高校1年生編

夏休み~2学期始め

Ep.1 -恋人が義姉になりました-

 6月の中旬。梅雨に入り、自然と気分が沈む時期。加えて、梅雨が終われば今度は灼熱がやってくるというのだから、余計に気分が沈む。最近は6月でも暑かったり、逆に寒かったり、気温に振り回されているような気がする。本当にやめてほしい。

「…今日はやけに晴れてるなぁ…」

 放課後、手紙で屋上に呼び出された僕は空を見てそう呟く。今日はそれなりに過ごしやすい気温なのだが、太陽のせいで少し暑い。屋上を吹き抜ける風は少しひんやりとして、暑いのか寒いのかわからなくなる。

 ―――ガチャ、と。

 屋上と階段を隔てるドアが開き、女子生徒一名がこちらに向かってくる。…なにをされるか、一応察しはついている。多分告白される。本当に多分、確証はない。恋愛ドラマよろしく、放課後の屋上。二人きり。コンディションとしてはいいのだろう。よく分からないけれど。

「…えっと、篝音かがりね先輩、ですよね」

「うん。…知ってるんだ。嬉しいな」

「そりゃあ、1年の男子生徒が篝音先輩あなたの話にお熱なので。名前は知ってます」

 2年生の篝音かがりね伶衣れい先輩。女子を恋愛的な目線で見たことはないけど、モテそうではある…のかな?

「ええっと、それじゃあ…早速、本題、入るね」

「はい」

 緊張しているのか、少し篝音先輩の表情が強張こわばっているような気がする。僕も、それにつられて少し緊張してしまう。

 篝音先輩は、すぅ、っと深呼吸をし、意を決したような表情で「私と付き合ってください」と言う。

「はい。これからよろしくお願いしますね」

 僕がそう言うと、篝音先輩は面食らったような顔をした。

「…あの、どうかしました?」

 なんか返事の仕方間違えた?…ん、え、断った方が良かったの?

「え、いや…なんかもうちょっと悩むかなぁって…」

「いや、特に断る理由もないですし…」

「初対面だからとか…ないの?」

「…断ってほしかったんですか?」

「あ、ううん。そういうのじゃなくて…即答だったから、ちょっと驚いちゃっただけだよ。とにかく、これからよろしくね」

「はい。篝音せんぱ――」

「伶衣って呼んで?」

「………れ、い」

 顔がじわぁっと熱くなるのを感じる。

 鼓動が少し早くなる。

「ふふっ…なぁに、彼方かなた?」

「…呼べって言われたから呼んだだけなんだけど…」

「ん~?そんなこと言ったっけなぁ?」

「………」

 僕はジト目で篝音…じゃなくて、伶衣を見つめる。

「あはは、ジト目の彼方も可愛いなぁ」

 僕が今、どんな表情をしたとして、伶衣には全て『可愛い』で片づけられてしまうだろう。

 はぁ、とため息を吐いて、伶衣に「じゃあ、僕帰るから。また明日」と告げて階段から出ようと、後ろを向く。

「彼方、待って」

 と伶衣が僕を引き留める。僕は伶衣の方へ振り返り「どうしたの?」と疑問を伶衣に投げかける。

「恋人のお願い聞いてくれる?」

「まぁ、あんまり疲れないやつだったら」

「ありがと、彼方。大好き」

 そう言いながら、伶衣は僕の肩を掴んで左右に揺らす。

「分かったから。あんまり揺らさないで…」

「えへへ。じゃあさ、一緒に帰ろ?」

 それくらいなら、まぁ。

「じゃあ、帰ろっか」

「うん」



 僕と伶衣が付き合ってから、1か月と少しが経過し、僕と伶衣の通う高校は、つい先日夏季休暇に突入した。今日は母さんが休暇を取れたらしいので家に顔を出しに来た。

「彼方、元気してた?」

「あぁ、うん」

「…それにしても、本当に生活感ないわよね、彼方の家」

「別にいいでしょ」

「まあ、綺麗に使うのはいい事よね。…それじゃあ私はお酒買って来るから」

「本当にお酒好きだね」

「お酒と息子彼方は私の生命線だからね。…そう言えば、私再婚することになったから。もうしばらくしたら、彼方の義父と義姉が来ると思うわ。それじゃあ、いってきまーす」

「…はいはい。気を付けてね」

 再婚の報告はお酒よりも優先度低いんだ。重要な情報再婚をさらっと僕に報告した母さんは、近くのコンビニにお酒を買いに行った。

 僕はリビングに戻り、ソファの上に寝転がる。そのまま何も考えずにぼーっとしていると、インターホンの音が鳴る。

「は~い」

 僕はソファから起き上がり、玄関へと向かう。玄関のドアの覗き窓から外を見ると、伶衣と、伶衣と顔立ちが似た男性が一人。そして、ちょうどそこに母さんが帰ってくる。

「ただいま~」

「おかえり母さん」

「あ、この人が私の再婚相手ね。それでこっちが―――」

「知ってるよ」

「あれ、彼方と伶衣ちゃんは知り合い?」

「…知り合い…というか…」

 僕と伶衣は目を合わせる。そしてその後、母さんに『察して』と視線を送る。

「…あぁ、察したわ」

 理解力が高くて助かった。…まぁ、恋人兼義姉弟だから仲良くできるだろう。多分。そう信じている。

「…じゃあ、そうね。彼方、伶衣ちゃんの荷解き手伝ってあげなさい。それじゃあ、新婚旅行行ってきま~す」

「はいはい、気を付けて。じゃあ伶衣義姉さん、とりあえず部屋に荷物運ぼうか。手伝うよ」

「うん。ありがと彼方」

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