ヤンデレ属性のモンスター系ペットはモフモフで可愛い

 



「――流石は俺の弟子だ。まだまだ修行は足りないが、お前さんは間違いなく勇者だろう。俺が保証してやる」


 〈013.ヒーローポジションの師匠として、弟子の勝利を褒めてあげる〉、完了だ。


 俺はぶっ倒れている霧野きりのに優しく語りかけた。どうやら気絶したようなので、ように抱きかかえる。


 俺は何故か呆然としている人に変化したモンスターを視界に入れながら、軽くジャンプした。


「どっ……せい!!」


 思いっきり地面を踏む。

 すると青い炎は着地で発生した風圧で霧散していった。周囲の瓦礫もまとめて結構遠くまで吹き飛んだから、霧野を抱っこしていて正解だったな。




「さて、救援も来たし場所を変えようか」

「……っ! 《妖術-小蒼炎花》!」



 我に返った暫定モンスターが枯渇したを振り絞って攻撃してきたが、大したことないので無視する。



「よぉ、アーラ・リーリナ。昨日ぶりだな、傷はよくなったか?」


「…………休んでたけど押し寄せた探求者全員が土下座してきた」



 それはお気の毒に。

 彼女は人型モンスターを一瞥してから俺と見比べ、何を得心したのか霧野を片手で受け取った。

 脇に抱えて送ってくれるらしい。


 俺はアーラ・リーリナと別れ、余力の無い人型モンスターの頭に手を置いて転移した。





 場所は――京都ダンジョンの36階層。

 ショートカットしてペナルティとしてのモンスターが現れた場所だ。


「俺は……さっきの剣士の師匠だ。消耗しきったお前さんでは万に一つも勝てる相手じゃない」

「……ッ!」



 なぜ女性の姿なのか、どうして人格を獲得したのかは分からないが、こいつが何者かは察しがついている。

 人の姿になったときにEvil様とか獣風情とか言っていたのだ。そのセリフを覚えているということは、こいつがダンジョンのショートカットした際にペナルティで現れた狐のモンスターである証左に他ならない。


 要するに、本来は正式ルートで京都ダンジョンに出現するかも不明なモンスターを、例の水晶で呼び出し何らかの要因で人型になる進化を遂げた時に微かに前世的な記憶が蘇った。そして神から「本来意図されていない」だとか告げられて、自身が不要だと思い至り自暴自棄のまま暴れだしたってところだろう。


 まぁこの程度の推論、冷静に頭を働かせられれば誰でも考えつく話だ。大事なのはこれからのこと。彼女をどのように扱うかだ。




「ふむ……人じゃなくてコンパクトな狐になれたりする?」

「? 一応できると思う……《妖術-変化》」



 ミニサイズの狐になった。かわいい。

 でも尻尾がボワボワ燃えてる。

 おそらく素直に従ってくれているのは生殺与奪の権を俺が握っているからだろうし、もう少し要求してもいいか。



「尻尾もモフモフにしてくれ」

「し、仕方ないな……」


 さらにドロンと変化した。パッと見完全にただの狐だ。直接見たことないから知らんけど。


「よし、モフモフで可愛いし君は俺のペットにしよう!」

「ペット!?」



「おっと、俺はMr.Evilであり――佐藤幸樹とも言う。姿に合わせて呼び方も変えてくれ」


 Mr.Evilモードを一度挟んでから元の姿に戻る。

 この狐と一緒に行動するのはEvilと佐藤幸樹としての時だけにするので、今は混乱も避けるためそれだけ覚えさせる。



「……私は誰にも必要とされていない異分子。人に飼われるくらいならモンスターとしてここで潔く死ぬだけ。残念だけど、名前を覚える気は無い!」


 そう言って彼女は人型に戻り、素手で俺の胸を貫かんと迫った。俺はそれを逸らして腕を腋で挟み、抱き締めた。背中に回した手で頭を撫でる。

 あくまでも優しく包み込むように。



「――俺には君が必要だ」


 耳元で囁く。




「人の姿に進化したのはなぜだ、人の言葉を使えるようになったのはなぜだ。君は、俺と……俺達と一緒に来たかったんじゃないのか」

「……っ」



「楽しそうな人間達の夢を見て、退屈の底で憧れて、その手を伸ばしたんじゃないのか」

「私、は……」



「もう一度言う、俺には君が必要だ。モンスターとか人間とかそんなくだらない価値観なんざ捨てろ。他でもない君が居れば俺の心は豊かになるんだ」



 主にモフモフ的な癒しの意味で。

 うちは一軒家だし、何とかなるだろう。


「私が必要――」

「お、おう……」


 チラッと彼女の表情を窺ってみると、澄み切ったハイライトの無い濁った目をしてガンギマリ笑顔を浮かべていた。

 澄んでるのか濁ってるのかよく分からないが、そのままなのだ。純粋な倒錯を感じる。


 ……何か、大丈夫かな?


