中位探求者パーティーまであと1歩
俺は《解析》を使う。
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【
衝撃を吸収し、その力を強めて反射する。
使用者制限
:希望を宿し続ける者
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期待以上の性能だ。
薄々感じていたが、
世界が人の願望に応えている……的なね。
まあ今気にすることでもないか。
「とりあえず乃愛が使えるか適当に触りながら地上に戻るぞ」
「多分使えると思うー。なんとなくだけど」
そう言って装備してから元気にブンブン振っている姿は、新しいおもちゃを手にした子供そのものだ。
それなりに体力も回復したのか、委員長もその様子を眺めている。
「おいこらクソガキ。何が起きるかも分からんまま振り回すな」
「幸樹君の言い方はともかく危ないのは事実です。モンスターに向けてやりましょう」
「ほーい!」
テンション上がってはっちゃけてるな。
この調子だと落ち着くまで結構戦闘しないといけなさそうだ。
ボス部屋から出ると、先程まで押し寄せていたモンスターの大群は片鱗も残さず消えていた。
トラップの効果が切れたのだろうか。
あるいは呼び寄せるトラップにモンスターの意識が向いてそっちに集まっている可能性もある。
どの道、挟撃にならないなら現状の戦力でも問題ないだろうし来た道を戻るだけだ。
しばらく進むと、ゴブリン三人衆と遭遇した。
5階層では典型的な群れ。剣と盾を扱うソルジャーゴブリン、槍を扱うランサーゴブリン、魔法を放つメイジゴブリンの3体だ。
中々道理にかなった連携をしてくるので、一般的な探求者にとっては油断できない相手である。
〈《ギャグィ》!〉
早速開幕にメイジゴブリンによる火魔法が放たれた。
「乃愛!」
「はーい! ん〜……パリィ!」
いつも通り盾で防――あ、今のこいつの盾、反射するんだった。出力の増した炎が俺の方に飛んで来たので咄嗟に伏せて躱す。
……事前に《解析》してなかったらバッチリカウンターのフレンドリーファイアを浴びてたな。
「わわ!?」
「その
「危うく髪の毛がボサボサになるところだった……
ホルスと出会った時しかり、炎とは縁があるのだろうか。あんなのただの風圧で消し飛ばせるから特に効果は無いと思うんだがなー。
「っと、まだ戦闘中だったな」
ソルジャーゴブリンが俺に剣を振ってきたが、手の甲で逸らして相手のバランスを崩す。お返しに頭部に蹴りを入れてやる。ちゃんと倒してしまわない程度に調整も忘れず。
そして追撃に来ていた槍のやつも武器を蹴り落としてから手の甲でビンタして怯ませる。
「いんちょー」
「《水魔法-トリプルアクアランス》」
この半日で“ランス”に捻り方向の指向性を染み込ませ、“スパイラル”の部分の省略に成功した委員長の魔法が、3体のゴブリンを貫いた。
――ここだ!
俺はモヤに紛れて1番近くに居たソルジャーゴブリンのドロップ品、指を即座に回収、そのまま【
それはともかく、ゴブリンの指と差し替えて拾った風に装ったのが、こちらの籠手。
「げっ、何か出たんだが……」
「おほー! 連続シカスケじゃん!」
「これは
流石に俺は乃愛と違っておこちゃまなキャラでやっていないので、協会の解析に回してからでいいと帰還を優先することにした。
実際、酔っ払いにしか効果の無さそうな性能だし試す程のものでもない。
▽▽▽
無事地上に戻る頃には15時になっていた。
行きはボス戦が避けて通れなかったので帰りが早いのは当然として、
手続きといっても所定の書類に記入して
「いやー、今日は疲れたねー」
「ダンジョンに入れる期間が少ない分濃密にしないと退屈になるからなー」
カフェスペースで駆けつけ一杯、乃愛はコーラ、俺は紅茶を嗜んでいると、コーヒーを手にした委員長も合流した。
「どうだった!? 何万!?」
「こらこら、乃愛。あんまりがっつくと金に意地汚いというレッテルを周囲に貼られちゃうだろ。同じ場所で活動する以上慎ましくだな――」
俺の説教を無視して、俺と乃愛の
「合計で約9万、一人3万くらいです」
「ひぃ……労力に見合ってないよぉ」
泣きつく乃愛を無視して、協会公認で買った装備含めた出費と比較してどれだけの装備の交換期間も踏まえた上での必要な利益を計算する俺と委員長。
実は探求者協会が販売している装備品はかなり値が張るのだ。それだけ敷居を高くすれば無理に危険を犯すことはしないだろうという判断なのだろう。そして公認の装備を身につけていないと、一部例外を除いてダンジョンに入ることはできないのだ。
「このペースで1ヶ月くらい損耗を抑えて……いやでもボスの復活も無いしより深く潜るから装備は損耗必至か?」
「どうでしょう……私達に不要なスキルオーブか
そんな取らぬ狸の皮算用の話し合いをしていると、不意に委員長にしがみついていた乃愛が立った。そして手を振りながらトテトテと小走りでどっかへ行ってしまった。
その先には――霧野達、勇者パーティーが居た。
「やっほー! 霧野さん!」
「えーっと……確か塩波さん?」
霧野とはあまり面識も無さそうなのに話しかけに行くとか、これが運動部のノリってやつか。なんて恐ろしい!
