたびに何時も聞くよねその質問」
『心配なのよ。彼方の初めての恋人なんだから』
「そう。というか今どこにいるのさ」
『え?普通に職場だけど』
何時まで残業してるんだ。
別に母さんは仕事できない訳じゃないんだけどなあ…。
「そういえば、なんで家に滅多に帰ってこないのさ」
『忙しいから…って言ったところで、それは彼方が望む回答じゃないから正直に言うけど、家にあんまり居たくないのよ』
「なんで?」
『別に彼方が悪いわけではないのだけど、彼方とあの人がどうも重なっちゃうのよねえ~…』
僕って父さんと似てるんだ。いや、まず父さんを知らないから何とも言えないけど。
「それは顔が似てるから?」
『まあそれもそうなんだけど、ふとした時に見せる仕草だとか、あとは口調だとか、本当に、彼方はあの人の生き写しなんじゃないかって思うぐらいには似てるわ。あ、身長は違うけどね』
「…そんなに」
似てるんだ。僕と父さんって。
「って言うか、いい加減名前くらい教えてくれても良いんじゃないの?」
『彼方は父さんって言うだろうし、あの人っていば伝わるしいっかなって』
いや、良くないでしょ。
「まあ、戸籍謄本見たら分かるか」
『そ。まあ見つけられたらの話だけど』
「その口ぶりだと母さんが持ってるでしょ」
『大正解』
何と言うか、本当に父さんの情報が一つもない。母さんは結構ちゃんと情報の処理してるんだよなぁ…。
「っていうか、なんでそんなに頑なに父さんの情報を見せたくないわけ?」
『…トップシークレット。って言えば分かるかしら』
そう言う母さんの声は、いつもの様な軽い声ではなく、少し重い、真面目な声だった。
――――――――
作者's つぶやき:彼方くんの父親の情報はトップシークレットです。国家機密ではないですし、重要な情報でもないんですが。
少なくとも水香さんは情報を開示する気は無いので、彼方くんの彼方くんの父親が似ている。という情報以外は、この先恐らく開示されません。
――――――――
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