Ep.12 -帰国-

 空港の自動ドアの前、軒下で母さんたちを待つ。

 空港の奥の方から、母さん達がやってきて、そのまま自動ドアを通り過ぎ僕に抱き着く。

「彼方~!会いたかった~!」

「…お義母さん、そこは私のポジションですよ。離れてください」

 そう言いながら、僕に抱き着く母さんを引きはがそうとする伶衣。

「や~ん、彼方助けて~。娘に乱暴されてる~」

「こら、伶衣。水香さんが困ってるだろ?」

 そう刀祢さんが伶衣に言う。

「お父さんはお義母さんに甘すぎ」

「…はぁ、伶衣、放してあげて」

「やった~」

「でも母さんは離れて」

「…仕方ないわねえ…」

 そう返事をして、渋々という感じで僕から離れる母さん。

「というか、スキンシップなら刀祢さんとしなよ」

「もうすでにしてるわよ?…それとちょーっとアレなコトもね」

「…それは最早答えを言ってるようなものじゃないの?」

「まあ、捉え方は自由よ。…そろそろ彼方たちも経験するんじゃないかしらね?勘だけど」

「それを母さんが言うと洒落にならないから止めて。母さんの勘はもう殆ど予言なんだって」

「…私とするのは…嫌、なの?」

「…ノーコメント」

 どう答えてもダメじゃん、これ。

「まあまあ、良いんじゃない?大人の階段ってことで」

「…さっきから話をソッチ系に流すの止めて欲しいんだけど」

「彼方が振った話題でしょ?」

「違うから。僕はスキンシップの話をしただけ」

「…まあ、それはそれとして。彼方の作ったシチューが久しぶりに食べたいわ」

「…ってことらしいけど、それで良い?伶衣」

「うん」

「じゃあ、タクシーでスーパーまで行こうか」

 タクシー乗り場から、タクシーに乗って近場のスーパーへと向かう。

 到着したスーパーで買い物を済ませて、家に帰る。

「いや~、久しぶりの我が家は落ち着くわね」

「そう、それなら良かった」

「…そういえば、自己紹介をしてなかったかな、彼方くん。刀祢だ。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

「…水香さんから聞いていたが、本当にしっかりしてるな、君」

 刀祢さんはそう言って僕の頭を撫でる。

「…というか、母さんはどこで刀祢さんと出会ったのさ」

「え?マッチングアプリだけど」

「…あぁそう」

「運命的な出会いを期待してた?」

「いや。母さんの運命的な出会いはあの人僕の実父が最初で最後でしょ」

 それに、もし本当に運命的な出会いをしたならいつも惚気話してるはずだ。

 小学生の6年間ずっと顔も名前も知らない実父の惚気話を聞かされてたんだから。

「まあ、刀祢さんは良い人だけどね」

「あんまり本人の前で言わないほうが良いんじゃない?」

「いや、良いさ。水香さんからその辺は聞いてるしな」

「…じゃあ、シチュー作るから待ってて」

「は~い」

「手伝わなくても大丈夫か?16年近く伶衣を男手一つで育ててきたから料理はそれなりにできるぞ」

「お父さん、ごめんだけど彼方の料理の方が美味しい」

「…そうか…」

 明らかにしゅんとしている刀祢さんを横目に、僕はシチューを作り始めた。



 食卓の上にシチューが入ったスープ皿が4つ。母子家庭の僕の家では今回が初めての光景。2つでも珍しかったのに。

「何気に初めてかもね、彼方のシチューがタッパー以外に入ってるの見たのって」

「…お義母さん、そんなに帰ってなかったんですか…」

「そうなのよねぇ、仕事が忙しくって」

「…もしかして夜のお仕事とか…」

「「それだけは絶対にない」」

 そんな会話もほどほどに、「いただきます」という声が4人分、ダイニングから響く。

「うん。それなりに上手くできたかな」

「…確かに…俺よりも料理が美味い…」

「でしょ?父さんのも美味しいけど、彼方の方が美味しいし」

「温かい分美味しいわね」

「レンチンで温めれるでしょ」

「出来立ての温かさには程遠いのよ?多分」

 そう言うものなのかなぁ。

 会話をしつつ、食べる手は止まることを知らず。気が付けばシチューは無くなっていた。

 そして、その日の夜。

「…あ、日付変わった」

「変わったわね」

「…次、帰ってこれるのはいつ?」

「…まだ分からないわ」

「そう」

 静まり切ったリビングに母さんと二人。テレビを点けたりはせずに、ソファに座っていた。

「…彼方、お酒持ってきてくれる?」

「…はいはい、仰せのままに」

 ソファから立ち上がり、冷蔵庫からお酒の缶を取り出して母さんに渡す。

「あ、おつまみいる?作るけど」

「じゃあお願い」

 キッチンに戻って、冷蔵庫の余り物を確認する。

「あ、前作った出汁巻き卵」

 もうこれで良いかと、冷蔵庫から取り出して電子レンジで温める。

 温め終わった出汁巻きを母さんのところに持っていく。

「はい、前作った出汁巻き」

「弁当の余り物?」

「そう」

「ふ~ん。ん、おいしい」

 そう言いながら、母さんは出汁巻きを一口、また一口と食べていく。

「そりゃどうも」

「…というより、寝なくていいの?」

「…あー、まぁ、良いんじゃないかな。どうせ、明日も休みだし」

「そう。なら良いけど。あ、彼方も飲む?」

「…だぁーかぁーらぁー…」

「分かってるわよ。冗談冗談」

 冗談でも言わないでほしい。お酒とたばこは二十歳からだって。

「…二十歳になってもお酒は飲む気ないけど」

「結構美味しいわよ?」

「…そう、良かったね」

「まぁ、それはそれとして、いつ寝るの、彼方?」

「取り敢えず母さんが寝るまでは起きてる」

「そう」


――――――――

作者's つぶやき:瀬戸夫妻が帰国してまいりました。心なしか彼方くんもちょっと嬉しそうだなぁと書きながら感じましたね。

学生なのでお酒の味は知らないですけど、親曰く美味しいとか何とか。彼方くんは正直下戸っぽく感じますけどね。

あと彼方くんの「だぁーかぁーらぁー」が結構好きですね。面白いです。

実の父親の名前を息子に教えない母親ってどうなんでしょうかね。まあ水香さんらしいとは思いますが。

――――――――

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