Ep.14 -カップルは酒の肴じゃない-

 その日のお昼。まだそんなに時間は経っていないけれど、僕と伶衣の距離感は着実に縮まってきている。

 精神的にも、物理的にも。

 物理的、というのはどういうことかと言うと。

「…伶衣」

「ん?何?彼方?」

「色々当たってるよ?あえて何がとは言わないでおくけどさ」

 そう、色々当たってる。僕の腕やら体に抱き着いてきては、僕に自分の体を押し当ててくる。

「なんか、変わったね、伶衣」

「そうかな?」

「うん」

 前までこんなに積極的に抱き着いてきたりしなかったし。嬉しいけど。

「…朝に、その…ほら。ね」

「…あ~、うん」

「それで、もっと、彼方に触れたいなって、思って」

「なるほど」

「………やっぱり、私の勘ってよく当たるのね」

 コンビニから帰ってきた母さんが開口一番にそう言う。

 ちなみに、お酒と適当なおつまみを買ってきたらしい。

『帰国しても数日は家を空ける』とはなんだったのか。

「だから言ったじゃん。『母さんの勘はほぼ予言だ』って」

「まぁ、彼方も伶衣ちゃんも恋人同士なら、いつか通る道だろうし、今のうちに経験してても悪いことは無いわよ?変な人に狙われること…は、あるかもしれないけど」

「大丈夫。その時は僕が守るから」

 守れるか、じゃなくって、守る。僕の大事な恋人だから。

「…それにしても、くっつき過ぎじゃないかしら?」

「…まぁ、いいんじゃない?」

「…♡」

 頬を僕の胸に擦り付けてくる伶衣の頭を優しく撫でる。

「酒の肴はこれで十分かもね」

「いちゃついてるカップルを肴にしてお酒を飲まないで」

 カップルは酒の肴じゃない

「おつまみが無駄になっちゃったのよね。食べる?」

 食べたら食べたでその様子を肴にして飲みそう。

「いや、いい」

「そう。………あ、そういえば」

「ん?」

「はい、ちょっと遅れちゃったけど」

 そう言って母さんが渡してきたのは紅茶のティーバッグが何個も入った箱。

「あぁ、イギリスのお土産。ありがと母さん」

「…朝からお酒を飲んでることに関してはもう何も言わないのね」

「まあ、うん。いつものことだし」

「そう。それよりいちゃつくなら部屋でしたら?」

「じゃあそうする」

 階段を上って、伶衣と一緒に部屋に戻ると、伶衣に押し倒される。

「どうしたの伶衣?」

「んーん、なんでもない」

「そう」

「…彼方は、スキンシップはどこまで許せる?」

「…キスまでくら――――んっ」

 伶衣にキスをされる。触れるだけじゃない、舌を絡めるキス。

 頭がぼーっとする。理性が摩耗するのではなく、剥離していく感覚。

「…ぷはっ、はぁ、はぁっ…」

「はぁ、はぁっ、はぁっ…」

 唇を離して、息を整える。

 そして、もう一度舌を絡める。

「んっ…っ…ぷはっ…」

 そうして、また唇を離す。

 それ以降はキスをすることはなく、伶衣がいつもよりも強く抱き着いて体を僕に押し付けてきたくらい。

 いや、それだけでも結構理性が消し飛びそうなんだけど。

「彼方、だぁいすき」

「僕もだよ、伶衣」

 そんな時、インターホンが来客を知らせる。

 1階に降りて玄関の扉を開けると、天笠先輩が立っていた。

「あ、天笠先輩」

「こんにちは。急に来ちゃってごめんね。由希ちゃんはも少ししたら来ると思う」

「分かりました。取り敢えず上がってください」 

 そう言って、天笠先輩をリビングへと案内する。

「…あー、紅茶で大丈夫ですか?」

「うん。おいしいよね、紅茶」

「私も手伝うよ、彼方」

「あ、ありがと。伶衣」

 伶衣と一緒にキッチンに立って紅茶を淹れる。そして、できた紅茶を天笠先輩テーブルの上に置く。

「そういえば、2人ってなんか前にも増して距離感が縮まったね」

「まあそうですね」

「なんかあったの?」

「…まぁ…その…」

「ちょっと…」

 あんまり嬉々として人に言えることではないと思う。うん。

「…あ~、なるほどなるほど。…気持ちかった?」

「天笠先輩?」

「冗談だって、私も何回か…」

 うん。やめようかこの話。

「天笠先輩、それ以上はやめてください」

「え?そう?」

「少なくともここではやめてほしいです」

「仕方ないなぁ」

 その時、インターホンがまた来客を知らせる。

「ちょっと遅れたけど来たよ~!」

「いらっしゃい、佐藤さん」

「そういえば、2人ってなんでここに来たの?」

「瀬戸くんと伶衣ちゃんがどこまで行ったかな~って気になったから」

「由希ちゃん、ちょっと」

 天笠先輩が佐藤さんを手招きして、小声で話し始める。

 話し終わった後の佐藤さんの表情はニヤついていた。

「なるほどなるほど~。何がとは言わないけどおめでとうね~」

「あぁ、うん…どうも」



「それじゃ、私たち帰るね~」

「急に来てごめんね。次からはちゃんと連絡するから」

「大丈夫ですよ、気をつけて帰ってくださいね」

「またね、2人とも」

 …そういえば、母さんと刀祢さんどこ行ったんだろ。

 まあ1ヶ月くらいしたらひょっこり帰ってくるだろ。多分だけど。

「ねえ、彼方」

「ん?」

「今日、一緒に寝ようね」

「うん。もちろん」


――――――――

作者's つぶやき:距離感ってこんなに早く縮まるんですかね。ほとんど頭が回って無いまま執筆したのでクオリティはお察しだと思いますが。

それはそうと、水香さんが居ないことが平常運転な瀬戸家ってどうなんでしょうか。母親不在でワンマンで家事してる彼方くんって結構凄いなと、今更ながら感じましたね。

――――――――

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