Another Side.勇者達のちょっとした死線
「な、なんだったんだろう?」
「クレイジーイケメンジェントルマンだネ!」
「アップル・マディオ、絶対に見返して――」
「とりあえず他の探求者さん達の治療をしてきます!」
私――
「二千華ちゃん!」
「っ! ここ!」
ほんの少し歪んでいた場所に二千華ちゃんの居合が走る。硬質な音共に彼女の刀は弾かれた。
同時に顕になった敵、狐型のモンスターは隙のできた二千華ちゃんにその牙を剥いた。
私は咄嗟に聖剣を抜き、相手の意識を引きつけて退かせる。師匠から教わったヘイト管理なる技術を活用するため前に出て牽制する。
私とモンスターの睨み合いの合間に二千華ちゃんはサイドに展開して居合の構えに入った。
狐は私と二千華ちゃんに釘付けだ。
〈クルゥオオ!〉
「ニンニン〜」
狐の背後からドロシーさんがクナイを手に強襲した。敵の胸に深く突き刺さる。
同時に私の斬撃と二千華ちゃんの居合も狐を引き裂く。
白い煙となって狐は消えた。
いつもの倒した時の霧散とは明らかに違う。まさに狐につままれたような感覚に陥った。
――直後、私は見えない衝撃波に吹き飛ばされていた。
「カナ!」
明らかにマズイ体勢で宙を舞う私を、ドロシーさんが受け止めてそのまま一緒に転がった。
「――天樹流抜刀術秘奥・琥珀斬り!」
二千華ちゃんの居合が透明な何かに命中し、振り切ることなく途中で留まった。
傷を負ったら透明が切れるのか、姿を再度現した狐は一回り大きくなっていて胴の半分まで彼女の居合で切断されていた。
しかし身の危険を察知したのか二千華ちゃんは刀を引き戻して納める。
少しして狐の周囲に青い炎が湧き上がった。
あまりの熱量に、未だダメージで立ち上がれていない私もたじろいでしまう。
「《聖魔法-エクステンシブリカバリー》」
折れたであろうあばら骨を抑えていると、癒しの光が振り撒かれた。
徐々に癒えていく傷を確認し、私は再び立ち上がった。
彼女がこちらに来たということは他の探求者達の治療は終わったのだろう。
「《光魔法-ライトボール》!」
「俺の槍でケツの穴増やしやがれ!」
「穴はケツに限らねぇだろうが! 《土魔法-マッドショット》!」
探求者達の一斉攻撃が炎の奥のモンスターに命中した。
――静かになった。
不自然なほどに。
「――あは! はははは!!」
人だ。
人型になったのだ。
狐の特徴を持ったまま、モンスターが人の姿になった。
「ドロンするデス!」
「神奈! ここは一度退くよ……!」
ドロシーさんが撒いた煙幕の中、私は二千華ちゃんに引っ張られて狐とは反対側に連れて行かれそうになる。
――ダメだ。
ここで引き下がったらあそこにいる他の探求者達は死ぬ。今も炎の中で
あの威圧感は師匠がノッてきた際に微かに漏れ出るものに近い。
師匠とどちらが上とかまではあまりに遠い存在なので分からないが、私が勝てる相手ではないことは確かだ。
「……私が引き付けている間に他の皆さんを連れて近場の避難所まで向かって!」
「カナ!? 何言ってるノ?」
「…………神奈、それなら私も」
二千華ちゃんが自分も残ると言い出した。
私は首を横に振ってそれを制する。
「大丈夫、これでも勇者なんて言われてるから。それに退避中に強力なモンスターに襲われたら二千華ちゃんの火力は必要になるかもしれないからね」
……嘘だ。私がここで残るより総力戦で戦った方がまだ合理的だ。私が倒されてもモンスターが逃げ出した探求者達を追いかけないなんて楽観的な思考はできないから。
別に勇者として強敵に挑もう、何とかなるだろうなんて考えでは無い。
――もっと馬鹿な考えだ。
