お泊り会

Ep.6 -お泊り会 その壱-

「ただいま」

 家に誰もいないから返事は無いけど、ただいまって言えば防犯になるとかならないとか。

 僕はそれ以前に習慣化されてるから言ってるんだけど。

「お邪魔しまーす」

 今日は佐藤さんが家に泊まりに来る。というか進行形で来てる。

「あれ、親は?」

「新婚旅行中でいない」

「…ってことは、ハーレム?」

「そうだとしても僕にそんな趣味は無いから」

「えぇ~?男子ってハーレム好きなんじゃないの?」

「偏見すぎるでしょ。皆が皆そういうわけじゃないって」

「まあそれもそっか~。女子だって、男の子に恋する人も女の子に恋する人も2次元にしか興味ない人もいるし」

「…まぁ、多分そういう事だと思う。伶衣と一緒にいる方が楽しいし、好きかな」

「~~~~~~~~!?」

「あ、クリティカルヒットしてる」

 赤くなった顔を手で必死に覆い隠そうとする伶衣を見て、佐藤さんはまたそんなことを言いながらクスクスと笑っている。

「もうっ…!もうっ…!」

 頬と耳を真っ赤に染めた伶衣が僕の肩をポンポンと叩く。

 十数回叩かれたのちに、脱力した伶衣が僕に寄り掛かる。

「…伶衣?」

「………」

「あ~、ショートしてるね、これ」

「……はっ」

「あ、おかえり」

「彼氏Loveなのが良く分かったよ」

「…もうっ…」

「二人の反応が面白いから弄り甲斐があるんだよね~」

 …まあ、こうやって弄られるのも悪くはないかな?

 伶衣のこういう反応が見られるのは意外と楽しいかも。

「…あ、そうだ。由希ちゃん夕飯何が良い?」

「私は何でも…。あ、じゃあオムライス」

「あぁ、うん。気を遣ってくれてありがとう」

「じゃあ食材とか買ってこないとね」

「お、買い物デート?いいねいいね~」

「…まあいいや。伶衣、行こっか」

「あ、うん」

「てら~」

 佐藤さんのそんな声を背に、僕と伶衣は家を出て近くのスーパーへと向かう。

「…これも、デート…」

「まあ、二人できりでどこかに行くならデートになるんじゃないかな」

「…なんか、変に緊張してきた」

「…ね」

 デートと言われると、やっぱり少し緊張してしまう。ただ買い物に行くだけなのに。

はたから見たら義理の姉弟が買い物に行ってるだけなんだろうなぁ」

「…それはそれでなんか嫌だ」

「なんでさ」

「なんか…恋人じゃないみたいに言われてるみたいで」

「…確かに」

 恋人と言われたら恥ずかしくて、仲の良い義理の姉弟だと言われると何か嫌で…。

「難しいね」

「そうだね」

「まあ、楽しいし幸せだからいっか」

「そうだね」

 今更別れたところで気まずくなるだけ。そう言い訳をしておこう。

 そんな会話をしながら、街灯が照らすアスファルトを歩き、スーパーへと入る。

 日はまだ出ているけれど、外は少し暗く、店内は爛々と輝くLEDに照らされていて、少し目が眩む。

「カートは…無くてもいいか。そんなに買うわけでもないし」

「そうだね」



 スーパーでの買い物を終えて、元来た道を戻る。

「あれ、佐藤さん?」

「あ、瀬戸くんに伶衣ちゃん」

「どうしたんですか?」

「迷っちゃった!てへっ!」

『てへっ』で済ましていい事態じゃないでしょ、それ。

「…というか、鍵は…?」

「………あ」

 ………。

「ちょっと急ごうか、伶衣」

「うん」

「あ、ちょ…待ってよ2人とも~!」

 早歩きで家に帰る。流石に鍵をかけてない無人の家はまずい。

 少し急げば家まではすぐで、玄関の扉の持ち手を引っ張る。

 何一つ止まらずに、スムーズにドアが開く。

「………佐藤さん」

「はい」

「僕は謝罪を要求します」

「はい。すみませんでした」

 まあ、鍵を置いていかなかった僕も悪いか。

「…はぁ。次からは机に鍵置いておきますから」

「ありがと。ほんと、ごめんね?」

「…まあ、もういいですよ」

「そういえば、ちゃっかり荷物持ってるんだね、瀬戸くん」

「弟みたいでしょ?」

 まあ、荷物持ちは姉か弟だったら弟がしてるイメージはある。偏見かもしれないけど

「う~ん、私としては彼女の荷物を持つ彼氏にしか見えないけど」

「当たり」

「やった~」

 そんなことを話しながら、玄関先で靴を脱いでリビングへと向かう。

「ただいま」

「「ただいま~」」

 伶衣と佐藤さんが息ピッタリのタイミングで『ただいま』と言って、お互いを見合う。

「ハモっちゃった」

「ハモっちゃったね」

「仲良いなぁ。それじゃ、伶衣と夕飯作るから適当にリビングで寛いでおいて」

「瀬戸くんの部屋じゃダメ?」

「行ってもいいけど何もないよ?」

「見られたらマズイものとか?」

「ないから」

「本当に?」

「そんなに気になるなら見に行ったら?」

 訝しんでいるような視線を僕に向ける佐藤さんにそう言う。

 ベッドと勉強机と備え付けのクローゼットだけ。

「そこまで言うなら」

 そうしてリビングに入ってすぐに階段を上って行った佐藤さんだが、オムライスを作り始めて数分後には「本当に何もないんだね」と言いながらリビングに降りてきた。

「まぁ、趣味と言える趣味がないし」

「まあ、受験勉強頑張ったんだなぁとは思ったけど」

「…クローゼットも漁ったんだ」

「うん。定番っていうか、良く隠してるような場所じゃん?」

「そうなの?」

「そうなの。あとはベッドの下とか」

「へぇ。あ、あとちょっとでできるから待っておいて」

「は~い」


――――――――

作者's つぶやき:二人が佐藤さんに良い感じに振り回されてるきがします。この調子で頑張って頂きたいところです。

そういえば彼方くんがいつの間にか佐藤さんに対して敬語じゃなくなってるんですよね。気付きました?

――――――――

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