Ep.5 -やっぱり質問攻めに遭うよね-

 夏休みが終わり、始業式の翌日。僕と伶衣が二人そろって学校へ登校していた。

「じゃあ、またね」

「うん。また」

 正門付近で伶衣と分かれ、それぞれの教室へと向かう。

 胸騒ぎは杞憂であって欲し――――かった。

 ガラッと、教室の後ろ側のドアを開け、教室に入ると、我先にとクラスメートが僕の方へとやってくる。

「ね!ね!2年の篝音先輩の苗字が変わったって知ってた?」

「え…まあ…うん」

「それでね!その名字が『瀬戸』なの!」

「…はあ」

「篝音先輩と結婚したの?」

 …結婚できるのは18歳からだし、そもそもなぜ両親の再婚という可能性を考えないんだ。

「…両親がね」

「とか言いつつ本当は?」

「無いから」

 僕はクラスメートたちの間をすり抜けて、自分の席に着く。

 が、クラスの女子からの質問攻めは続く。

「でも同棲ってことでしょ?」「欲情したりしないの?」「どこまでしたの?」「揉んだ?」「感触は?」

 …揃いも揃って朝から何を聞いてるんだこの野次馬たちは。

「…朝から元気ですね。僕は疲れてるので質問には答えられないです」

「…つまり…そういうこと!?」

「昨晩はお楽しみでしたね…ってことだよね!?」

 …今この人らに何を言っても無駄な気がする。

 あることないことを勝手に妄想されては噂が独りでに歩き出す様を体験することになるとは思わなかった。

「お前ら~、席つけよ~。ホームルーム始めるぞ~」

 先生からそんなことを言われて、渋々席に戻るクラスメート達を見て、ほっと胸を撫で下ろす。

 ナイスタイミング先生。

 …伶衣、大変だろうなぁ…。

「…朝から疲れた」

 そして、そのままだらだらと授業を受けて、昼休み。質問攻めに遭う事が目に見えたので普段滅多に行かない中庭に来ていた。

「…はあ」

 中庭に伶衣の姿は無くて、僕一人。

 いつもなら暇潰しなんて本を読むだけで十分だったけど、どこか寂しかった。

「ねぇねぇ」

「…あっ、はい?」

 ぼーっとしていた頭を再起動し、声のした方へ視線を向ける。

 僕の視線の先には、女子生徒が一人立っていた。

「隣、良いかな」

「え、あ、はい」

 …何故隣に…?

「瀬戸、だよね。2年の篝音先輩の親が再婚した後の苗字」

「…はい」

「そんな警戒しないでって。私、佐藤由希。よろしくね」

「…あ、瀬戸彼方です」

「敬語はいいって。同い年だし」

「…はぁ…」

「もしかして、瀬戸くんって人と話すの苦手?」

「…距離の詰め方が異常な人の接し方が分からないだけです」

 …なんだろう、出会った瞬間に距離を詰められると接し方が分からない。伶衣に告白されたときは何となく身構えられてたけど。

「…あっ、彼方、居た!」

「伶衣」

「っと、その人は?」

「佐藤って言いま~す。瀬戸くんとついさっき友達になりました~。あ、大丈夫、瀬戸くんは盗らないから」

「いや…そこの心配はしてないんだけど…」

「お~、信頼されてるねぇ」

「そりゃまあ家族なので…」

「家族というよりも恋人が近いと思うけどなぁ?」

「…っ」

「あはは、もしかして図星?」

「「………うん」」

「…は、え?まじ?」

「うん」

「そうだね」

「…えぇ…義理でも姉弟で恋愛ってどうなのさ」

 それはそう。でも僕らは姉弟から恋人じゃなくて恋人から姉弟だから問題ない…はず。

「多分、佐藤さんの想像してのとはちょっと違うかな」

「どういうこと?」

「義理の姉弟になってから恋人になったんじゃなくて、恋人になってから義理の姉弟になったってこと」

「あぁ…そういう…」



「瀬戸く~ん!一緒に帰ろ~!伶衣ちゃんも連れてきたよ~!」

 放課後、人が少なくなった教室に元気な声が響き渡る。

「…佐藤さん、分かったけどもうちょっと声量抑えて、うるさい」

「え~?これでも大分抑えてるんだけどなぁ」

「…なんか、ごめん彼方」

「いや、別に良いんだけど…」

「あ、そだ。今日泊ってって良い?」

「…えぇ…」

「まぁ良いんじゃない?部屋は空いてるし」

「…分かったよ」

「やった~!」

 …元気だなぁ。

「じゃあ取り敢えず家に帰って着替えとか取ってくるから、先に私の家の前まで帰ろ!」

「…分かった。じゃあ行こっか」

 伶衣の隣に立って、佐藤さんに続いて校門を出る。

「そういえばさ、伶衣ちゃんは瀬戸くんのどこが好きなの?」

「そ…れは…。………全部。…好き」

「ずいぶんゾッコンだねぇ」

 そう言ってクスクスと笑っている佐藤さん。

 …なんというか僕まで流れ弾を食らった気がするんだけど。

「ありゃ、瀬戸くんにもクリティカル入ってる?」

「まあ…。好きな人に言われると…」

「こっちもゾッコンだぁ~」

 と、佐藤さんにからかわれていると、佐藤さんが一軒家の前で足を止める。

「じゃ、着替え取ってくるからちょっと待っててね」

 そう言って、学生鞄から銀色の鍵を取り出し、キーリングに指を通してクルクルと鍵を回しながら家の敷地へと入っていく。

 家の中から「今日友達の家泊るから~!」と、佐藤さんの声が聞こえる。

 しばらくして、「いってきま~す」という声と一緒に、学生用の鞄と別にリュックを背負った佐藤さんが出てくる。

「お待たせ~」

「じゃあ、行こっか」

「うん」

「れっつごー!」


――――――――

作者's つぶやき:今回から最後に書かせていただきます。

佐藤さん登場の裏話でもしますね。彼方と伶衣さんだとできることに限界を感じたので、さとーさんに強引にでも引っ張ってもらおうって算段です。砂糖さ―――ではなく佐藤さんには是非是非頑張っていただきたいところです。

――――――――

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