Ep.15 -文化祭、メイド喫茶で、ホールする-
10月下旬、外気が冷たくなってきて、長袖を着ている人を見かけることが多くなってくる時期。
そんな時期に、僕は女装させられていた。
「お~、可愛い」
「ちょっとボーイッシュなのも似合いそうだねぇ」
「無地のTシャツとデニムのパンツで…あとはポニーテールくらいかなぁ?」
放課後、伶衣、佐藤さん、天笠先輩に天笠先輩の家まで強制連行されて女装させられている。
ちなみに、天笠先輩の家は結構な豪邸だった。
「…でも、本当に素の彼方でもボーイッシュな女子って言ったら信じる人多そうだよね」
「ね」
鏡で自分の顔をまじまじと見たことは無いけど、そんなに女子と見間違えられる顔してたかな?
「…そういえばさ、なんで女装させられてるの僕?」
「いや、文化祭の出し物決まったじゃん?メイド喫茶で。瀬戸くんも女装してメイドしてほしいなぁって」
「僕っ娘なのも、刺さる人には刺さりそうだよね~」
「もうちょっとだけ声高くしたらいい感じかも。やってみて、彼方くん」
まあ、なんだかんだ3人共楽しそうだから良いか。
「…こう?」
「「「おぉ~」」」
「じゃあそれで、『おかえりなさいませご主人様』って言ってみて」
「…お、おかえり、なさいませ、ご主人様…」
…恥ずかしい。弟モードより恥ずかしい。
「可愛い~!」
「ついでにメイド服も着てみようよ」
「絶対に嫌だ」
「えぇ~?似合うと思うけどなぁ?」
似合う似合わないじゃなくて着たくないの。
「…っていうか、僕は裏方職の方が向いてるんだって」
「客引きしたらとんでもない人数が来そうだけどね」
「うへぇ、捌ききれるかなぁ」
「僕が女装する前提で話し進めるの止めない?」
僕がそう言うと、3人が一斉に『え?しないの?』と言いたげな視線を僕に向けてくる。
佐藤さんと天笠先輩はともかく伶衣までその視線を向けるのはやめて、断れない。
「………はぁ、分かったよ。やればいいんでしょ?」
「お、物分かりが良いねぇ。さっすがメイド」
「…お褒めにあずかり光栄です、ご主人様」
慣らしとかないと色々やばそう。
「あ~、でもそっか。彼方がホールしたら彼方の料理とかが食べられなくなるのか…」
「…わ~…」
「どうしよ…」
「…もういいよ、好きにしなって」
「あ、拗ねた?」
「そう言うんじゃないけど」
僕が何言っても多分聞き入れてもらえないだろうし。
「じゃあホールしながらキッチンは?」
「…いや、まぁ、できないことは無いと思うけどやりたくない」
「そっか~」
文化祭まであと3日。
それまでに結論出せるのかなぁ、この3人。
「じゃあ、私と彼方がじゃんけんして、彼方が勝ったらホール、私が勝ったらキッチン、でどう?」
「もうそれでいいんじゃない?」
「…じゃあ、行くよ」
「「最初はグー、じゃんけん―――」」
■
「…結局こうなる」
猫撫で声を出すのって結構疲れるんだよなぁって。
「あ、あれ瀬戸ちゃんじゃない?お~い」
「…げっ…」
というかちゃん付けはやめて。
「…あれ?無視?シカト?聞こえてないの?お~い、伶衣ちゃんの
「…なんですか?」
「うわっ声可愛い」
「…ってあれ、天笠先輩は?」
「今は演劇の準備中だから来れないってさ」
「そう、なんですね」
「っていうか、本当に男子勢からの視線がすごいね」
気付いていたが触れていなかった事実に佐藤さんが触れる。
なんか視線がすごいし、「あの子超可愛くね?」とかそんな感じのひそひそ声も聞こえる。
…僕男なんだけどなぁ、なんで気付かないんだろう。4組に瀬戸っていう名字の女子はいないって。
「『萌え萌えキュン♡』とかしないの?」
「しない」
それしたら首吊りしそう。
「え~、彼方がそれ言ってるの見たいがために女装させたのに~」
「…そういう理由だったんだ。それは言わないけど写真撮るくらいなら問題ないよ」
「じゃあ連れ出すのは?」
「…特に問題は無いけど」
連れ出ていいとは言っても、許可は取らないとだめだけど。
「って言っても、連れ出すようなところが無いからなぁ」
そんなことを話していると、男子生徒の一人から紙切れを渡される。
紙を開くと『屋上に来てください』とだけ走り書きされていた。
「ほら、やっぱり女装した彼方はモテてる」
「可愛いもんねぇ、分かる分かる」
「…外出許可取ってきます」
「「いってらっしゃ~い」」
実行委員に外出…というか屋上に行く許可をもらって、屋上へと向かう。
…2回目なんだよなぁ。
屋上に着くと、男子生徒がこちらに気付いて近づいてくる。
「俺、貴女に一目ぼれしました。付き合ってください!」
そう言って、手を差し出してくる。
「…申し訳ないんですけど、僕は同性愛者じゃないんですよ」
「は?え?同性…?」
「…あぁ、これ女装です」
「……………」
ぽかん、と口を開けたままの男子生徒に「すみません」とだけ謝ってから教室…もといメイド喫茶に戻る。
「告白された?」
「うん」
「…断ったよね…?」
「僕は同性愛者じゃないからね。それに伶衣がいるし」
そう言うと、ほっと胸を撫で下ろした伶衣が僕の手を握る。
「…よかったぁ」
「っ………伶衣、その笑顔反則…」
「ほらほら、バカップルしてないで早く仕事に戻りなよ~」
――――――――
作者's つぶやき:サブタイトルが5・7・5になっちゃいましたね。川柳サブタイトル、面白いですね。今後登場する機会はほとんどないと思いますが。
女装して告白されたのは、女装が高度だったのか、単純に彼方くんが可愛い女性にしか見えなかったのかどっちなんでしょうかね。多分おそらく後者ですけど。
それはそうと、彼方くんの告白の断り方が若干酷いと感じるのは私だけなんでしょうか。
――――――――
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