Ep.25 -天笠先輩って弟居たんだ-
『よっす~!瀬戸く~ん来たよ~!入れて~!』
「…また?」
最近の悩み事。
佐藤さんが家によく来る。というかほぼ毎日来る。いや、まあ良いんだけど。
「…いらっしゃい、佐藤さん。…え、その人誰?」
ドア玄関のドアを開けて、佐藤さんの姿を視認する。
そして、佐藤さんの後ろに隠れている僕よりも少し小さいくらいの男の子と目が合う。
「ん?あまっちの弟~」
「天笠先輩って、弟居たんだ…」
そう言いながら、もう一度その男の子と目を合わせる。すると、控えめながらもお辞儀をしてくれた。
天笠先輩の弟だからと言うべきか、礼儀正しい。
「そうそう。あまっちはそんな話一回もしてないでしょ?」
「そうだね。聞いたことない」
「ちょっとね、色々揉めた時に仲悪くなっちゃったんだって」
「そうなんだ」
天笠先輩、苦労してるんだろうな。
「…えっと、取り敢えず入って」
「うん。お邪魔しま~す」
そう言って、玄関で靴を脱いで足早にリビングへと向かう佐藤さんに小走りでついていく天笠先輩の弟。
「伶衣ちゃ~ん来たよ~」
「あ、いらっしゃい由希ちゃん。…と、その子は?」
「ん?ああえっとね―――」
「天笠先輩の弟。だよね?」
そう言いながらリビングに入り、確認を取るようにその子と目を合わせると、コクンと小さく頷いた。
「え!?あまっちって弟居たの!?」
「まあ、そうなるよね~」
そう言って、ソファに座り、なんで天笠先輩が弟居ることを言わなかったのかという事情を話し始める佐藤さん。
「―――って言うわけ」
「なるほど…」
「あ、そういえば自己紹介してなかったよね」
「…えっと、
「えっと、瀬戸伶衣だよ。それでこっちが瀬戸彼方。私の義理の弟なんだ」
伶衣がそう言うと、翔君はぽつりと、「…仲、いいんですね」と呟く。
「まあそれは、全部の兄弟姉妹が仲悪いってわけじゃないんだしさ」
「…そうですね」
そんな時、スマホから着信音と振動の音が鳴り響く。
スマホを充電スタンドから取り出して、『天笠先輩』と書かれた下側にある緑のボタンをタップし、通話を開く。
『もしもし、彼方くん』
「どうしました?天笠先輩」
『何でもないんだけど、ちょっと電話したくなっちゃって。スピーカーにできる?』
「あぁ、分かりました」
スマホを耳から離して、通話メニューを開き、スピーカーを選択する。
『もしも~し、聞こえる?』
「聞こえてるよ~あまっち~」
「うん、大丈夫だよあまっち」
そう2人が返答する中で、翔君はソファに置いてあるクッションを強く抱き締めて、少し不機嫌そうな顔をしていた。
翔君に近寄って、「…翔君、部屋で僕と話す?」と聞くと、小さく頷く。
伶衣と視線を合わせると、察したように頷いてダイニングテーブルに置いた僕のスマホの方を向く。
僕は翔君と一緒に僕の自室へと向かう。
■
「翔君、天笠先輩…お姉ちゃんのこと、嫌いなの?」
「…嫌い」
「なんで?」
「…お父さんや、お母さんに、僕とお姉ちゃんはああしろ、こうしろってずっと言われてきた」
「うん」
僕がそう相槌を打つと、また話し始める。
「僕は、それが正しいことだって、ずっと思ってた。お父さんや、お母さんの言うことに従っていれば、正しくて、いい大人になれるって思ってた」
「それで?」
「お姉ちゃんが、進路を決めるとき、初めて、お姉ちゃんと喧嘩した」
「なんで翔君と?」
こういう時って大体両親ととかじゃないの?
「お父さんやお母さんとも喧嘩して、僕はお父さん達の方がずっといい大人になるって思ってたから…」
そう言って、翔君は言い淀む。
「だから、喧嘩したの?」
そう聞くと、翔君は頷いて、頷いたまま俯いてしまう。
「…お姉ちゃんって、いい大人になれないよね?」
「いや、なれるよ」
僕がそう言い切ると、翔君は驚いた表情で僕を見る。
「なん、で?」
「別に、親の言う事だけが全てじゃない。親と揉める事は、悪い事なんかじゃない。進路を決めるのは本人であって、親じゃないんだよ。分かる、翔君?」
僕がそう言うと、翔君は「でも…」と言い淀む。
「あのね、人間って言うのは自分で考える頭があるんだ。自分が本気でしたいって思える夢があったりするんだ。だからこそ、親と揉めたり、喧嘩することもある。でもそれは、大人への第一歩でもあるんだよ」
「…じゃあ、僕は大人になれないの?」
翔君は、僕にそう疑問を投げかける。それは、天笠先輩が大人への第一歩を踏み出している事を認めたくないと、足掻く疑問のようにも感じられた。
「別に、親の言う事ばっかりを聞いていても大人にはなれるよ。人間は皆、何時か必ず大人になるんだから。でも、天笠先輩は自分が後悔しないような人生にしたいって思ったから、親と喧嘩したんじゃないかな」
「…後悔しない、人生…」
「親の言う事ばかりを聞いてさ、それで後悔しない人生になるって言うなら、それでも良いんじゃないかな。僕も、伶衣も、天笠先輩も、佐藤さんも、人の殆どは、『あの時こうしていれば』ってモヤモヤしたまま死にたくないんだよ。分かる?」
「………僕は…」
そう言って、考え込むように俯いて口を閉ざす翔君。
「何となく、こういうことがしたいな、って思ったら、あとはそれを少しずつ具体的にすればいい。夢を持っても、持たなくても、後悔のしない人生を送る方法は見つけられるだろうし」
――――――――
作者's つぶやき:なんか、弟君の登場が雑いですね。あまっちが弟くんについて触れなかったのは、正直仲が悪いから、としか言い様がありません。それくらい仲が悪いんですよね。
あと、今回もかなり私の考えが詰まっているんですが、いつもの様に他の方々の考えを否定する意図はございませんのであしからず。
――――――――
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