冬休み~最終話

Ep.23 -佐藤さん母と話し合う-

「あの、いつも由希がお世話になっています」

「いえ」

 深夜、佐藤さんの母親が家に来た。

「今日は連絡せずに家から出て行ったので…心配になって…。こんな夜遅くにすいません」

「いえ、気にしないでください」

「お茶、どうぞ。紅茶ですけど」

 そう言うと、伶衣はダイニングのテーブルに紅茶の入ったティーカップを置く。

「ありがとうございます」

「…えっと、少しお聞きしたい事があるんですけど、良いですか?」

「はい」

 回りくどく本題に誘導するのは僕には難しい。だから、さっさと本題を切り出す。

「佐藤さ…由希さんとは、時間を取れているんですか?」

「夫と共働きで夜遅くまで働いていて…あまり…」

「そうですか」

 家庭の方針に口を出すつもりは無いけど…。

「…私自身、由希とあまりコミュニケーションをとる機会が少なかったのは自覚しているんです」

 家族と仕事、どちらが大切か。

 家族が大切だから仕事しているんだろうけど、それで家族の時間を蔑ろにしては意味がない。

「だから、少しドライな対応をしてしまっているのも、自覚しています…。由希が小さい頃から、共働きだったので…」

「だから、由希さんってあんなにしっかりしているんですか?」

「恐らくは…」

 そう言う佐藤さんの母は、どこか悲しげな表情をしていた。

 実の娘に…とかは、親じゃないから分からない。

「…一度、由希さんと話す時間を取ってみたらどうですか?佐藤さんも、貴女も、もやが残るのは嫌でしょうし」

 他人ひとの家庭に口を出すのはあまりよろしくない。だから、一度話す時間をとってみたら?としか言えない。佐藤さんも、一度、両親とちゃんと話してみたいはずだ。

「由希さんが、貴女や、由希さんの父親からちゃんと愛情を注がれていると感じているかは、僕には何とも言えません。それは、家族でない僕にはわかりませんから。だからこそ、一度、家族で話し合ってみたらどうですか?これから、どうしていくべきなのか。友人でも、僕はあくまで他人ですので、家庭に口を出すつもりはありませんし、そんな義理も僕にはありません」

 でも、それでも。

「忙しいのも、それが家族のためであることも、由希さんは分かっています。でも、親からの愛情も、子供には…由希さんにも、大事なんです」

 お金があったって、何一つ不自由のない生活ができたとして、子供が親に求めるのは、愛情なんだ。

 …僕も、そうだと思うから。

「そう、ですね」

「休暇を取って、一度由希さんと話してみてください。由希さんには僕から伝えておきますから」

「ありがとう…ございます」



「佐藤さん、佐藤さんの両親が―――」

「うん。知ってる。ありがとうね、瀬戸くん」

「聞いてたの?」

「うん。愛情がどうたらこうたら…って言ってたところくらいから」

「そう」

「そ。…ありがとね。今日、話すみたいだからさ。じゃね、瀬戸くん」

 そう言いながら、手をひらひらと振って玄関の方へと消えていく佐藤さんに、リビングから手を振る。

「…良かったね、由希ちゃん」

「そうだね」

 …そのうち、僕が居なくても佐藤さんと佐藤さんの両親は話し合ってたんじゃないかな。

 それが早まっただけだと良いな。

 その日の夕方、佐藤さんから電話が掛かってきた。

『瀬戸くん、ありがとうね。お母さん達、もう少し私といる時間を増やしてくれるって』

「そう、良かったね」

『ほんっとに、ありがとうね瀬戸くん』

「僕は別に何も…」

 何もしていない。佐藤さん母の話を聞いて、一回娘と話し合う時間を取ってみればいいって言っただけ…。

「…してた、か」

『うん。それはもうバッチリと。…どう感謝したらいいんだろ』

「別にお礼はいいよ。好きでやったことなんだしさ」

『じゃあ、お礼しない』

「うん。それでいい」

『んじゃ、またちょっとしたら遊びに行くね~』

「はいはい、じゃ」

 そう言って、通話終了のボタンを押す。

「良かったね、由希ちゃん」

「そうだね」

「あ~あ、由希ちゃんにも彼方を狙われたらどうしよ…」

「ないって」

「…そう?」

 僕を後ろから抱き締めてそう言う伶衣。

「大丈夫だよ」

「ん…なら安心。でも、もっと魅力的にならなきゃ」

 …もう十分、魅力的だと思うけどなぁ…。

「…あ、そうだ」

「ん?どしたの彼方?」

「クリスマスプレゼント何が良い?」

 早い…かもしれないけど、今のうちに聞いておいたほうが良いと思うし、用意も早め早めに出来るから悪い事ではないと思う。

「ん~…彼方に1日中べったりくっつける券とか」

「いつもしてるじゃん」

「…そんなにすぐには思いつかないなぁ~…チョコ?」

「チョコで良いの?」

「うん」

 伶衣はそう返事をすると、僕をソファに押し倒す。

 悪戯な笑みを浮かべて、僕の頬を突き始める。

「…ぷにぷにしてるね」

「押し倒す必要あった?」

「こうしたかっただけ。嫌だった?」

「別に」

 そうして、暫く伶衣にされるがまま、頬を突かれたり、膝枕をされて頭を撫でられたりしていた。

「…伶衣」

「ん?どうしたの?彼方」

「…。大好き」

 自分ができる限りの笑顔を見せると、伶衣は頬を赤くした。

「彼方…その笑顔反則…。…めっ」

 なんか叱られた。


――――――――

作者's つぶやき:…イチャついてますね。はい。

佐藤さんの母親と話してる時、由希さん呼びになってたんですよね。混同すると思ったんでしょうか。

ちなみに、佐藤さんは彼方くんを好きになったりはしないです。

――――――――

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