「コホンッ! ともかく!」


 俺は抱擁をやめて彼女の両肩に手を置いた。

 残念そうに口を尖らせている。


「これからは俺のペットとして生きてもらう。異論は無いな?」

「はい! ご主人様!」


 なんか急に従順だな。

 ちょっと口説き落とそうとは思っていたが、流石にチョロくないか? ま、まあペットが懐いてくれる分にはいいか。


「とりあえず佐藤幸樹のペットの時は“コン”としか喋っちゃダメだぞ。Evilのペット、俺らの組織〖愚者の寓話フールフェブル〗のマスコットの時は尻尾を炎にして喋ってよし。あと俺や仲間の情報は誰にも漏らすなよ。俺はお前を信頼しているからな」


「コン、いーびるのときは喋っていい、情報は話さない……分かりました!」



「よし、じゃあ狐の姿になってくれ。今はタイミング的に難しいし、一度〖愚者の寓話フールフェブル〗の拠点に連れて行って、また後日うちに連れて行くからな」

「はい!」



 理解力のあるペットっていいな。

 あ、ペットと言えば名前も決めないとな。



「うーん、君、何か名前の希望とかある?」

「名前? ご主人様のつけるものならなんでも!」


 んなこと言われてもなぁ。

 ここは中二病知識を総動員させ、かっこいい単語を脳内検索しないと。


 まずは《伯楽はくらく》で彼女の特徴を拝見。



 ========

 種族:Ⅵ.九尾の狐

 個体名:――

 性格:偏愛・狂乱

 特殊技能:《妖術》《蜃気楼》《九尾》《天啓》

 ========



 ツッコミどころはいくつかあるが、今はスルーするとして。


 おそらく元は伝承の影法師(妖怪)の九尾の狐だったのが、進化的な何かで正式な九尾の狐に成ったのだろう。その影響で「Ⅵ」、つまり第六段階級になったと。その割には霧野相手に苦戦していたが、まだ生まれたばかりの赤ちゃんだし戦い方をちゃんと教えればまだまだ強くなれるかな。


 〖愚者の寓話フールフェブル〗に預けている間にウンさんに戦闘技術を、キャンディちゃんに《魔法》に近い《妖術》を教えさせればそれなりに仕上がるはずだ。

 あまり戦闘の作戦に組み込ませる気は無いが、いざという時の保険はいくつあってもいいからな。


 ――と、話が逸れた。名前のことだった。

 九尾……からは安直だしの《妖術》を多用していたし、そこからつけるか。

 待てよ? 意外とそのままでも一周まわってオシャレかもしれないな。



「ソウ、でいいか?」


「ソウ! ソウはソウです!」



 よく分からないけど気に入ってくれたのならヨシ!

 多分どんな名前でも気に入ってくれたとは思うけれども。


 ========

 種族:Ⅵ.九尾の狐

 個体名:ソウ

 性格:偏愛・狂乱

 特殊技能:《妖術》《蜃気楼》《九尾》《天啓》

 ========




 ちゃんと名付けに成功したのを確認し、俺はソウを拠点に送ってから東京の避難所のテントに転移した。




 ▽▽▽



「ほぇ〜」



 なるほど、キツネは飼うのに手続きやら何やらは要らないらしい。

 生態的には単独行動が好きだがパートナーと一生を共にする生き物らしい。要するにあのヤンデレっ気は狐本来の習性ということだ。そのため本来人間と仲良く過ごすのは難しいらしいが、ソウは普通の狐じゃないからな。


 しかし、野生の狐ってことにすると鳥獣保護管理法に抵触してしまう。今更法律を気にするのかと我ながら思うが、佐藤家の一員にするにはある程度ちゃんとしなきゃだから……加藤に頼んで口裏合わせてもらうか。あいつの家は特殊だし引き取ったとか言えば何とかなるだろう。



「幸樹何見てるのー?」

「そうですよ。病み上がりの人にスマホは悪影響だと思います!」


 ――東京からの帰りのバスに揺られながら窓にもたれかかって、春風さんから借りたスマホを弄っていると、隣の乃愛とその隣の委員長に興味を持たれた。

 このバスは定期的に出ているらしく、他の探求者もあまりいないので最後尾の広い席を独占中だ。

 少しくらいうるさくしても問題ない。



「いやー、家族を増やす方法?」


「幸樹のえっち!」

「の、乃愛ちゃん、私聞いたことあります!」



 適当にはぐらかしたら、委員長は何を思ったのか乃愛を手招きして俺の居る反対側の窓側に身を寄せあってコソコソと話し始めた。



「死の淵に追いやられたことで本能的に子孫を残そうと発情することがあると……」

「つ、つまり今幸樹は私達を襲うかもしれない

 ……!?」


「はい、しかしここは人が少ないとはいえ衆人環視の場です……」

「た、確かに他の人の前であんなことやこんなことなんて、恥ずかしいね……」




 人を発情期の獣扱いすんなよ。

 恥ずかしいのは君達の頭だよまったく。



「――それにしても、下地は整ってきたな」



 女子会議をよそに、ネットのニュースを眺めて俺は呟いた。読んでいるのは、「東京の人災。緊急時に備えるためダンジョンでモンスターを狩る義務を設けた国も」というものだ。

 この風潮が下火にならなければ日本もダンジョン探求を推奨する制度がそのうちできるかもな。ちなみに最初に探求者協会への登録を義務付けた国は中国だ。おそらくウンさんの根回しがあったのだろう。そこを皮切りに各国が続いている。


 一体うちの組織はどこまで手を伸ばしているのか。一応ボスなんだけど、たぶん俺なら言うまでもなく知ってるやろの精神で報告してないことだらけなんだろうな。現状そこまですれ違いが発生したりはしてないから勝手に手伝ってくれる分にはいいけどさ。


「満足満足」



 俺は突発的な襲撃イベントの成果に大変満足し――



「なんかスッキリした顔になったよ……もしかして1人でこっそりしょ、処理を!?」

「たぶん違うと思いますよ。もしそうなら、幸樹君はそ、そ、そうろ……ということになりますし」



 お前ら一回黙ろうか。

 半端な知識で俺を早漏扱いすんなし。

 言い返すのも面倒だし、俺は借りたスマホを切って狸寝入りすることにした。


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