Ep.2 -義姉(恋人)が一緒に寝ようと誘ってきた-

「…よし、こんな感じかな」

「手伝ってくれてありがとね、彼方」

「いいよ全然。1人よりも2人でやったほうが効率いいし、何より同じ家で───」

「ん?どうしたの彼方?」

「いや…この状況って良く考えたら同棲だなぁって…」

 今更ながら気付いた。この状況って同棲だと。

 …義理の姉弟、一つ屋根の下で暮らす家庭が多い事だろう。…ただ、僕達は。恋人同士なら、同じ家に住む事イコール同棲だろう。そう感じる人達が多い…はずだ。僕はそう感じた。

「確かに…ね」

 伶衣が小さく頷く。

「「………」」

 僕と伶衣の間に気まずい空気が流れる。…どうやって話題を切り出そうか。

「…伶衣、お昼ご飯食べる?」

「…あ、うん。食べる。蕎麦が良いな。引っ越してきたし」

「分かった。じゃあ作ってくるよ」

「あ、私も手伝うよ」

「いいの?」

「うん」

 僕は先に伶衣の部屋を出てキッチンへと向かい、鍋に水を入れて火にかける。そのタイミングで、伶衣がリビングを通ってキッチンに到着した。

「えーっと…蕎麦は…あった。あ、伶衣、蕎麦湯いる?」

「ん~ん、いらない」

「おっけー。…あ、油揚げ切ってくれる?冷蔵庫に入ってると思うから」

「は~い。…なんか、お父さんのお手伝いしてるみたいな感じだね」

「…ああ、まあ確かに。僕の場合は母さんだけど、伶衣の場合はお父さんになるのか」

「そういえばさ、彼方のお父さんってどんな人だったの?」

「…物心ついたときに父さんが居なかったから分かんない。母さんは、真面目で優しい性格だったって言ってたけど」

「やっぱりそうなんだ」

「やっぱり?」

「うん。彼方の優しいところは彼方のお父さん譲りなのかなって。なんか、彼方のお母さんの優しさとはちょっと違うかなって」

「…う~ん…どうなんだろ」

 二人でそんな会話をしながらも、料理する手は止まらない。

「というか、彼方って料理すごく上手だよね」

「まあ、母さんに色々教えてもらったし。あ、次ネギよろしくね」

「は~い」

「…うん、出汁はこの位で良いかな。蕎麦もできたし」

「こっちも切り終わったよ~」

「じゃあ、盛り付けて食べよっか」

 どんぶりに出汁を注いで、蕎麦を浸し、油揚げを乗せてねぎをトッピングして、ダイニングテーブルへと運ぶ。母さん以外の人と食卓を囲むのは初めてだ。

「いただきます」

「いただきます」

 蕎麦をすする音がダイニングテーブルから鳴り始める。

「…ちょっと出汁が薄かったかな」

「そうかな?」

 頭の中で反省点を考えつつ、蕎麦を啜る。反省点はあるけど、美味しかったのであっという間に食べ終えた。

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」



「お風呂あがったよ」

 伶衣が浴室からリビングに戻ってきて、そんなことを言う。伶衣に目をやると、火照っているのか、 頬が薄紅色に染まっているし、肌がしっとりしているからか、ナイトウェアが肌に張り付いていて、伶衣の体のラインが良く分かるようになっていた。

「………あ、うん」

「ん?どうかした?」

「…いや、お風呂上がりの伶衣、可愛いなぁって」

「…あ、あり、がと…」

 照れているのか、薄紅色の伶衣の頬が段々と真っ赤になっていく。

「…あのさ」

「ん?どうしたの伶衣?」

「…今日…一緒に寝よ…?」

 伶衣から唐突にそんな提案をされる。

「え?」

「…その…だめ、かな…?」

 …ダメかダメじゃないかで言うとダメじゃないんだろうけど…問題があるとすればベッドのサイズだ。

「良いけど…シングルに2人はちょっと狭くない?」

「彼方は小柄だし大丈夫でしょ?」

「…まあ…そうなのかなぁ…」

 僕はソファの背もたれにもたれて、壁掛け時計で時間を確認する。

「…22時かぁ。もう寝る?」

「うん。じゃあそうする」

 伶衣の返答を聞いて、僕はソファから立ち上がり、伶衣と一緒に階段を上って僕の部屋へと向かう。

 それほど熱中できる趣味もないし、これと言って好きな本とかがあるわけでもなく、ベッドと勉強机、家具といえる家具はそれくらいだ。僕の部屋につくと、伶衣は真っ直ぐに僕のベッドに向かい寝転がる。

「…うん。やっぱり彼方の匂いがする」

 …スンスンと僕のベッドで匂いを嗅ぐ義姉恋人を僕はどんな目で見たらいいんだろうか。

「はい、彼方もおいで」

「ああ、うん」

 僕はベッドの空いているスペースに寝転ぶ。…少し無理やり感が否めないけど…。

 まあ、身長が低くて助かった。

「…狭いね」

『入れた』とて『狭くはない』とは限らない。

 伶衣の体の感触や体温が背中から伝わる。ボディソープの残り香か、少し甘い匂いもする。

 伶衣が背中から腕を回してきて、僕を締め付ける抱きしめる。伶衣の体が僕の体により密着していき、伶衣の体温や感触がより感じられる。

 顔が熱い、これから寝るというのに、鼓動騒音が鳴り止まない。

「…寝れるかな…この状況」

「…ね」

 時刻は22時半。眠気は全くなく、常夜灯が部屋を薄いオレンジ色に照らす中、冴えた目から伝わる視覚は、薄いオレンジ色に照らされた白い壁紙と薄茶色の勉強机を映し出していた。

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