Ep.17 -ぼやく佐藤さんs-

「…あ~彼氏ほしぃ~…」

 今朝、僕が教室の自分の席に座ると、後ろ席の佐藤さんがそう呟く。

「居ないの?好きな人とか」

「いなぁい…。だから恋したいよぉ~」

 そう言いながら、机に突っ伏したまま腕をバタバタさせる。

 ちなみに、佐藤さんはクラスで可愛さトップぐらいなので、この発言で男子生徒たちが『もしかしたら佐藤さんの彼氏になれるかも?』という考えに至っている。

「好きなタイプとかあるの?」

「ん~、そうだなぁ…。優しくて、家事全般できて~…それくらい?あ、あとチャラくない」

 この発言が佐藤さんの口から出た直後、クラスにいる大半の男子生徒が意気消沈していた。

「…あぁ、うん。僕じゃない…よ、ね?」

「そりゃもちろん。彼女持ちを取ろうなんて無理無理」

 ほっと胸を撫で下ろす。よかった。

「一回は食べてみたいんだよね~、彼氏が作ってくれたお弁当。いいなぁ、伶衣ちゃんは」

「…あはは…」

「愛妻弁当ってやつ?」

 いや、だから妻じゃないって。それに愛妻弁当ってなんか意味違う気がするんだけど。

「どっちかって言うと愛夫弁当?結婚してないけど」

「ほとんど同義じゃないの?ほら、事実婚っていうやつ?」

「他が認めても自が認めてないの」

 いや、まあ結婚はしたいけど。したいけど、今の僕は法律上無理なんだって。成人してないし。学生結婚は18からだって。

「…で、彼氏欲しいんでしょ?」

「そうそう。レンタル彼氏でもしよっかな~」

「お金でつながった関係に愛ってあるのかな…?」

「お、既婚者の言うことは違うね~」

「…だぁーかぁーらぁー…」

「分かってる分かってる。式にはちゃぁんと呼んでよ?」

 結婚する前提なのはまぁ、既婚者だの夫婦だの言われるよりは幾分かマシだ。

「あ、伶衣ちゃん」

「かな…あぁ、じゃなくて義弟おとうとくん。ちょっと」

 そう言って伶衣はひょいひょいと僕を手招きする。

「あ、はい」

 僕はそう返事をして教室を出て伶衣の元へと向かう。

「そろそろさ、学校でも彼方って呼びたいんだけど良いかな?」

「え?うん。確認する必要とかないけど…」

「一応、ね?」

「大丈夫だって」

「そう?義弟おとうとくん呼びって意識しないといけないから疲れちゃうんだよね」

「僕も敬語はちょっと疲れる」

「じゃあ、いつも通りに戻そうか」

「うん」

 その日の放課後、夕食を食べ終わって片付けを済まし、ソファに座っていた。

「ねえ彼方、明日私が弁当作りたい」

 伶衣がふとそんなことを言い出す。

「またずいぶんと唐突だね、どうしたの?」

「ん?なんでもなぁい。でも、作ってもらってばっかなのもなんかなぁって思っただけだよ」

 そう言いながら、ダイニングの椅子に座っていた伶衣はダイニングテーブルに頬杖をついて微笑む。

「…じゃあお願い」

 そう言った翌朝、伶衣が制服でエプロンを纏い、鼻歌を歌いながら弁当の食材を作っていた。

「~♪」

「それ、制服皺になったりしない?」

 新妻みたい。という考えを心にしまい込んで、伶衣にそう言う。

「ん?アイロンかければ大丈夫だって」

「そう、ならいいけど」

「…いま『新妻みたい』って思ったでしょ?」

「バレた?」

「うん。…まあ、嬉しいけどね」

 そう言いながら微笑む伶衣に熱くなる顔を逸らす。

「…よし、できた」



「お、今日は愛妻弁当だぁ」

「だからさぁ…」

 いつものように中庭で佐藤さんと雑談をしながら、伶衣の到着を待つ。

「ちょっと遅れちゃった?ごめんね~」

「ううん、全然」

「なんかデートの待ち合わせみたい」

 確かに。

「さてさて、愛妻弁当のお味は?」

 佐藤さんにそう言われて、出汁巻き卵を一口食べる。

「ん、美味しい」

「やった…!」

 そう言って伶衣が小さくガッツポーズをする。可愛い。

「じゃあもっと。はい、あ~ん」

「あ~ん」

「…どう?」

「…美味しいよ」

「良かった」

「「…ラブラブバカップルめ」」

 ニヤニヤしながら僕らを揶揄からかってくる佐藤さんと天笠先輩を横目に、弁当を食べ進める。

「でもこういうのを見てると彼氏欲しくなっちゃうんだよね~」

「分かる~」

「彼氏の作った弁当食べたいなぁ~」

 じゃあ作ったらいいじゃんって言ったら、『それができたらこんなこと言わない』って言われるんだろうなぁ。その通りすぎる。

「う~ん、でも好きな人かぁ…」

「焦がれるような恋…じゃなくても、普通に恋愛してみたいよねぇ~」

「学校で一番モテる人って誰?」

「…ん~…サッカー部とバスケ部の人たちは大体モテるかな、多分だけど」

 確かに、サッカー部とバスケ部そのあたりの男子はモテるとか何とか。

「そういえば、伶衣ってなんで僕に告白したの?」

「え?見た目も性格も好みだったから」

「単純明快な理由だね」

「それ以外になんかあるのかな?」

「…どうなんだろ」

 まあ確かに、それ以外に告白する理由はあんまり思いつかないかも。

「…明日も、作ろっかな」

「良いの?」

「うん」

「じゃあお願いできる?」

「もちろん♪」

「いや~、私たちはすっかり空気だね」

「まあ良いんじゃない?こぉんな近くでラブラブの夫婦を見れるんだから」

「「夫婦じゃない」」

 本当に。…なりたいけど、今はその時じゃない。

「でも、いずれかは、ね?」

「う、うん」

「お。プロポーズだ」

「学校に指輪持ってきちゃダメなんだぞ~?」

「だから、違うって」

「「分かってる~」」

 息ピッタリだなぁ、佐藤さんs。


――――――――

作者's つぶやき:バカップルですね。はい。

………あ、以上です。

――――――――

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