「あっ、佐藤君……どうも。それと…………夢川さんだっけ?」
「おっす」
「初対面な気はしますが夢川で合ってます。夢川
え、初対面なの?
霧野って同学年全員の顔と名前暗記してるタイプの人? 新手の卒業アルバムか何かかな?
「はじめまして! ミーはドロシーだよ! ドロシーでも、鈴木でも、ハンヴァーガでもウェルカムよ!」
「
「……
これは一癖も二癖もあるメンバーだな。
挨拶してくれた順に、ハーフのクセにエセ英語を使う陽キャ、天使のような聖女、クールな侍女子ってとこだろう。
侍女子こと天樹さんは逃げるように立ち去ろうとする。
彼女を見た委員長が何か言いたげに手を伸ばしかけるが、思い直したようで引っ込めた。
はとこの関係である2人には何か因縁があるのだろうか。
俺は乃愛が霧野とじゃれているのを確認してから、ゆっくりと紅茶を啜る。
「ユーの名前、聞いてないゾ!」
「あ、はい。俺は佐藤幸樹です。んであっちのアホが塩波乃愛っす」
座ってる俺の肩にいきなり腕を回してきたドロシーさん。
これがアメリカンディスタンスですか!?
横乳がもにゅっとしてるんですが、これがデフォのアメリカンディスタンスですか!?
若干動揺して紅茶のカップを持つ俺の手が震える。
「ドロシーさん、ご迷惑ですよ。離れてください」
「えー」
――俺の震えるカップより揺れてるカップが視界に突如現れた。
「節子、それただのカップやない。Hカップや」
「え……?」
「残念! マリアのオパーイは
――ブフォッと典型的な吹き出し芸をかましてしまうところだった。何とか紅茶を飲み込む。
周りで聞き耳を立てていた男連中はチラチラと不躾な視線を向けたり、少し前かがみになったりしている。
やはり大人の色気は偉大だ。いつも冷静な俺でも“佐藤幸樹”として相手どる場合は動揺してしまった。
加藤も大人になれば俺をたじろかせることとできるかもしれないな。頑張れ加藤。
「なるほど、これが勇者パーティーの連携と破壊力か……」
「HAHAHA! コーキ、面白いやつだね! ミー、結構気に入ったよ! ハーレムパーティーやってるだけあるねぇ!」
「ちょっと、ドロシーさん。流石に失礼ですよ」
……ふむ、傍から見ればハーレムパーティー、横にはアメリカンNINJAの横乳、正面には聖女の清楚さとは何処へと言わんばかりのIカップ。
あぶねえ、これで侍女子と勇者が参戦してたらビンゴで世の中の男から滅多刺しにされるところだった。
「とりあえずこれだけ言っておこう。――ご馳走様です! 痛ッ!?」
役得に感謝していると委員長が脛を全力で蹴ってきた。それに彼女の見下すような視線が痛い。うん、この辺が引き際みたいです。
委員長、俺は美乳派だから安心して欲し――痛い!
心の中を読まれたのかと思うようなタイミングで脛に追い撃ちしてきた。マジでこれ以上は俺の脛と心が保たない。
俺は周囲の誘惑を振り払って立ち上がる。
ちなみに我が息子はちゃんとおねんねしている。肉体の制御くらいマスターしないと人間の限界なんて超えられないからな。
「委員長、帰ろうか」
「そうですね。乃愛ちゃんは……」
いつの間にか隣の席に座っていた霧野――の膝を枕にしている乃愛。
この短時間で完全に手なずけてやがる!
霧野も困惑しながら頭を撫でてる。
あ、霧野と目が合った。
どうやら乃愛を回収して欲しそうにしている。
「……置いてこ」
「……置いていきましょう」
「え? え?」
その言葉に困惑している霧野。
すまんな、そいつの面倒が大変なのは幼なじみの俺が1番知ってるんだ。押しつけられるならそうしたい。
縋るような視線を向ける霧野、彼女の膝でヨダレ垂らしながら眠りそうになっている乃愛、またねーと手を振るドロシーさん、慎ましく小さく手を振るマリアンナさん。
愉快なメンツに乃愛を押しつけ、俺と委員長はのんびり帰路についた。
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