渋々といった具合でこの場に私と人型のモンスターだけになったのを確認して、私は少し笑いながら聖剣を構えた。
「あんな強い師匠の弟子として、負けっぱなしは師匠に合わせる顔がなくなる。死ぬ気で挑ませてもらうよ!」
自分の命をベットして、弟子としての
「――――いーびるさまの、みこころ……けものふぜー」
「?」
様子がおかしい。
というかなぜモンスターがまともな言語を使えているのか。
「…………ぁ」
モンスター? は突然夕焼けに染まり始めた空を見上げる。その細い瞳孔がさらに細まり、狂ったように笑い始めた。
「ははっ! 突然変異? 神? 知らない。私は、私は誰にも必要とされていないの? どうしてこんな場所で、私は……」
そのモンスターと思えないほど流暢に話す狐耳と尾を付けた人が頭を抱えると、地面から青い炎が噴き出した。
「《妖術-蒼炎地獄》! 全部、全部燃え尽きてしまえ!」
「それは見逃せない――!」
できるだけ炎の薄い場所を通って接敵した。
全身が軽度の火傷になりながらも、隙の大きくならない振りで横に薙ぐ。
それは難なく後方にジャンプで躱されたが、私は距離を離されたくないので追撃に迫る。
積極的な頻度で消極的な振りの攻撃を打ちつける。
「《妖術-蒼炎連撃》」
「はああああ!!」
お返しとばかりに青い炎が連続的に叩き込まれる。私は散々師匠に教わった
「格上相手の戦い方の基本、その1! 死ぬ気で死なないように防御に集中!」
剣を持つ手を離して切り返しを速くする。
遠距離攻撃主体の相手には自分の間合いは保ちつつ可能な限り近付く。近くて対処できない攻撃は重心を後ろに動かして逸らす形で受け流す。
「《妖術-蒼き天井》」
視界を埋めつくすような巨大な青い炎の玉が出現し、私に降りかかった。
「はああああ!!」
聖剣がいつもより光り輝く。
大胆に斬り上げ、敵の攻撃を真っ二つにした。
そして即座に着地し、火傷まみれの全身を必死に稼働させて剣が届く距離まで詰めた。
「その2! 大技に隙があったら死ぬ気で狙え!」
人型ではあるが、相手はモンスターだ。
とっくの前にゴブリンとも戦っているから今更葛藤なんてしない。いや、もしかしたら私は必要とあらば人間相手でも剣を向けるだろう。
「――チクってした」
「なっ!?」
首に向かって斬ったのに、硬すぎて薄皮一枚斬った程度に終わってしまった。
私が驚いているところに、相手の技術もへったくれもない力任せのパンチが腹部に突き刺さった。
「うぐぅあっ……!」
「燃え尽き……あれ、これは燃料切れ? 妖力ってやつが無くなったのかな。まあいいやどうせ放っておいても燃えるし」
地面の青い炎に呑まれていく。
離れていく人影に向けて、ずっと手放さないでいた聖剣を――
「……その3、突拍子もない行動が大事」
相手の9つある揺れる青い炎のようなしっぽに投げつけた。
そのうちの1尾に命中し、しっぽは8つになった。
「死にたいんだ? なら今すぐ殺してあげる」
怒りの表情を浮かべた金色の髪の人型モンスターはその鋭い爪を私の首めがけて振るった。
これは死んだ。
ごめん、皆。ごめん、借りを返せなかった佐藤君。ごめんなさい、師匠。
心の中で死を悟りながらも、這いつくばったままの私は無意識のうちに相手に攻撃しようと焼けただれかけた手を強く握っていた。
「――――よくやったな、
音もせず、爪は剣に受け止められていた。
「流石は俺の弟子だ。まだまだ修行は足りないが、お前さんは間違いなく勇者だろう。俺が保証してやる」
今1番欲しい言葉を優しく投げかけられ、私は青い炎に包まれたまま意識を手放した――――
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